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シン・探偵小説としての『蒼海館の殺人』

(注意:『紅蓮館の殺人』および『蒼海館の殺人』のネタバレを含むおそれがあります)




 諸事情で読み進められていなかった『蒼海館の殺人』を読み切った。

 『蒼海館の殺人』という作品について軽く(あまりネタバレのない範囲で)説明する。

 本作は『紅蓮館の殺人』の続編であり、『紅蓮館』の事件によって探偵としての完全敗北を喫したかつての高校生名探偵・葛城に逢うために、同じく事件によって精神を病んでいった同級生にして語り部の田所が彼の実家(地元の権力者の館)に向かうが、運悪く超大型台風に巻き込まれ大水害が迫る中、館では連続殺人が巻き起こる。

 ミステリ界隈では絶賛され、年末の各種ミステリランキングでもライト文芸作品としては異例の上位に食い込んだ本ですが、ストーリーとしては『紅蓮館』の直接的続編なので『紅蓮館』を読んでない人はまずそっちから読んでください。


 それで、読み切ってどうだったかというと、「葛城と田所が救われて良かった~~~~」と思った。

 『紅蓮館』で「探偵」の限界を突きつけられ、壮絶なバッドエンドを迎えて心が折れていたふたりが、逆に「探偵」の可能性を再び信じられて前向きになる結末を迎えられて良かった。本当に良かった。


「探偵」として真実をつまびらかにすることは、罪深く傲慢である。


 これが『紅蓮館』で描かれたテーマであり、探偵小説そのものが孕む大きな問題のひとつでもある。

 しかし、『蒼海館』ではこの問題に一つの答えを出し、二人は再び立ち上がり、全ての事件を仕組んだ「蜘蛛」と対峙する。

 それは葛城の過去とも向き合い、乗り越えることにも繋がってくる。

 本作の発売はシンエヴァ公開の一か月前だから影響を受けたわけでは絶対に無いだろうが、シンエヴァを観た後に読み切ったので

 後半がシンエヴァじゃん!!!!!

 と思った。

 精神崩壊寸前まで言ってる前半の主人公のメンタルとか、後半の怒涛の立ち直りとか、田所のとんでもないやらかしとか、ラスボスとか「シンエヴァじゃん!!!」と思いながら読んでいた。

 これは偶然の産物というか、「全てのエヴァンゲリオンを救う」「全ての探偵存在を救う」コンセプトが被ったのだろう。

 そう、『紅蓮館』が全ての探偵存在を否定する物語だとすれば、『蒼海館』は全ての探偵存在を救うシン・探偵小説なのである。

 大水害というカタストロフィが殺人事件と並行して描かれているのもそうだし、ラスボス戦が葛城の過去に肉薄していくつくりなのも、全ては前作でめたくそに否定された「探偵」という概念を救い出すためだったのだ。

 だから『蒼海館』を読む前には、超絶悲惨バッドエンドの『紅蓮館』を読まなければならない。

 ちょうどエヴァQとシンエヴァが相補関係にあるように。

 しかし、葛城と田所の物語は終わらない。

 続編予定があるからだ。

 さらなる試練と謎が降りかかることになる二人だが、『蒼海館』で過去と向き合い、「名探偵」として再起したなら必ずや乗り越えられるだろうと信じてやまない。


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