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両片思いすれ違い青春恋愛ミステリ『僕らは『読み』を間違える』を読んだ

 第27回スニーカー大賞において「銀賞」を獲得した『僕らは『読み』を間違える』を読みました。

 青春ミステリということで発売前からミステリ与太勢マニアの間では大賞以上に注目を集めており、あの『GOTH』『ウルトラマンジード』の乙一が帯文を寄せ、スニーカー文庫の学園ミステリの先輩である古典部を強く意識するなど、ライト文芸を志向する作品となりました。

 公式サイトのあらすじを読む限りだと、学園を舞台に有名文学作品にちなんだ日常の謎を解いていくアユミス(鮎川哲也新人賞受賞作でよくありがちなミステリ)っぽいのですが、実際に読んでみると学園ものビブリオ日常の謎はあくまで傍流であり、主テーマは高校生達の複雑な恋愛にあります。
 主人公である読書家の竹久優真を中心とした男女7人の入り組んだ両片思いすれ違い恋愛模様が繰り広げられるのです。

 だったらそれはミステリではなくないか???と思うかもしれませんが、序盤~中盤にかけての伏線を回収しながら大混線した恋愛関係に各々が答えを見出していく展開は紛れもなくミステリのフォーマットを踏襲しているといえます。
 ラノベミステリの大御所である桜庭一樹御大も「恋愛はミステリである」と言っているので、ミステリ! これは完全にミステリです!

 本作の魅力は、青春恋愛をミステリのフォーマットに落とし込む構造的面白さのみならず、一筋縄ではいかない登場人物の造形にもあると思いました。
 最初は「陰キャの読書家」「明るく人懐っこい少女」「クールな美少女」「リア充のイケメン」「腐女子」というように表面的なイメージが割り振られているように見えるのですが、読み進めていくうちにそのイメージがひっくり返されるような複雑な人物造形がなされているのです。
 それぞれに差し引きならぬ過去を抱えた登場人物達が、両片思いですれ違いを繰り返しながら恋愛という謎を解き明かしていく展開はとても引き込まれました。

 あと、これは男男巨大感情勢向け情報ですが、「実は体育会系で素が出ると一人称が『おれ』になって喧嘩早くなる男」と「実は体育会系ではなく、すれ違いに傷つく繊細な男」が互いにリスペクトしあう奇妙な関係になります。よろしくお願いします。

 ……というように、担当編集が異様に擦る古典部よりは『ハルチカ』や『マツリカ・マジョルカ』に近い作品といえます。

 惜しむらくは序盤の小学生みたいな下ネタが寒いのと、文学作品の与太考察パートは多分ミステリ与太界隈しか喜ばないかなり人を選ぶところです。
 後者は最後まで読むとなんだかんだで「ちゃんと大筋に関与していたな~」となるのですが、小学生みたいな下ネタははっきりいってノイズなので……。
 特に序盤は下ネタと文学与太が大半なので、そこで心折れずちゃんと最後まで読んでほしい!と思いました。

 全体的にクセの強い作品で、メディアワークス文庫でよくありがちな学園ほっこりミステリを期待して読むと「なんだこれは!」となるかもしれませんが、逆にミステリの概念を破壊されているメフィスト賞とか読んでる層には大ウケすると思います。
 続巻も予定されているとのことですが、個人的には絶対の絶対に講談社タイガか星海社FICTIONSでなにか書いてほしいという気持ちになりました。
 恋愛小説でありながら、コアなミステリ魂をその身に秘めた「生意気な新人が現れた」といえる作品なので、特に新本格ミステリに耽溺するオタクには手に取っていただきたい逸品です。
 


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