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今、ここのブーム しげる『アメトイブームはどこへ行ったのか』

 90年代に起こったブームの一つに、アメトイブームというものがある。
 ブリスターに入ったスポーンやスターウォーズのフィギュアを血眼で買い集め、コレクションすることがオシャレでイケてる行為として捉えられた時代だった。
 色違いとかバージョン違いとかの差異(バリアント)が人を熱狂させ、「激ヤバ即ゲット」という言葉の元に人は苛烈な争奪戦に身を投じていった。
 自分は当時子供だったため、このアメトイブームをあまり経験できなかった。
 流行っているらしいというのは知っていても、いかんせん1000円2000円するフィギュアは子供には手が届きにくい代物だったため、当時の熱狂からは一枚隔絶されていた。
 あの熱狂はいったいなんだったのか。
 それをインタビューの形式で掘り下げていき迫っていくのがこの『アメトイブームはどこへ行ったのか』だ。
 この本は「アメトイブーム」なるものを体系的にまとめてはいない。代わりに、販売代理店、ショップ、出版社、そしてメーカーの人間による証言を辿ることでアメトイブームとはいったいなんなのかが見えてくる。
 いきなりアメリカに行かされてアメトイを何万個も仕入れることになったとか市井のマニアを探してバリアントを全網羅したとか当時の狂騒的エピソードも去ることながら、驚かされたのはアメトイを通して90年代のサブカルの地理図が浮かび上がってくるところだ。
 アメトイというからには、感度の高くショップが乱立していた都心部と販売元のアメリカのキャッチボールかと思いきや、肝煎りで玩具の生産拠点となっている栃木県やアメトイを生産する中国が根深く絡んでくるのだ。
 特に中国に関してはアメトイブームの裏の舞台といえよう。
 このブームの裏舞台となったがために中国は現在のホビー業界で強烈な存在感を放つようになるのだが、それはまた後で。
 日本のメーカーとして海洋堂の宮脇センムも顔を出している。
 そこで語られるのはアメトイおよびそれを収集している層への非常に複雑な感情だった。
 海洋堂は強烈な職人気質というか旧来のオタク気質で、モールドペラペラでゆるい造形のオールドケナーのスターウォーズフィギュアなどやそれをファッション感覚で集めるユーザーは鼻で笑っていたのである。
 そんなものだからアメトイブームに関してもかなり冷ややかな態度を取っていたが、それを一変させたのがスポーンないしその販売元であるマクファーレントイズである。
 スポーンのフィギュアのクオリティを認めた海洋堂は北斗の拳やエヴァをもってしてアクションフィギュアへ参入し、それが今のアメイジングヤマグチへと至ることになる。
 90年代のアメトイを語る上で欠かせないのはやはりマクファーレントイズを立ち上げたトッド・マクファーレンである。
 今で言う奈須きのこクラスの時代の寵児であった彼のフィギュアはアメトイというジャンルを切り拓き、ブームを起こし、そして終焉させた。
 その終焉のきっかけとして再三語られるマンガスポーンだが、今の感覚からするとたった一作でブームを終わらせられるのはホンマかいなと思うかもしれない。
 ただ、近年でもズヴィオショックやバーザムショックといった一作で業界を激変させてしまう事態が起きることはホビーの世界特有の面白さであり、そして恐ろしさでもあるのだ。
 そんなマクファーレントイズも現在ではアメトイ業界で押しも押されもせぬ重鎮として定着している。
 本書でさんざ語られるバージョン違い商法も相変わらず健在だが、最近のマクファはこれをコスト削減策として用いているようで要は無塗装品をレアアイテムとして混ぜており、正直コレクターからは嫌われているという90年代当時とは逆の現象になっている。

今のマクファーレントイズは「DCマルチバース」や「ページパンチャー」といった7インチ(1/10スケール)フィギュアを中心に販売している。もちろんスポーンも精力的に販売されている。

 大人が血眼になってレアアイテムを奪い合い、フィギュアをトレーディングカードのようにコレクションするアメトイブームは時代の徒花だったのか。
 直接的な影響として本書では日本におけるフィギュアのクオリティアップや「大人が買うマスプロダクツ」としてのおもちゃの意識改革などが挙げられているが、ユーザー精神的な面では2020年代における第2次ガンプラブームは90年代アメトイブームの再奏ではないだろうか。
 再販予定リーク動画の示す再販ガンプラの「レアリティ」に踊らされ、予約開始日の14:00に大勢の人間が通販サイトへ押し寄せ、ガンダムベース限定品に狂乱し、新商品発売日の家電量販店に大行列ができる今のガンプラ購入の様相は、良くも悪くもアメトイブームと地続きだろう。 
 また、2024年に入ってからのマーベルレジェンドの争奪戦の激化、AKEDOのヒット、そしてスネイルシェル・La+・POPMart・アンティーユといった中華ホビーメーカーの台頭など海外トイ自体も変動し続けている。 

現在の中華ホビーの台風の目と言われているのが、トレーディング形式のアクションフィギュア、いわゆるブラインドドールである。1体3000円程度で販売され、そのリーズナブルさから多数の新規メーカーがクラウドファウンディング形式で製品を発表し続けている。

 アメトイブームは一過性の徒花では決してない。 
 形を変えながら現在進行形で起きている現象だ。
 だから、この本は過去を懐古するものでは決してないと思う。  
 今、ここで起き続けていることと根深く繋がっているのだ。

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