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生産性と賃金

生産性というワードを最近になってよく聞く。どうやら菅義偉のブレーンがデービッド・アトキンソンらしく、彼の言う政策が実現されるのではないかと危惧されている。

ここでは、アトキンソンの主張をまとめ、それに対する反論ではないが、スウェーデンモデルと戦後の生産性インデックス賃金について思索する。


アトキンソンの主張

アトキンソン氏によれば経済成長は人口増加と生産性の向上、この二つの要因であって今までの経済成長は人口増加モデルであった。しかし、日本は人口減少、高齢化の流れは止められない(量的緩和などのインフレ策がうまくいかなかったのも人口減少だったからという)なので生産性の向上によって経済成長しようという主張である。生産性の向上を促す目的は他にも、国の借金問題の解消(これは対GDP比で財政状況を判断しGDPを増加させて解決しようという考え方)社会保障制度の維持と充実のためだという。

量的緩和の説明があったがフィッシャーの交換方程式を持ち出して案の定マネタリーベースとマネーストックを混同している。だが、マネタリズムに関しては疑問があるようでインフレ率は金融政策だけで決まらないと述べている。真の要因は人口増減らしい。

人口減少によって需要低下、市場が縮小するため生き残りをかけた企業間の競争は激化する。日本の企業がとった生存戦略は価格を下げて他の企業の体力を奪い倒産に追い込む戦略らしい。企業はこの戦略のために最大のコストである従業員の給料を下げてきた。

金融緩和では個人消費の喚起にはつながらず、株価を上げるなどの効果しかもたらさない。個人消費を増やすためにはまた別の政策が必要でそれが「賃上げ」だという。


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賃上げをして生産性向上させることだという。

生産性の向上の条件はまず、「生産性向上のための意識改革」「輸出の増加」「企業の統合促進」「最低賃金の継続的な引き上げ」「人材育成トレーニング制度」が必要であると主張している。

https://toyokeizai.net/articles/-/339534?page=3

ここでは「最低賃金の継続的な引き上げ」を重点として見ていく。

最低賃金を引き上げる根拠として、労働者を最低賃金で雇用している生産性の低い中小企業を生産性向上のターゲットにできる。国の生産性の低さは中小企業が足を引っ張ているからだ。また消費の増加や、雇用の増加なども期待できるという。

労働組合が弱体化していることも理由の一つとしてある。

最低賃金を上げると失業者が増加するという新古典派の理論に対しては、「実際の労働市場は教科書ほど効率的ではない」と反論している。イギリスの実例などで示している。

アトキンソンの主張は彼の著書「日本人の勝算」から引用している。


ちなみに、日本でも生産性は上昇しているがそれに対して賃金は大きく乖離している。

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スウェーデンモデル

これは自論だがアトキンソン氏の主張はスウェーデンモデル(レーン=メイドナー・モデル)に近いのではないだろうか。

スウェーデンモデルの特徴は「連帯的賃金政策」「積極的労働市場政策」


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画像は「福祉政治」著者: 宮本太郎から

画像の示す通り、低い生産性の企業は淘汰される。政府は保護措置を取らない。しかし、政府はその低い生産性から流出した労働者を高い生産性の企業へ促すために職業訓練や職業紹介サービスを提供する。


「同一賃金同一労働」もアトキンソン氏は女性の社会進出促進、企業の規模拡大のためとして必要であることを主張している。

社会保障が充実している国では絶対不可欠とまで言い切っている。

職業訓練も最低賃金引き上げに見合うだけの人材の育成として必要と述べている。




レギュラシオンアプローチ

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レギュラシオンとは「調整」という意味であり、資本主義、市場経済は「調整」されれば安定・成長する、されなければ危機に陥るという見方を示すフランスの経済学派だ。

レギュラシオン理論は高度経済成長期の終わり、スタグフレーションが起きた1970年頃に生まれた理論であり、高度経済成長について分析している。

高度経済成長は「フォーディズムの成長と危機」であった。

フォーディズム論の要点は,市場経済の自然的結果や国家の経済的介入の成果としてでなく,戦後的な新しい蓄積体制と調整様式の形成の結果として,またその背後にある新しい制度諸形態(とりわけ賃労働関係における団体交渉制度など)の成立の結果として,戦後的成長を捉える点にある.すなわち戦後先進諸国には,生産性上昇が賃金上昇に連動し,それが消費と投資を刺激して総需要成長(経済成長)を喚起し,また投資や経済成長それ自身が再び生産性上昇を生み出すというようなマクロ経済的回路(蓄積体制)が成立した.あるいは生産性上昇と経済成長の間に累積的因果連関が形成されて高度成長が実現した.そして他の歴史的時代と異なって,この蓄積体制に特徴的かつ核心的な経路は「生産性上昇→賃金上昇」と「需要成長→生産性上昇」である。
前者の背後には経営者による「生産性インデックス賃金」の提供という新しい賃金原則があり,また後者は量産効果を意味するが,それは労働者による「テーラー主義」的労働の受容に支えられていた.賃金は競争的・市場的賃金から契約的・制度的賃金となり,これに応じてそれまで労働側によって拒否されていたテーラー主義が広く各部門に浸透していった.戦後期,「団体交渉」という新しい制度が形成され,これを媒介として労使間に「生産性インデックス賃金 対 テーラー主義」という取引(妥協)が成立し,それがゲームのルールとなって,かの蓄積体制を先導し調整したのであった.要するに,生産性インデックス賃金 対 テーラー主義という労使妥協によって調整された大量生産–大量消費(生産性上昇と需要成長)の蓄積体制,これがフォーディズムであり,戦後的成長の秘密であり構図であった。
フォーディズムは1960年代末ないし1970年代以降,危機に陥る.フォーディズムの蓄積体制も調整様式もともども麻痺し,大危機(構造的危機)に陥った.すなわち,テーラー原理の追求による労働の単純化・単調化は労働者の病気や反抗をもたらし,工業化や完全雇用政策の成功による都市化や完全雇用は「賃金爆発」をもたらし,かの労使妥協を崩壊させ,またマクロ的好循環の構図を瓦解させたのであった.つまりフォーディズムは,その成功ゆえに危機に陥ったのであり,その現れが1970年代の激動であった.オイル・ショックはこの危機を倍加させはしたが,危機の真因ではなく,真因はもっと深くフォーディズム的な生産性や分配・需要の体制の枯渇のうちに存在した.危機のなか1970~80年代には,フォーディズム以後をめぐる各種の試みが世界で展開された.そのなかでこの時代,スウェーデン・モデルや日本モデルの目覚しい躍進とアメリカ経済の凋落が世間の注目を浴びた.これを分析すべくレギュラシオン理論は,ボルボイズム(社会民主主義型),トヨティズム(企業主導型),ネオ・フォーディズム(市場主導型)といったように,アフター・フォーディズムにおける「国民的軌道の分岐」に注目することになった

フォーディズムの危機から生じる失業によって労働組合の交渉力の低下、企業レベルへの交渉の分権化、能力に基づく労働契約の個別化、インフレーションや生産性上昇に対して賃金をインデックスする条項の削除などにより賃労働者間の不平等が拡大してきた。

また雇用関係の「フレキシブル化」、国際競争への開放によって賃金の抑制などのコスト削減が行われた。


高度経済成長期の日本社会にフォーディズムを規定できるかどうかはレギュラシオン学派の中でも意見が分かれている。

企業の生産性に比例した賃金アップを定める労使間での協定は日本で言えば「春闘」がある。

官公労、中小企業労組の組織力を背景として春闘方式の賃上げ交渉が民間大企業の賃上げを低生産性部門の一部に波及させていく役割を担った。1964年の池田首相と太田薫総評(日本労働組合総評議会)議長とのトップ会談以降、民間企業での賃金上昇を人事院勧告を通して公共部門にも反映させ、あるいは春闘相場の下で中小企業や未組織労働者の賃金水準をも引き上げるメカニズムが定着する。

当然ながら春闘方式ではカバーしきれない経営や自営業も数多くあり、1964年に、鉄鋼、電気、造船、自動車、機械の産業別組合によって、国際金属労連日本協議会が結成され、しだいに春闘の主導権を握っていき、後退していく。1975年の春闘以来、労使協調による賃上げ路線は自粛していく。




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