暗幕のゲルニカ
Nyao 先生の趣味の一つに読書というものがある。通勤時間に読む「読みやすい本」をいつも探して歩いているのだが、大学で芸術学を学ぶ我が家の”子Nyao”が「これ面白いよ」と渡してくれた本。
「暗幕のゲルニカ」
表紙のゲルニカをみた瞬間にNyao先生自身の幼いころの記憶が一気にフラッシュバックした。
あれは初めて「ゲルニカ」という絵を見た瞬間だったかもしれない。
幼いころのNyao先生は外国語の音をマネすることと、絵を描くのが大好きな、どちらかといえば内向的な子供だった。
暇さえあれば、学校の教員だった父が学校で印刷を失敗して廃棄するはずのわら半紙をたくさん持ち帰ってきてくれていたので(本当はだめですよねー笑 まあ今となっては時効ですw)、その裏紙にずーっと絵をかいていた。
そんな私に、ある時母親が一冊の本を買ってくれた。
それが かこさとしの「うつくしい絵」という本
かこさとし といえば、「からすのパン屋さん」や
「だるまちゃんシリーズ」
で有名な絵本作家である。そんな彼が名画の数々を子供向けに解説したこの本は、いまだに様々な人に影響を与えているのではないだろうか。
かくいう私もこの絵本に出会い、絵画の伝えているもの、その背景にあるものなど、真の意味での「絵」の持つ本来の力を知るようになったといっても過言ではない。
そしてその本で初めて「ゲルニカ」の存在を知ったのではないかと思う。
いや、その前に目にはしていたかもしれない。しかし本当の意味でそのゲルニカの存在を知ったのはこの絵本を通してであったと思う。
「ゲルニカ」
1937年にスペインの画家 パブロ・ピカソによって描かれた3メートルにも及ぶこの大作はスペイン市民戦争に介入したナチスドイツやイタリア軍が、スペイン・バスク地方の村ゲルニカを無差別爆撃した出来事を主題とした作品。多数の美術批評家から、「美術史において最も力強い反戦絵画芸術」の1つとして評価されているという。
空爆により破壊されたゲルニカ。
武装などしない一介の市民が殺戮された街
広島や長崎と同じように。
そこで苦しみあえぐ人々、死んだ子供を抱きしめて泣き叫ぶ女性、人のみならず引きちぎられる牛や馬の命。
見た瞬間に息をのんだのを覚えている。
人の叫び声や動物の声、爆撃の轟音、煙、血の匂いまで漂うようだ。
阿鼻叫喚とはこのことか
モノクロのその絵から、怒りと悲しみがあふれ出ているのがわかる。
地獄だ
地獄を見ている
ピカソのことなどなにも知らなかった幼いころのわたしだったが、見た瞬間、その絵にくぎ付けになった。
なんと悲しく、つらく、そして力強い絵であることか。
幼い私にはキュビズムの絵の意義はわからなかったが、その不思議な画法に引き付けられてやまなかったのを覚えている。
すごい
すごい絵だ
幼いころのそんな記憶を胸に、私は手渡されたその「暗幕のゲルニカ」を読み始めた。
2001年9月11日ニューヨーク。アメリカを象徴するスカイスクレーパーが煙を上げて崩れていく。
その事件を境に人生が大きく変わっていく一人の女性と1937年にピカソが、ナチス支配下のパリにおい命がけでゲルニカを描き、それを守ってゆく史実が交錯するサスペンスである。
読み進めながら、今度は自分が初めてアメリカ・ニューヨークを訪れた日のことを思い出す。
まだ学生だったあのころ、学校のone day tripだったか、ツインタワーの最上階あたりにあるレストランで食事を友人たちとともにとった。すごいな、アメリカ。すごいなニューヨーク。街を一望できる窓の外を眺め、「skyscrapers」の意味を実感したあの日。
そして、2001年まだ生まれたばかり 子nyao を抱っこしながら見た、テレビ画面に映る、噴煙をあげて崩れていくあの「ツインタワー」
ビルとともに思い出も、平和な時間もすべて崩れていく
この生まれたばかりの命が歩いていく未来はどうなってしまうのか。
涙が止まらなかった
そんな瞬間を思い出す。
世界はどうなっているのか。
何が起こっているのか。
どうなってしまうのか。
ピカソが生きていた時間
日本が太平洋戦争で追い詰められていく時間
世界中で起こる血なまぐさい紛争
いつも犠牲になっていくのは、日常を懸命に生きてている平凡な人々ばかり。
ピカソが本当に伝えたかったこと
それは何か
彼が血のにじむような時間をかけて
心で血を流しながらこの世に送り出したものを
それをどう未来へと受けついでいくのか。
そのために戦う一人の女性の物語が過去と現在を絶妙なタイミングで交差させ描かれていく。
芸術とはただ飾って楽しむだけではなく、そこに込められたメッセージをしっかりと受け取り、自分なりに租借し、自分の力に変えていかなければならないのだと気づかされる作品だ。
最後まで一気に読んでしまった。
絵画に興味のない人もぜひ読んでいただきたいこの作品
今日は長崎の原爆の日
そんな日にピカソが伝えたかったことは何なのか、彼は何と戦っていたのか、思いをはせながらぜひ堪能いただきたい本
「暗幕のゲルニカ」
何気ない日常は時に退屈であるけれど、その平和な時間のなんと大切な時間であることか。
そんなことに気づかされる作品でもあります。
あー美術館に行きたいな。
そんなことを思いながら、この連休、おうちでのんびり本でも読んで過ごそう。
そんな時間に心から感謝しながら。
Nyao先生でした!