草稿『他者になる―啓かれる多層的自己の可能性―』

日本の内閣府は現在、科学技術・イノベーション政策であるムーンショット目標の一つに、「身体、脳、空間、時間の制約からの解放」を挙げている。
具体的には「人の能力拡張により、全ての人が多様なライフスタイルを追求できる環境」、「サイバネティック・アバター(身代わりとしてのロボットや3D映像等を示すアバターに加え、人間の諸能力を拡張するICT技術やロボット技術を指す)の活用によって国境を越えた新しいビジネスの実現」、「人間の能力拡張技術とAIロボット技術の活用によって提供される新サービスの創出」等が実現されている社会、すなわち人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会の実現を2050年までに目指すといった内容である。

この目標設定の背景には、<少子高齢化の進展による生産年齢人口の減少>、<人生100年時代においてあらゆる年齢の人々が多様なライフスタイルを追求できる持続可能な社会の実現>、<様々な背景や価値観をもつ人々によるライフスタイルに応じた社会参画を実現にあたって考えられる様々な制約に対応する身体的能力、認知能力、認知能力及び知覚能力の技術的強化>が挙げられている。
こう堅苦しく述べると身近に感じられないが、バーチャルリアリティ(VR)やメタバース、仮想空間といったワードはすっかり耳慣れた響きの単語になりつつある。

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