「誰も知らない」映画感想
製作 2004年
監督 是枝裕和
出演 柳楽優弥
YOU
なんの予備知識も入れず、あらすじも見ず、
是枝作品だからというだけで観たら、いやはや衝撃的でした。
「火垂るの墓」を思い出してしまいました。
‼‼‼完全ネタバレ注意‼‼‼
あらすじ
母親に育児放棄された小6の長男率いる4人の子供たちが
兄弟引き離されたくないという理由で児童相談所にも連絡されないよう
学校にも行かず、家の中に隠れるように閉じこもり
自分たちだけで生きていこうと生活を続け・・・
ついには末の妹が死んでしまう。
1988年に東京で実際に起きた「子ども置き去り事件」をモチーフにし、撮影にも1年以上をかけた入魂の一作。(アマゾン商品紹介より)
これはまず母親の無責任さを断罪すべきという意見が普通でしょう。
しかし監督の視点はそこではないようです。
YOU演じる母親は、前半はちゃんと家に帰ってきます。
しっかり者の長男(柳楽優弥)に家事や下の子供たちの面倒を任せきりなところはありますが、下の子たちもみんな素直ないい子で、シングルマザーながら4人の子供たちをなんとか必死に、ここまで育ててきたんだろうなという事は感じられます。
しかし、中盤、クリスマスには帰ってくるからと
数万円を長男に預けて出ていったきり
結局クリスマスにも帰ってこないあたりで、おやおや・・。
子供たちは母親の愛を信じ、いつか帰ってくると信じています。
長男だけは薄々自分たちが捨てられたことに気付きますが・・。
お正月を迎え
母からと「お年玉」をねつ造してまで、下の子たちに母親は帰ってくると言い続けます。
春になり、電気ガス水道を止められ母親の置いていったお金も底をつき始めると・・
長男は下の子たちの面倒を見るのもやめ近所の子供たちと遊び始めます
母親を失った(捨てられた)現実を直視できず、
楽観的妄想の世界に逃避してしまったのでしょう。
このあたりが「火垂るの墓」の清太と節子にも共通します。
「火垂るの墓」は戦争の悲劇の話ですが・・
現代社会でも十分に起こりうる悲劇だと思って観ていました。
現実を直視せず、楽観的妄想の世界に逃避してしまう事の怖さ。
この映画では、母親に捨てられた事を直視せず、
母親はまだ自分たちを愛している、帰ってこないのは仕事が忙しいだけ。
いつかきっとたくさんお土産をかかえて帰ってくる
という楽観的妄想をぬぐい切れず、建設的な行動をとらず
ただ楽しい事だけに身をゆだねていきます。
例えば、児童相談所に相談し、兄弟4人引き離されたくなければ、
そう素直にお願いすることもできたはず。
それを小学6年生の長男に求めるのは酷でしょうか。
あと、この子供たちの悲劇は学校に行っていなかったこと。
大人だろうと子供だろうと、現代社会では、
社会の構成から一度はみ出してしまうと生きていけない怖さがあるんですね。
学校に通っていれば、先生がそれなりの対処をしてくれたでしょう。
大人だって、ニートとか言って社会的空白を作ってしまうと
なかなか社会復帰できなくなってしまったり・・。
もうひとつ辛辣に描かれているのが、地域コミュニティの希薄さ。
子供4人だけで1年も学校も行かずにマンションに暮らしてれば
その異変に周囲の人も気づくはずで・・
後半は、隠れもせず堂々と公園に出てきて洗濯したりしてたのに
おそらく気づいてはいても、面倒にかかわりたくないという思惑で
無視された。見て見ぬ振りされたのでしょう。
これがおそらく作品のタイトル「誰も知らない」なのではないかな。
ほんとは知ってるけど「誰もが知らないふりをした」という意味で・・。
子供を置き去りにした母親の罪に疑いの余地はありませんが
不慮の事故で両親を失う子供だっているだろうし・・
子供だろうと大人だろうと
人は社会の一員であるという事。
それを無視しては生きられないという事。
社会に背を向けた人間に対して、
社会はその3倍の冷たさでしっぺ返しをしてくる。
現代社会の厳しさ。冷たさ。
地域コミュニティの希薄さ。他者への無関心。見て見ぬふり。
などを痛烈に警鐘していると思いました。