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ハーバード・ファイス 柴田匡平訳『帝国主義外交と国際金融1870-1914』筑摩書房

Herbert Feis "Europe the World's Banker" 1870-1914.(Yale University Press, 1930)

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8月には戦争や歴史を振り返る企画が多い。大戦の前提として列強の植民地支配がある。突然に戦が始まったわけではない。
2015年の戦後70年安倍談話の冒頭にも以下のような一節がある。「百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。」

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著者のハーバード・ファイスは1930年代から1940年代にかけて米国の国務省・陸軍省の顧問を務め、退職後に同時代の外交史に関する著作を数多く執筆している。

良く言えば、戦間期に活躍した国際金融家、悪く言えば「帝国主義金融の当事者そのもの」

1933年6月から7月に開催されたロンドン世界経済会議にはコーデル・ハル長官の随員として出席。1937年からは国際経済問題顧問に就任し、第二次世界大戦前夜から戦時期にかけて、実務家として政治と経済の交わる外交課題に関与しており、いわゆるハルノートの当事者でもあり、実は彼自身に関する研究も多い。

本書は1870-1914までの間、列国が金融(融資)・インフラ(主に鉄道)・軍事の3つを駆使して、植民地を拡大し蚕食していったのか、赤裸々に分析・記述されている。金融と軍事とインフラは三位一体なのだ。西欧の銀行の「餌食」として論証されているのは、バルカン・トルコ・ペルシャ(≒イラン)北アフリカ・中国、そして日本。

西欧の近代兵器の暴力を背景に、闇金顔負けの高利貸しを通じ、インフラを合法かつ平和のうちに奪取という、手口の汚さ、エグさ、えげつなさには、感心すらさせられる。
イランやトルコに関しては現在の危機の構図とを想起するような記述も、ゴロゴロ出てくる。昨今のチャイナマネーを背景にした、アジアやアフリカのインフラ乗っ取りは、この手口そのものと言える

考えてみると、こうした帝国主義金融は過去のものとして昔懐かしく回顧するようなものではない。

日本に関しては「日本の勃興と外国資本」として1章を割き、明治維新から詳細に分析している。開戦前の米国の日本研究のレベルの高さには絶句させられた。これは見逃せない点だ。
章の最後は以下で結ばれる。

「東洋の諸国のうち、日本だけは、欧州資本を有益に駆使する力量を示した。西欧は、日本の軍備、戦争遂行、経済発展に融資し、同盟システムの中に引き入れた。この資本を駆使して日本は国力を増大し、それは投資家の信用を高め、転じて日本をさらに重要な同盟国ともした。
1914年この小さな島国は自力で列強の仲間入りをはたし、欧州の戦乱を尻目に新たに手にした力をもって、東洋全体に支配的立場を獲得するべく試みることになる。」

本書が出版され10年後、日米対立は決定的となり、そして「試み」は、この指摘をした著者らにより、挫折することとなる。



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