ありがとう、またね

大好きだった人に振られた。
突然だった。彼女が出来た、と告げられた。

自分史上最も色々な感情になった恋だった。
貴重な人生経験なので、今考えていることを書き留めて整理しておきたい。
未練があって書いている訳ではない。

狭い部屋に、住んでいる彼だった。
バイクと素っ気ない女と煙草を好み、彫りが深くて長髪と髭が似合う、20歳にしては渋く魅惑的な彼だった。
食べ物と言えば牛丼屋かラーメン屋しか知らないくせに、常に世の中の様々な物事に疑問を持って生きているから不思議だった。
難解でめんどくさい思考の持ち主で、謎理論を展開されては何度困ったことか。


まず第一に、私は彼の顔が好きだった。
時々、どうしようもなく寂しそうな瞳(め)をするからいつでも、いつまでもそばにいてあげたくなった。

過去に縛られて苦しんでいるのを見るのがつらかった。(実際一緒に居た時のことを思い出して泣きながらこれを書いている)
それと同時にずっとこのまま、過去に負った傷が癒えないままでいて欲しい、私を抱くことで自分を傷つける生活をし続けて欲しいと思う自分も居た。

彼にならいくら傷つけられても構わない。
私だけを傷つけ続けて欲しかった。

そして次に、彼の作る世界観が好きだった
全部やりかけで、中途半端で、未完成で、未熟。
なのに荒削りな感じはしなくて、どこか柔らかい。
そんな彼の世界を私も見たかった。
何も知らなかったその時の私には、大人数の夜通しの飲み会も、夜職のバイトも、タバコも、夜に行われること全てが新しくて初めてだった。私にとって彼は、言ってしまえば悪いお兄さん的存在で、初めは好きよりも憧れだった。
自ら望んで誰にも理解できない場所に居るのに極端に孤独を恐れて誰かを求めて、時々ちょっと自分に酔っている彼がどうしようもなく欲しかった。

荷物を取りに、の彼との初めの頃のはなし。


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