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グランジの神様 第9話 解説

いつも焦げ猫の拙いマンガをご愛読くださりありがとうございます。

第9話は業界の人しかわからないようなセリフが続くシーンがあり、作中のカズオのように退屈された方も多いかもしれません。

カズオが居眠りするほど、わからない人にとってはわからない話というのを表現したかった描写でもあるので、あの辺は読み飛ばして頂いても構わないんです(笑)。

でもちょっと知ってみたいな…という方、運送業界にご興味のある方、ものすごーくザックリですがぜひこの解説・補足を読んでみてください。

目次を見てわからなかったところだけでも読んで頂ければ幸いです。



安全講習会は義務

営業ナンバーの運送会社は、ドライバーに安全に関する指導教育を行うことが義務付けられており、「指導教育記録簿」を残さなくてはなりません。
1年の間に国交省に決められた12項目の安全指導があり、毎月1項目やる会社もあれば、数ヶ月に1回3〜4項目やる会社もあり、それは運行管理者の計画において自由です。
365日、昼も夜も業務がある会社だといちどに全員集めて行うのが難しいですので。
(安全指導のために日曜日に会社出てこい…ってことでブーイングが出てる会社もありました)

会社により「安全ミーティング」だったり呼び名もいろいろで、作中の「定期安全講習会」はKNロジでの設定です。
要はなんの項目の指導をいつ誰にしたか記録を取っておかないとならないわけです。

ただコレ…ハッキリ言ってマトモにやってない会社もかなり…。

回覧板みたいに名簿と資料が回ってきて、自分の名前のとこにハンコ押して次のドライバーの日報入れに入れとくだけとかね。

作中のKNロジでは、最後のほうでチラっと出てきたスマホ画面のホームページにもあったように、社長が教育を大事にしています。
実際はそれも上っ面の会社も多いですが、この社長は自ら講習会で指導するなどガチで取り組んでいるという設定です。
焦げ猫が入ったいろんな運送会社の中でいちばんそうした法令を遵守していた会社をモデルに、ビデオ・プロジェクターを使った指導の様子を描きました。

こういう会社は少ないです。

グランジの神様 第9話より

なんのことを言っていたのか

夜間のSA・PAの混雑による減速・加速車線の駐車とは

それってなに?ということですが。

最近2024年問題で物流問題の露出の機会も多いのでご存じの方も多いと思いますが、現状ドライバーは定められた1日の運行時間を超える前に翌日の運行まで最低8時間以上(それって週2日までとか、その時間の規定が変わるのが2024年問題の核だとか、詳しくはいろいろ…)休息時間としてトラックをを動かしてはならない…というコンプライアンスの決まりがあります。
プラス、この記事を書いている現時点ではETCの深夜割引の兼ね合いもあり、夜間のSA・PAの大型枠は長〜中距離の日をまたぐ業務の車ですぐいっぱいになってしまうのです。

もうね、夜20時過ぎの東名上りの足柄とか海老名なんか、完全にキャパオーバーで「エグい」ですよ。
枠じゃない場所やバス枠もみっちりで、通路でそこにいたら曲がりきれないよーみたいなとこにも停まってたりしますが自分も同じ事情だけに文句も言えず。
みんなアイドリングして寝るので空がそこだけもうもうと曇り空になっています。

停める枠が空いていなくても、コンプライアンスを守らないと会社に怒られるから(ひいては会社が監査でつつかれるので)どうしても停めたい、その結果減速・加速車線にトラックが路駐…ということになるわけです。

もっと言えば430(ヨンサンマル)と言って4時間毎に30分の休憩を取りなさいという決まりもあり、さらにいえば「トイレだけでも行きたいのにー!」ということもあります。

焦げ猫も1回だけ減速車線に路駐して寝たことがありますが、朝4時頃お巡りさんに叩き起こされ、「もう中空いてるから移動して!」と怒られました。

KNロジは長距離もやっているので、この、SA・PAに出入りするためにある減速車線・加速車線に路駐したがための事故が多いから回避せよという話を社長はしていたのです。

実際ニュースでやっていたので印象に残っているのは、路駐していた大型にSAに入ってきたウイング車(荷台の箱が羽根のように開くトラックのこと)がぶつかり、ウイングがバナナの皮むいたみたいにめくれてた事故です。
焦げ猫自身も急に減速車線に止まろうとした車に追突しそうになったことも。

お巡りさんは停めるなと言う、お上は停めろと言う。
ドライバーは板挟み。
早くしないと1日13時間までの稼働、というタイムリミットを過ぎてしまうし…。

ホント、この「どこなら停められるか」で悩みながら走るのは、とくに高速を使う長距離ドライバーの胃痛のタネのひとつです。

グランジの神様 第9話より

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トラックカーナビについて

たぶん今カーナビとしてのサブスクアプリでいちばん優れているのはナビタイム系だと思います。
乗用車用もなかなかに使いやすいと思います。

このナビタイムのシリーズで出している「トラックカーナビ」が大きい車で使うにあたっていちばん信頼できます。
焦げ猫もずっと自腹でサブスク払ってました。

ナビタイムの「トラックカーナビ」アイコン

もう10年近く前の話、会社で全車にゴ○ラの大型モード付きを設置してくれてたとこがありましたが、まったく当てにならず曲がりきれない道や大禁(大型侵入禁止)の道を案内され鬼バックしたこと多数…。
設置型だから地図更新も手間ですしね。

じゃあそれの何が大型モードなの?って、ただ高速料金の表示だけ。

べつにナビタイムの回し者じゃないんですが、自分のトラックのサイズをあらかじめ入力しておけば通っちゃいけない道は回避して案内してくれるというホントの意味で「トラック用」に特化したカーナビアプリなんです。
大型が入れるコンビニまで探せます。
自車アイコンを好きなトラックにできるのも楽しいところで、マイレージを貯めるとメッキ架装の4軸低床も選べます(笑)。

焦げ猫は右列中段の「ファイブスター」を愛用
実際に使うとこんな感じ

ただやっぱり使い方にコツがあって、納品先にしろコンビニにしろ事前に必ず航空図モードで見て、案内の進入ルートや大型枠の存在が正しいかチェックすることですね。
航空図見たら「コレ絶対裏だろ」ってのが結構あります(汗)。

すでに法人契約で導入している会社は結構あります。

数年前の東神奈川での事故…細道に迷い込んでしまったトラックが、商店街の踏切で曲がりきれず電車と衝突…。
あれも、トラックカーナビを利用していれば防げた事故だろうと思うと私は自腹でも勧めたいです。

ちなみにサブスクをケチってGoogleやYahoo!の無料ナビを使ってる大型ドライバーも居ますが、かなりの確率で「ああっどうしよう」ってなってます。

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通信手当

ごくたまにKNロジのように「通信手当」を数千円出してる会社もあります。
携帯電話は今やドライバーには必需品ですが、すべての会社でドライバー全員に業務用として貸与できるわけではなく、電話は自分のものを使うという会社はまだ多いです。
通信手当…つまり電話代の足しにと色つけてくれる会社は良心的なほうだと思います。

グランジの神様 第9話より

社長は意味をわかれと怒ったのではない

今回の第9話で登場の社長は、昔気質の頑固そうな社長に見えますが、意外と柔軟で聞く耳を持っています。
短気なだけ(笑)。

現実は…、あくまでも焦げ猫が見てきたケースですが…、

ドライバー上がりの社長さんは割とブラック運行をさせがちでワンマンな人が多い。けど、ものは言いやすくドライバーとは距離感が近い。

逆に投資として運送会社を始めた社長さんはCEOを名乗り理想論は言うけど現場見てない人が多い。

そういう印象です。

KNロジでは社長にいいとこ取りを担わせました。
現場上がりだから部下に丸投げせず本音の指導もできる。
でもワンマンではないのは、常に現状を把握してどうすべきか動きがあるところ。
まぁ、善は急げと即決定を下すので、槍杉さんが苦労していますが。

「若手を育てたい」というのも、本来は人手不足のいま、なくてはならない方針です。
「人の命が一番大切」それも、心底から言える人は少ない。

居眠りをしていたカズオにあれだけ怒ったのは指導内容を聞いていなかったこと自体ではなく、心構えの問題と、経営者としての苦労を教えることで従業員も責任の重みを感じてほしい、もっと真摯になってくれということですね。

グランジの神様 第9話より

大型トラックの値段

ちなみに大型トラックはドライ(常温)ウイングの吊るし(在庫のある標準仕様)でも1500万円くらいから。
当然オーダーの架装をするともっとコストがかかります。

架装する荷台にもいろいろメーカーがあり、ドライバーが使いやすいけど高いとか、安かろう悪かろうとかいろいろ…。

あるものからオプションを選ぶ乗用車を買うのとは違い、トラックは運送会社の用途に合わせた架装(荷台の造り)や会社のカラーの塗装をするのです。

冷凍車、ユニック車(クレーンがついてる車です)だともっと値段は跳ね上がります。
軽く2000万以上でしょう。
2tのワイドロング冷凍車でもちょっと架装すると5〜600万です。

以前から取引があって贔屓にしていたり、正規ディーラー以外のディーラーで買うなどすると、お値引きが大幅にものを言うので、どのメーカーが幾らくらい…という情報を書いたサイトもありますが、必ずしも正確ではないというのが焦げ猫の感想です。

確かにU社は安い…でも次に安いのはI社じゃないかな…。今は違うのかな?

焦げ猫は一応ひととおり乗りましたが、大型に関してはほとんどお尻の痛くなるI社の車(昔の型ですが)に当たってました。それだけいろんな会社が買い易かったってことです。エンジンが静かでいいんですけどね。
前いた会社で社長が「ウチのドライバーが欲しい車」をリサーチした結果H社とF社が圧倒的人気だったのですが、以前から取引のあったU社に比べて同じような仕様でも300〜600万円以上高いから結局諦めてくれとなったことがありました。

保険料は何台契約するか等でも変わってきますが、大型だと年間数十万単位でしょう。
個人で所有する乗用車とはリスクも殺傷能力もケタ違いだからです。
ドライバーが事故をして保険を使えば当然そこからもっと保険料は上がります。

グランジの神様 第9話より

業務について

地場フリーとは

今後始まる「カズオの運行日報」もそうですが、こういう専門用語がサラッと出てくるので、マンガのテンポを失わないための説明をどのようにどの程度作中に入れるか迷っています。

「地場」というのはまず長距離、中距離に対して近場の仕事ですね。
だいたい、午後から積んだら会社に帰ってきて、日報上げて家に帰って寝て、早朝出発して荷物を降ろし、翌日の荷物をまた積んで帰ってくる…というパターンで、だいたい片道200km超くらいまででしょうかね。
もちろん当日朝積んでその日のうちに降ろす「朝積み」もあります。

ちなみに翌日や、週末挟んで「月着」とかの荷物をトラックに積んで一旦帰ってくるのを「積み置き」といいます。

ちなみに中距離は300km〜、長距離は400km〜、という感覚で呼び分けている業界人が多いと思います。
たとえば関東から西へ行くなら、静岡くらいまでは地場、名古屋は中距離、大阪より向こうは長距離って感じです。

「フリー」というのはフリーチャーターのことで、トラック持ち込み等のフリーランスという意味ではなく…明日にゃ明日の風が吹く、何でも積んでどこへでも行くのをその日その日に応じてできますよという意味です。
前日もしくは当日にならないとどこの仕事になるかわからないことが多く、初見の場所に当たることも多いですが、ずっとやってると有名な荷主さんは何度か当たって覚えたりします。

(それに対する言葉が「定期」です。
「ルート配送」もそうですが、毎日何を積んで何時ごろどこへ行くかほぼ決まっている便です)

社長が青さんにこれを命じた理由は…、

まず地場で毎日帰ってこられないと、どちらかがシートで寝るハメになり疲れが取れないから。
トラックのシートの後ろにある寝台は幅約60cmほどしかありません。
男性同士、女性同士だと無理繰りツーマン(2人組)で車泊の必要な長距離に出す会社もありますが、さすがに抱き合っては寝ません(笑)…新人教育のみならず、危険物の運搬等でツーマンが決まりになっているケースはあります。

それとフリーですといろんな荷物、いろんな積み方、その場その場の現場のルールに柔軟に対応できなければなりません。
つまりこれをやっているといろんなことを覚えます。

そして大型だと、通れる道が限られてくるし死角もより多い…ちょっとトイレにとか、間違えちゃったからUターンとか、そうそうできないのでかなり用心することになります。
もちろん重いので走らない止まらないを計算に入れて走るのは小さい車より神経を使います。
カズオはまだ運転できなくても、青さんが何に気をつけているか知ることで、安全意識を育てようというのが社長の狙いです。

グランジの神様 第9話より

余談・社長は焦げ猫の父がモデル

今は亡き焦げ猫の父は、江戸っ子気質でものすごく短気でした。
「爆弾」というあだ名は本当の話です。
しかし筋の通らないこと、曲がったことが嫌いで情に熱く、病気がちでお金持ちではなかったけれど必要なことにはお金をケチらない人でもありました。

最後に怒り爆発したのはNHKにだったかな。
年寄りなんでBSになりましたとかB-casカードがどうのこうの言われてもわからないから観られてないのに、NHKの取り立てがしつこく、なんで観れないのに受信料を払わないとならないんだ!!って電話口でめっちゃ怒ってましたね…。

デスクのガラスを割ったエピソードも実話です。
よく緑色のゴムシートの上にガラス板載せて使うでしょう?
父は運送会社ではないですが現役の会社員時代、新人教育のミーティングでは講師をやっていました。
居眠りしている人の名前を叫んでデスクに拳を振り下ろし毎回のようにガラスを割っていたそうで…。
何度目かに塩ビ製に差し替えられたようですが。

自宅でもキレるとやってまして、テーブルの天板が割れてへこみハチミツの瓶が割れました…。

そんな父がもし運送会社の社長だったら、何に重きを置くか?
そうして社長のキャラは出来上がりました(笑)。

グランジの神様 第9話より

「グランジの神様」は次回、第10話でたぶん最終回です。
前編・後編構成になるか、あと2話になるかもしれませんが…。
「グランジの神様」は、過酷な環境の中にあったカズオという少年が貧乏神だったはずのおじいさんに出会い成長していくのを優しい世界で描きたくて生まれたお話です。

のちに始まる「カズオの運行日報」も、運送会社やトラックドライバーのあるあるネタを絡めつつのヒューマンドラマにするつもりです。

「グランジの神様」を最後まで、そして「カズオの運行日報」もどうぞよろしくお願いいたします!


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焦げ猫
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