解説・「やっちゃばカオス!」後編 カズオの運行日報 第18話
やっちゃば(青果市場)のエピソード、カズオとヒップホップなカレとのお話はまだ続くんですが、やっちゃばが「カオス」なのは描けたので一旦ここで「後編」として区切りました。
なにがカオスって、自主荷役なのにリフト貸し出しや車を着ける場所が暗黙ルールだったり、いわゆる「初見殺し」なのと、そうしたルールを巡って荷受けとドライバーはもちろん、ドライバーどうしでも怒鳴り合いは日常茶飯事だったりというところです。
けれども、後編で言いたかったのは「いい意味で顔を覚えてもらうと仕事がしやすくなる、そのためには相手が乱暴な物言いをしてもいちいち気にしない、相手の便宜をはかってちょっとしたことをやれば、向こうも便宜をはかってくれる…」そういう人情ある現場だということです。
コーヒーで機嫌を取ろうというのではない
おもねる、媚びる、懐柔する…そういうニュアンスでコーヒーを奢っているのではありません。
焦げ猫自身は、市場の仕事に慣れてきたら逆に市場の人によくしてもらい、コーヒーはもちろんお野菜、ゆで卵をいただいたり雑談したり「お互い楽しく仕事する」ことができる関係性を持てたので、「今日は暑いからいっぷくしてください」くらいのニュアンスでこちらもときどき飲み物を買ってきてた…という、まぁ普通に相身互いのお付き合いをしてたという話です。
会社から費用が出るわけでもないのにコーヒーを毎回買えというのではなく、「そういう関係を築く」ことが大事なのです。
「数えやすく」「仕分けしやすく」
「数えやすく」「仕分けしやすく」する工夫は、逆に当たり前のようにやらないと印象が悪くなる原因にもなってしまいます。
基本、サイズ表記が荷物をバラさなくても見てわかるように外に向けてパレットに組む。
逆さにしても大丈夫な商品の場合は、1〜3ケースくらいしかない規格のモノは見つけやすいよう天地を逆に積む(いちごや高級さくらんぼは多分それやるとマズいけど)。
何種類かの商品を1枚のパレットに組む場合は、どこからでもどれもが取れるよう棒積みにしておく。
数によっては別パレにその場で移す。
これは基本的には一般でも同じことなんですが、一般の場合現場の企業や商品により勝手が違ったりするので、荷受けさんが指示する方法に従ってください。
指示されなくてもそうする、というのが市場です。
パレット回収
最初は相手が無愛想でも、顔を覚えてもらい、定期的に行ってると作中のようにパレットを確保してくれたりなど、業務上の便宜をはかってくれたりします。
え?空パレを回収できるというだけでそんなに嬉しいことかって?
出荷元の選果場にも選果に使うパレット以外に出荷用のパレットがないと、当然積みつけで自分が苦労します。
サイズの合わないパレットを使って緩衝材をたくさん挟む手間がかかったり、ヘタすりゃバラで積むことになります。
なのに、実際は市場で回収するパレットが足りない…ということがよくあります。
規格がバラバラのパレットがガタガタに積み上げてあるところから1枚ずつ見つけては引っ張り出したり、まとまった山を見つけたと思ったら「あー、コレは使うから持っていかないで」と言われたり…。
フォークリフトを次に使いたいドライバーもいるのにパレット探しで時間かけるのも悪いので、パッと見て「無いな」というときは潔く諦めるんですが…。
市場側もパレットは必要としていますから、次に来たとき倍持って帰ろうと思ってもなかなか「顔」を覚えててもらえないと「よぶんに持っていくなよ」という感じで難しいのです。
なので確保しといていただけると、すごく助かるのです!
実際、作中のように「どこそこ(産地)みかん用」などと、段ボールの切れ端や紙に書いてパレットの山に挟んでおいて、ほかの人が持ち出さないようにしてくれてる市場もあります。
担当の人が「×曜日ならオレがいるから×曜日ならパレットとっとく」と言ってくれる場合も。
逆にいえば自分の顔や荷物を覚えててくれる人がいないと、日によっては確保が難しいのです。
だからそういう便宜をはかっていただけるだけでも、すごく感謝感激なのです…(*^^*)
カズオのリフト猛特訓
冒頭、カズオが青さんにリフトの乗り方を教わっていますね。
「講習に行ったんならぜんぶわかってるんじゃないの?」
…と思うかもしれませんが。
自動車の教習所みたいに、ツーマンで実際走るときどうするのか教えてもらえるわけではありません。
一応筆記試験・実技試験に合格しないと修了証はもらえないのですが、試験とはカウンター式フォークリフトで空のプラパレを1枚、指定場所から枠内に移動させるだけです。
そこで、ちゃんと後ろみてるかとかポールにぶつかったり枠を踏んづけたりしてないか、爪の抜き差しができるかとかで合否が決まりますが、焦げ猫が講習行った20年前はかなりユルいものでした。
すいません今はどの程度まで教えてくれてるのか、わからないで描いて(書いて)しまってるんですが…。
少なくとも実際には、講習課題ができただけでは難しいものがあります。
狭いところで取り回す方法や、高積みした荷物を崩さないように扱うにはとか、トラックの荷台にまっすぐ入れるコツなんてのは教えてくれませんでした。
「横転したら人間もミンチ、実際あった事故では脳みそぐちゃぐちゃでした。倒れると思ったらリフトにしがみつきなさい」
…と、座学でパンチの効いたことは言われましたが(^^;)
それはさておき、今では作中で青さんが言っているように「サイドシフト」といって、爪を左右に動かせるレバーがついているものを導入する現場も増えてきましたが、それがないリフトの場合ぴったり隣の荷物につけるにはリフト自体の持っていきかた…車両感覚と後ろのタイヤが操舵輪という独特の感覚をつかむことが肝心です。
それから調子に乗って上げてしまいマストや荷物をウイングにぶつけないよう上をよく見ろとか、いちどで収めようとして自分のトラックのアオリを押してしまわないように「2度挿し」するとか、空パレの揃えかたとか…そういうのは講習ではほとんど教えてくれないので、「実践」を先輩ドライバーに必ず教わりましょうね。
それと、まだ描いていませんが、作中のような「カウンター式フォークリフト」ではなくいわゆる「リーチ」…立って乗るヤツですね。あれもまた別なコツがいりますが、それは講習では乗りませんでしたのでやはり乗り慣れた人に教わらないと…。
まぁ、現状市場ではほとんどカウンター式ですが、冷蔵倉庫などはとくにスペースが限られている都合上さらに小回りのきくリーチを使っている現場も多いです。
(カズオが大型に乗るようになったら、焦げ猫がリーチで失敗した実話ベースを描きますね・爆)
…まぁそんなこんなで、カズオは実際にトラックの荷物が(スピーディーに)積み下ろしできるよう特訓してたのです。
カズオの過去
「カズオの運行日報」を途中から読みはじめた、またはプロローグ作「グランジの神様」をお読みでない方に…。
カズオは母子家庭でネグレクトされ、「貧乏神」であるお爺さんに家に住みつかれますがその(ホームレスだと思っていた)お爺さんと助け合って育ちました。
母親に家にお金をあまり入れてもらえないため、中学時代は新聞配達のバイトをやってお爺さんの食い扶持も稼いでいました。
そして中学卒業後の進路として、まだ免許が取れない年齢でも寮付きのKNロジに受かってずっと助手として働き免許をとり…、貧乏神さんは貧乏神を卒業(?)して本当のカズオのお祖父さんになり、今はKNロジの整備管理者として働いています。
18話のひとコマ、雨の早朝に新聞配達をする回想のカズオはそんな中学生時代です。
こういう経歴の持ち主なので、苦々しく思っていたボケナス青果の彼の身の上を聞いて共感してしまったというわけ…。
「グランジの神様」はこちらのマガジンで読めますが…デジタルを始めたばかりでマンガも30年ぶりなので今以上に絵がひどいです(^^;)…お目汚しですが、読んでいただければ幸いです。↓
次回の「カズオの運行日報」は…。
事務所でのとある顛末8ページギャグです。
本編の流れの中なので、短いしドライバー業務の話題でもないのですが、番外編にせず「幕間」として第19話にしました。
お楽しみに(^^)
今回のマンガ本編はこちら↓
「カズオの運行日報」はマガジンでぜんぶ無料で読めますです!↓