解説・カズオの運行日報 第9話「やりすぎヒストリー」前編
今回から、解説記事のタイトルおよび解説マガジンのタイトルを「解説」から始まるものに変更いたしました。
スマホで見ると本編も解説も「カズオの…」で始まり残りが省略されてしまうため、「本編だけ読みたいのにわかりにくい」というお声があったので…。
また、前々回くらいから、自分のトップページの最新記事としてマンガ本編を長く表示させておきたいので、わずかな時間差ですが解説を先にアップしています。
やはり業界のことを詳しく…となると解説の文書量にボリュームが出てしまうのですが、気にしない方針にしました(爆)。
今後ともヨロシクお願いいたします(^^)
小さい運送会社の管理者の実態
零細〜中小規模の運送会社は、「トラックの台数が少ない、おいしい運賃で仕事が回ってこない」→売り上げから内勤者の給料を捻出するのが難しい…というのがありまして。
運送会社として認可されるには最低でも貨物用の車両が5台必要(軽自動車は1台で個人事業主になれますが)ですが、それくらいですと社長も走ってるとかザラです。
社長に限らず運行管理者として選任された有資格者が、自身もトラックで走りながら他ドライバーの点呼や「配車」という仕事の割り振りをし、整備管理者も兼ねていることも…。
まぁ焦げ猫はそういう会社のほうが長いし、不便なこともあるけど社長がドライバー目線で居てくれるというのが自分にとってはやりやすかったですね。
マンガ作中のKNロジは社長が営業と定期的に義務付けられている安全講習の講師を兼ね、運行管理者の槍杉さんが点呼・配車・運賃交渉・日報管理・トラブル対応までやっています。
主任の青さんは代走や横乗り教育、新規業務を覚えてくることなど。
このうち日報等の書類管理、経理ソフト入力、ドライバー各々に送る運行指示書作成は主にのりちゃんがやるようになっています。
整備管理者をカズオのお祖父さんがやるようになったのは前作「グランジの神様」から。
槍杉さんの抜けた事務所で青さんがパソコンに向かってるのも指示書作りですね。
指示書は元請さんからFAXやメールで来たものをそのままメールかLINEで右から左というのも実際は多いですが、コレじゃ字潰れで読めねえよ!…とか、依頼書として金額が書かれちゃってるとドライバーが不平不満余計な心配をするとかがあるあるなので、作り直す会社もあります。槍杉さんは都度確認して作っていました。
15台〜30台未満クラスの会社だとこんな感じが多いんじゃないでしょうか。
青さんのようなポジションはいないケースも多いと思います。
選任運行管理者の苦労
KNロジみたいに業務がいろいろあると、運行管理者の仕事も煩雑になります。
コンビニならコンビニだけ、チェーン店のセンター便ならそれ専門…とかならシステマチックなルーティンにできますが、よくある零細〜中小会社の生き残りの手法としてリスクヘッジでいろんな荷主さん・元請さんの仕事をするとなると大変です。
実際焦げ猫は10台未満で大型ドライウイングから2t冷凍車までやってた会社に長く居まして、そこで運行管理も取らせてもらいいろんな業務を経験することができました。
KNロジもマンガの舞台として「いろんな業務が描けないとおもしろくない、かといって大手の話じゃつまらない」ので、30台未満規模でそういう設定にしてますが、違うのは定期・貸切だけでなくフリーもあり、中〜長距離もあることです。
焦げ猫も青さん・槍杉さんのポジションに立ったことが何度かありますが、走りながらノートPC持って歩いて荷待ち待機時間に経理ソフトの入力をやったり「なにそれ忙しい自慢?」と取られても仕方ない状況でしたね。
夜間便があるとやはり夜間になにかあったら叩き起こされますし…。
ただ、そこでは貸切と定期メインだったので、毎日都度都度仕事を取って配車するフリーがないのが幸いでした。
今回のお話での槍杉さんの1日の流れほどには、1日にトラブルが重なることは少ないです。
配車は4社くらいで経験しましたかね。
下からの突き上げというか、作中でドライバーが「パレットと聞いてたのにバラだった」と槍杉さんに怒っているシーンがありますが、みんな平等になるよう&希望を聞いて組まないと指示を聞いてくれない人が出てきて大変ってのもあります。
30台未満で小さい車から大きい車まで揃えてて定期もフリーも地場も長距離も、ドライもチルド・冷凍もぜんぶやってるなんて会社実際にはあまりないと思います…。
たいてい得意分野・会社の意向でどっかしらが偏ってると思います。
しかしフリーが多いと即答すべき運賃交渉と指示書送信等だけでもバタバタってのは間違いないです。
ちなみに「選任」というのは…運行管理者も整備管理者も、資格を持っているだけではなれません。
その会社が「選任した」と届け出て初めて権限も責任も発生します。
社長も運行管理の資格を持っているのに実際には別の資格者を選任している…というのも零細中小あるあるですが、なんかあったときのためもあります。
ちなみに1人の運行管理資格者が扱っていいのは車29台までです。それ以上は30台毎に1人選任資格者が居ないとなりません。
「バラだよ」「元請さんが間違えたかな」のあるある
フリーチャーターであるあるなのがこういった業務内容の連絡不備です。
多重下請構造で何社も挟むから伝言ゲームになる…っていうのもあるんですが、「確信犯じゃないの?」って思うことも多いんです…。
作中の「イワンコム」って水屋(運送会社に仕事を回してマージンを取る商売)、業界の人になら元ネタは有名です(爆)。
業務内容・運ぶ物品の荷姿等の詳細情報がない・あっても信用できないのはお約束。
誰にでも仕事を回してくれる代わりに運賃は激安、「電話誘導」といって間に入った何社もの水屋にも電話しないとなりません。
なのでフリーのドライバーの間では非常に評判が悪いのですが…。
必ずしもそこだけが悪いとは言えないと思う今日この頃です。
昔は付き合いの深い会社が「ない」って言えば諦めるしかなかった帰り荷や閑散期の仕事もこうした水屋さんのおかげで取れる「ことがあり」ます。
また、何台かまとめて預け(専属)の契約をすると、多少運賃もマシになるし「パレットもんだけよこせ」のようなワガママも利くことがあります。
余談ですが。
焦げ猫は昔、身体を壊したあとに、◎◎ンコムさん専属の会社に「パレットものオンリー」「全線高速長距離」だったから「理想的!」と思って入社したんですが、身体はラクで仕事楽しかったのになぜかまた病気になってしまいましてね…(←こういう残念なトコが、誰かに呪われてる?と思うゆえんです・爆)。
寛解して復職したときには中距離のみ、バラもありになっててしんどくなっててまた身体壊しました。
かつては全線高速で中1日かけて北関東発福岡の便があり、それがとても楽しかったしラクだったんですけど、「採算取れなくなったからやめた」と社長が言っていました。
運賃を値下げされたのか、燃料価格が上がったからなのかわかりませんが…。
夜間の置き配でドロボー現場の第一発見者
植松くんが遭遇したのは、実際に焦げ猫がいた会社であった話です。
私自身ではないのですが、夜中に電話がかかってきて、そういう状況だと…。
ただ、そのときのルート便は時間にうるさいコースではなかったので、代走せず警察の検分に付き合ってから配達再開って流れだったと思います、確か。
当時は今みたいにあちこちに…というほどは防犯カメラが普及しておらず、そのコースは個人経営店を含む配達だったので、SECOM等のセキュリティがなく鍵1本というお客さまも多かったのです。
そういえば、夜中に電話がかかってきてドロボーといえば、観音扉を開けたまま台車で納品に行き、猫に食材を持っていかれた、と連絡がきたこともありました(笑)。
アルコールチェックはどうしているのか
焦げ猫の経験ですと大型15台のフリーチャーターのみの会社でも、コンプライアンスを遵守していた会社の運行管理者は事務所に住み込みしてたくらいいろいろ仕事してて、事務員さんも常駐してませんでした。
そういう会社では何時でも対面点呼ができたわけですが、作中の槍杉さんと同じでプライベートと仕事の線引きがあいまいになり…ストレスは相当のものだったようです(汗)。
コンプライアンスが今ほどうるさくなかった数十年前の零細会社では、深夜〜早朝の点呼やアルコールチェックは省いてる会社も多かったんじゃないですかね。
KNロジは誰か事務所に住み込んでいるわけではないので、カズオや植松がやっている夜間便や早朝に動き出す長距離チャーターなどは電話点呼です。
現在では遠隔点呼に使える携帯用アルコールチェッカーもある(商品例・アルキラーなど)ので、中〜長距離で毎日事務所に戻ってこない人はそれを使っているという設定ですが、焦げ猫は使ったことがありません…。
そういう商品が出る前だったので、アルコールチェッカーを示した自分の写メを送るという対応をしていました。
LINEスタンプに使った「運行開始です」のイラストも、それです。
業務が多岐にわたっている会社ほど、運行管理者の仕事も大変になりますね…。
エアブレーキ
トラックは中型以上になるとブレーキだけでなくいろんなモノのアシストにエア…つまり空気の力が使われます。
簡単にいうとコンプレッサーで圧縮空気を作ってブレーキやホーンに使ったりしてるのです。(厳密には油圧も使ってますが)
焦げ猫が初めて4t車に乗ったとき、エアブレーキに慣れるのに3日くらいかかりましたかね。
一定の踏み込みを超えたときの利きがスゴイので、乗用車や2t車のつもりで踏むとガックンしてしまうのです。
また、昔は乗用車のような吊り下げ式のペダルではなくオルガンのペダルのような、フロアに支点があるモノでした。
そっちに慣れてしまってトラックも吊り下げペダルになったときは「踏みにくい」とブーブー言ったもんですが、現在では殆どの車種が吊り下げ式です。
知らないうちに慣れてたのでよくわかりませんが、利き方も昔のエアブレーキよりマイルドになった気もします。
ちなみにさらに昔は、4tトラックでも油圧のみで、エアを使うより効きが悪かったので…「蹴っ飛ばしブレーキ」という言葉もありました(爆)。
積んでたら蹴っ飛ばすイキオイで踏まないと止まらなかったんです。
サイドブレーキなどほかのいろんなモノもエアアシストになったり、リターダという強力なエンジンブレーキが利く仕組みも大型にはほぼ標準でつくようになり現代のトラックは心強い車となりました。
が…肝心のエア系統に異常が起きて信号待ち中に急にエアが全部抜けたコトがあります。
ギアも入れられなくなりお手上げでした…。
今でもちょっと古い車だと1〜2日エンジンかけないでいるとエアが抜けててしばらく待たないと動かせない、というのはよくあります。
スーパーのセンター便とは
チェーン店のスーパーの「日配品」メインに、チルド温度帯でお店に納品する仕事です。
「日配品」というと、牛乳などの乳製品や卵・豆腐類・肉・野菜の一部などですね。
同じような店配でも、大抵のケースでは野菜は野菜の車・冷凍食品は冷凍食品の車がメインで配達し、日配品の車が優先で店舗のホームに着けていいことになっていました。
そういえば冷食・アイスの店配やってたとき先に降ろしてたチルドのドライバーが台車ブッ倒してホームがコーヒー牛乳の海になり、しばらく待たされたことがあったっけなぁ…。
焦げ猫自身も冷食の下敷きになったことがありますが。
業務内容としては…パワーゲートリフター(以下ゲート)つきトラックとカゴ台車での納品で、夜中から積み込みして開店前に2〜3件行って空台車と通いのメーカー別容器を回収…という流れで、大手スーパーのチルド品だとだいたい1日2便あります。
現在では折りたたみ式の「格納ゲート」が主流ですが、出回りはじめはちょっとした操作ミスでよく壊れました。が、格納ゲートはゲートを使えない場所の仕事もできるので高価ですが普及しています。
マンガ作中で槍杉さんが使っているのは「跳ね上げ式」のゲートリフターで、後ろの扉を兼ねているタイプです。
ゲートを上下させるリモコンも、昔は作中のように有線でしたが現在はワイヤレスになっています。
ちなみにこのいわゆるパワーゲート(テールゲートリフターとも言います)、この2月から特別教育が義務化されました。
台車に入っている荷物は作画の都合上わかりやすくするためにテキトーな段ボールで6割ほどしか入ってないですが、実際には台車の上まで番重がパンパンという感じです。
えっ、ときに槍杉さんは一体幾つなのかって?
彼は童顔ですが40行ってるかなという設定です…。
さて次回は、槍杉さんになにがあったのか…から始まり、トラックドライバーは「トラック好き」だけではなれないこともあり、昔はこんな会社・こんな運行もあったという話の一部を絡めつつ、適材適所の大事さを描いています。
マンガの各話だけを切りとって読むのではなく、できれば「そういう過去があるから今はこのように改善されたヒト・会社もある…」ということを全体通して知って頂ければと思っています。
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