見出し画像

見えないからこそ住みたいところ

定年したら田舎暮らしとか、「第二の人生プランを考える」みたいな特集を見かける


風光明媚、空気も食材も新鮮で物価も安い。いいなと思いつつ、待てよ、果たして自
分はそんなところで生活できるのだろうかと考えてみる。

車はもちろん、自転車の運転もできない、ガイドヘルパーも少ない。これはもう島流
しにあったと同義。座敷牢決定だ。


大学時代、地方出身の友達が実家には3台車があると言っていた。当時はなんつー金
持ちだと思っていたが、よくよく話を聞いてみるとそれは必要だからだった。お父さ
ん、お母さん、弟、それぞれに車がないと生活が立ち行かない。しかも駐車場も東京
より格段に安い。あるいは自宅の敷地がめっちゃ広いので、車の3台4台くらい置ける
スペースが余裕であったりする。
当時の私は住む場所でライフスタイルが違うという事を全く理解していなかったのだ



地方から東京の盲学校に来ていた友達は概ね故郷に帰らなかった。

長崎の人は、一番近いコンビニが歩いて30分だと言っていた。自転車に乗れるならま
だしも、弱視が徒歩で往復1時間は厳しい。ちなみに東京の盲学校からは歩いて5分以
内のところにコンビニが2件あったし、池袋にもバスや電車ですぐに行かれた。
誰かに車を出してもらわなければどこにも行けないなら努力のしようもない。でも、
都会なら頑張れば一人でアイスを買いに行かれるようになる。これなら歩行訓練のモ
ティベーションも上がるというものだ。
そして先生の免許を取って故郷に錦を飾るはずの見えない若者たちの大半が東京で就
職した。


しかし東京は家賃も何も値段が高い。公務員や団体職員になれた人はともかく、法定
雇用率として企業に就職した人たちは押しなべて低収入。だからそのために公営住宅
に優先権があったりもする。しかし多くの公営住宅は駅から遠くて買い物にも不便。

視覚障碍者の同僚で、健常者のお母さんとお嫁さんと娘一人と4人で都営住宅に住ん
でいた人がいたが、彼は毎日最寄り駅までタクシーで来ていた。区で福祉タクシー券
は支給されているものの、毎日の通勤となるとそんなのは焼け石に水。しかし彼は駅
の近くで部屋を借りるよりは、都営住宅に住んでタクシーで駅まで行った方が結局は
経済的だと話していた。
日常の買い物などは見えているお母さんとお嫁さんがやっていたので、買い物につい
ては問題はなかったようだが、これで見えない夫婦に小さい子供という家族構成だっ
たらかなり不便な生活になるだろう。

そして、公営住宅はいくら障碍者と言えど大変な倍率。そうそう当選するものではな
い。しかも家族優先なので単身者はまず無理。


視覚障碍者でもマンションや戸建て住宅を買って住んでいる人もいる。治療院を開業
していたり、家にいる時間が長い人はちょっと郊外でも広くて静かな住環境が快適で
いいだろう。そんなところにたまに遊びに行くととても快適でついつい長居をしてし
まう。

それに比べて私が住んでいるところは悲しいかな、1Kのウサギ小屋だ。
気になるほどうるさくはないけれど、決して閑静ではない。

しかし最寄り駅から1分。自力で行かれるコンビニが4件。買い物も便利で、ほとんど
見えない私でさえ買い忘れなど気にしなくてもすぐにまた買いに行かれる。周囲も明
るいので終電になっても危険を感じたことはない。
このまま完全に失明しても、最寄りの駅とコンビニまでなら自力で行かれるはずだ。


快適性を取るか利便性を取るか、これは障害の有無には関係ないあらゆる人に問いか
けられる究極の選択。

これから確実に高齢障碍者になっていく自分には引きこもらないためにも利便性の方
に優先順位を付けた方がいいような気がする。ウサギ小屋であっても病院にも生活に
必要な買い物にも便利な方が暮らしやすいだろう。。


定年後は物価も安くて食べ物もおいしい九州や北海道に住んでみたいなんていうあこ
がれはあるものの、現実を考えたら今の住環境が自分にとってベストなのだと思う。


ところで公営住宅、高齢者や障碍者など、移動困難な人たちは、数少ない駅の近くに
優先的に入れてもらえたりできないものだろうか。車とは言わないまでも自転車に乗
れるか乗れないかで、行動半径は劇的に変わってくるのです。

いいなと思ったら応援しよう!