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だってまおうさまは膝枕が嫌い

薄い膝担当2号、かわい いねこです

豚もおだてりゃ木に登る、ねこもおだてりゃスキューバダイビング。
最近は優しい人たちのおかげですっかり増長しまくらちよこです。
人生いろいろ枕もいろいろ。

お追従でも「また何か書いてくださいね。」なんて言ってくれる方がいると、調子に
乗ります。

膝枕リレークラブのメンバーも400人超えたし、読み手のひざまくらーさんも125人越
え、分母が増えれば面白がってくれる人がいるかもという励ましに背中を押してもら
いました。

脚本家の今井雅子さんが音頭を取ってはじまったクラブハウスの中の「膝枕リレー」
。今回の二次創作、元ネタはガチのBLですがこちらではその要素は皆無なので安心し
てくだされ。

ほとんど今井先生の原文をパクっているのですが、妙な設定を入れると世にも奇妙な
物語からライトノベルになってしまうのが自分でも面白かったです。

Haruさんの文章とたけしさんの設定も少しお借りしました。
残念ながら、ワニと象は入れられませんでした(涙)




だってまおうさまは膝枕が嫌い


休日の朝。独り身で恋人もなく、打ち込める趣味もなく、その日の予定も特になかっ
た男は、チャイムの音で目を覚ました。

ドアを開けると、宅配便の配達員がダンボール箱を抱えて立っていた。オーブンレン
ジでも入っていそうな大きさだが、受け取りのサインを求められた伝票には「枕」と
書かれていた。

「枕」

男の声が喜びに打ち震えた。

「受け取ってもらって・・・・いやいや、滅相もございません。わたくしがお運び申
し上げます。」

配達員は、取扱注意のラベルが貼られた箱を、お姫様抱っこの格好で、うやうやしく
男の部屋に運び入れた。

また男の「下僕化能力」が発動してしまった。


配達員を早々に追い返した男は、はやる気持ちを抑え、爪でガムテープをはがす。カ
ッターで傷をつけるようなことがあってはいけない。箱を開けると、女の腰から下が
正座の姿勢で納められていた。届いたのは「膝枕」だった。ピチピチのショートパン
ツから膝頭が二つ、顔を出している。


男の家は1000年以上前から続く世界征服をたくらむ魔王の家系であった。そのため、
本人が好むと好まざるとにかかわらず、周囲の人間が下僕化してしまうのである。
特に悪い人間は顕著に下僕化するため、高校時代には地本のヤンキーにアイドルの追
っかけレベルで付きまとわれ、大変困った。
そんなだから、まともな恋愛なんて夢のまた夢。メイドや奴隷になりたがる女子は数
あれど、恋人になってくれる女の子など一人も見つけることができなかった。

そんな時、ネット広告で見つけたのが「膝枕シリーズだった。

見た目も手ざわりも生身の膝そっくりに作られている。さらに、感情表現もできるよ
うプログラムを組み込まれている。だが、膝枕以外の機能は搭載していない。膝を貸
すことに徹している。

ラインナップは豊富で、男性向けから女性向けまで幅広くカバーしているらしい。

「これなら下僕化しないんじゃないか!?」

カタログを隅から隅まで眺め、熟慮に熟慮を重ね、妄想に妄想を繰り広げた末に男が
選んだのは、誰も触れたことのないヴァージンスノー膝が自慢の「箱入り娘膝枕」だ
った。

この膝があれば、もう何もいらない。男は箱入り娘の膝枕に溺れた。


男は職場でもかしずかれていた。

更に悪い奴ほど下僕化するので、セクハラパワハラ上司から粉飾決算まであらゆるコ
ンプライアンス違反を排除しまくり、周囲の尊敬と感謝を集めていた。

しかし社内では、恋人はおろか、親しい友人すらできなかった。


その日は職場の飲み会があったが、下僕化した人たちがお酌の行列を作るのがいやだ
ったのでそそくさと帰ろうとした。

「たまには付き合ってくれてもいいじゃないですか。」

隣の部署のヒサコが色っぽい視線を投げかけてきた。男の目はヒサコの膝に釘づけだ


「おかしい、この子はなぜ下僕化しないのだろうか。もしかして、この子となら・・
」。」

案の定お酌をされまくり、したたかに酔った男の頭が傾いてヒサコの膝に倒れこみ、
膝枕される格好となった。

その瞬間、男は作り物にはない本物のやわらかさと温かみに魅了された。

骨抜きになっている男の頭の上から、ヒサコの声が降ってきた。

「好きになっちゃったみたい」

その夜も、箱入り娘膝枕は、いつものように玄関先で男を待っていた。ヒサコの膝枕
も良かったが、箱入り娘の膝枕も捨てがたい。

「やっぱり君の膝枕がいちばんだよ」

つい漏らした一言に、箱入り娘の膝が硬くなる。浮気に感づいたらしい。そこに「今
から行っていい?」とヒサコから連絡があった。男はあわてて箱入り娘をダンボール
箱に押し込め、押入れに追いやると、ヒサコを部屋に招き入れた。
その夜、男はヒサコに膝枕をせがんだが、手を出すことはしなかった。

翌日からヒサコは男の部屋に通うようになるが、あいかわらず膝枕止まりで、その先
へ進まない。

「ねえ。誰かいるの?」

「そんなわけないよ」

すると、今度は押入れからカタカタと音がする。

「ねえ。何の音?」?

「気のせいだよ。悪い。仕事しなきゃ」

?「いいよ。仕事してて。私、先に寝てる」

?「違うんだ。君がいると、気が散ってしまうんだ」

男は急いでヒサコを追い返すと、ダンボール箱から箱入り娘を取り出す。箱の中で暴
れていたせいで、箱入り娘の膝は打ち身と擦り傷だらけになっている。その膝をこす
りあわせ、いじけている。

「焼きもちを焼いてくれているのかい?」

男は箱入り娘を抱き寄せると、傷だらけの膝をそっと指で撫でる。

「悪かった。もう誰も部屋には上げない。僕には、君だけだよ」

男が誓うと、「お願い」と手を合わせるように、箱入り娘は左右の膝頭をぎゅっと合
わせる。それから膝をこすり合わせ、「来て」と言うように男を誘う。

「いいのかい? こんなに傷だらけなのに」

「いいの」と言うように左右の膝をかわるがわる動かし、箱入り娘が男を促す。打ち
身と擦り傷を避けて、男は箱入り娘の膝に、そっと頭を預ける。

「やっぱり、君の膝がいちばんだよ」

「最低!」

男が飛び起きると、いつの間にかヒサコが戻って来ていた。玄関に仁王立ちし、形の
いい唇を怒りで震わせている。

「二股だったんだ……」

「違う! 本気なのは君だけだ! これはおもちゃじゃないか!」

男が思わず口走ると、「ひどい」と言うように箱入り娘の膝がわなわなと震えたが、
男は遠ざかるヒサコの背中を見ていて、気づかなかった。

男は、ヒサコへの愛を誓うことにした。

「ごめん。これ以上一緒にはいられないんだ。でも、君も僕の幸せを願ってくれるよ
ね?」

身勝手な言い草だと思いつつ、男は箱入り娘をダンボール箱に納め、捨てに行った。
箱からは何の音もしなかった。その沈黙が男にはこたえた。自分がどうしようもない
悪人に思えた。ゴミ捨て場に箱を置くと、振り返らず、走って帰った。

真夜中、雨が降ってきた。箱入り娘は今頃濡れそぼっているだろう。迎えに行かなく
てはという気持ちと、行ってはならないと押しとどめる気持ちがせめぎ合う。男はヒ
サコの生身の膝枕のやわらかさを思い浮かべ、自分に言い聞かせた。

「箱入り娘のことは忘れよう。忘れるしかないんだ。ヒサコの膝が忘れさせてくれる


眠れない夜が明けた。男が仕事に向かおうと玄関のドアを開けると、そこに見覚えの
あるダンボール箱があった。狭い箱の中で膝をにじらせ、帰り着いたらしい。箱に血
がにじんでいる。

「早く手当てしないと!」

男が箱から抱き上げると、箱入り娘の膝から滴り落ちた血が男のワイシャツを赤く染
めた。

「大丈夫? しみてない? ごめんね」

箱入り娘の膝に消毒液を塗り、包帯を巻きながら、男は申し訳なさとともに愛おしさ
が募った。こんなに傷だらけになって男の元に戻って来てくれた箱入り娘を裏切れる
わけがない。

そのときふと、男の頭に別な考えがよぎった。

「これもプログラミングなんじゃないか」

箱入り娘膝枕の行動パターンは、工場から出荷された時点でインストールされている
。二股をかけられたとき、捨てられたときのいじらしい反応も、あらかじめ組み込ま
れているのだとしたら、人工知能に踊らされているだけではないのか。そう思うと、
男はたちまち白け、箱入り娘がただのモノに見えてきた。

「明日になったら、二度と戻って来れない遠くへ捨てに行こう」


「まずい、これはまずい!」
膝枕カンパニーの研究室の隅、モニターを見ながら焦る男の姿があった。
そう、魔王がいるところ、当然勇者もいるのである。
30代目勇者は魔王の世界征服を阻止するため、「まめな男捕獲計画」を応用して、魔
王の所に自分用にカスタマイズした膝枕を送り込んで監視していたのである。
あわよくば魔王を篭絡し、無力化することが彼のミッションであった。

だから、雨の中、魔王が膝枕を捨てに行ったときは本当に焦った。
配達員にでも拾われたらどうする!ワニが来ないなんて保証もない。

勇者は夜中、捨てられた膝枕をそっとあぱーとの前に戻した。

「それにしてもあの女、何者なんだ!下僕化もしないで!ホントむかつく!」

勇者は吐き捨てるようにつぶやいた。


これで最後だと男は箱入り娘の膝枕に頭を預けた。別れを予感しているのか、箱入り
娘は身を強張らせている。箱入り娘の膝枕に頭を預けながら、男はヒサコの膝枕を思
い浮かべる。所詮、作りものは生身には勝てないのだ。

「ダメヨ ワタシタチ ハナレラレナイ ウンメイナノ」

夢かうつつか、箱入り娘の声が聞こえた気がした。

翌朝、目を覚ました男は、異変に気づいた。

「あれ? どうしたんだ? 頭が持ち上がらない」

頭がとてつもなく重い。横になったまま起き上がれない。それもそのはず、男の頬は
箱入り娘の膝枕に沈み込んだまま一体化していた。皮膚が溶けてくっついているらし
く、どうやったって離れない。

「これじゃあまるで、こぶとりじいさんじゃないか」

男は保証書に記された製造元の電話番号にかけてみたが、呼び出し音が空しく鳴るば
かりだった。


その時、血相を変えたヒサコが飛び込んできた。
「遅かった!!」
ヒサコは男の姿を見るなり叫んだ。


ヒサコは実は先代魔王の指令で男の職場に派遣されていた使い魔だった。世界征服に
対し、あまりに消極的な男を見るに見かねて先代が送り込んできたのである。
勇者の動きを察知したヒサコは、気のあるふりをしたり嫉妬してみたり押したり引い
たりして、膝枕から男の気をそらすため、あれこれ画策してきた。

「・・・だから下僕化しなかったんだ」

男はミニスカートから覗くヒサコの膝を凝視しながらつぶやいた。

とにかくこのままでは勇者の思惑に取り込まれてしまう。ヒサコは男を膝枕ごと車に
乗せると例の病院へと急いだ。


「くそ、あと一歩だったのに!!」
モニターを見ていた男がデスクにこぶしを打ち付けた。

「どうした。最近イライラしているね。昼飯一緒に鶏そぼろ丼でもどうだ。おごるぞ
。」
先輩の薫が声をかけてきた。
男はゆっくり席を立つと黙って薫の後ろに続いた。

今度こそ、今度こそ魔王を無力化してやる!!
勇者はこぶしを固く握りしめ決意を新たにした。

魔王と勇者の戦いはまだまだ続く。

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