見えなくてもボクシング
私は本来サブカル好きのインドア文系人間なのである。
なのになぜかボクシングをやる事になった。
しかも普通の人はボクシングで網膜剥離になったりするのに私はボクシングをやる前
から網膜剥離で手術している。
一体どういう事か。
始まりは8年くらい前に唐突にひどいアトピー性皮膚炎に見舞われたことだった。
こちらについてはまた別の機会に書こうと思うが、とにかく人間の皮膚ってこんなに
なってしまうんだというほどひどかった。
しばらくあれこれ治療を模索したのが功を奏して症状はだんだんましになっていった
。
そうこうしていた所、アトピーは炎症で熱の症状だからとにかく熱を外に出す、つま
り運動をして汗をかくようにしたらいいというアドバイスを受け、何か運動をせねば
という事になった。
始め近所の体育館の運動器具でマシーントレーニングをしたが、ほとんど汗もかかず
、しかもやっているうちに車を回しているハムスターのような気持になってしまうの
でやめてしまった。
そんな時同じ読書仲間の弱視の友人がボクシングをやっているという話を聞いた。
彼女は特に運動ができるタイプではないし、体力もあまりない。
要するに私と同じサブカルおばちゃんなのである。
彼女がやっているなら私もと、家から通える範囲のボクシングジムを調べて、ダメも
とで見学に行った。
私は同じくらいの視力の友人もやっているからと一生懸命アピールしてみた。
そしたら何のことはない、あっさり入会させてくれたのである。
私が「体験レッスンとかしなくていいんですか」と聞いたら、「同じくらいの視力の
人がやっているんでしょ」と言われた。
私は名前を書いたりロッカーのキーのナンバーを合わせたりできないので、名前は代
筆、キーについては貴重品だけスタッフルームで預かってもらうという事で解決した
。
トレーニングルームではほかにも何人もの人が縄跳びやスパーリングをやっている中
、スタッフがいつも気にかけてくれて危なくないように誘導してくれたし、タオルや
飲み物などはわかりやすい所に置いてくれた。
視覚障碍者がスポーツジムに入ろうとして、危ないからとかガイドがいなければとか
いろいろ言われて断られたという話は枚挙にいとまがない。
それなのに、なんという合理的配慮。
私は何のストレスもなく練習に励めたのである。
確かに悪者を倒せるほど強くはなれなかったが、汗をかくようになりアトピーも格段
によくなった。
加えて足腰が強くなったのか、以前だったら確実に階段落ちコースだったのが手前で
踏ん張れるようになった。
コロナ禍で家族にも反対されたのでジム通いは今は断念してしまっているが、落ち着
いたらぜひまた再開したいと思っている。
ジムスタッフの皆さん、きっとぜんぜん意識していなかったと思うけれど、視覚障碍
者がうれしいと感じる配慮にあふれていました。