見えなくてもカラオケ
カラオケは視覚障害者の1大エンターテインメント。
何かのイベントがあれば、ほぼもれなくカラオケがついてくると言うのはもはや定石
。
カラオケがなかった時代は皆一体どうしていたのだろうか。誰かがギターを弾いてと
か、後はもうどこでも何でもアカペラで歌ってしまうとか。
「歌声喫茶」の存在も見えなくなってから知ったけれど、こちらにも事あるごとに通
っていた人は多かったようだ。
見えなくなってすぐの頃に私が通っていた視覚障害者向け生活リハビリテーションの
施設にもカラオケクラブがあった。
もう30年以上前の話なので、当時の40代50代は演歌が主流だったけれど、これはこれ
で面白かった。「ああ上野駅」とか「小さなスナック」などはここで初めて聞いた。
私たち20代は若いメンバーだけでカラオケボックスに行くこともよくあった。
当時私はまだかろうじて見えていたので、テレビモニターの文字を追いながら歌って
いた。
「まねきねこ」も「うたひろば」もなかった時代である。
ところで、カラオケの歌詞を点字で追っていくにはかなりのスピードが要求される。
では文字も点字も読めない人はどうしていたのだろうか?
そう、歌詞を覚えるのである。
当時私が一緒にカラオケに行っていた友人たちは中途失明な上まだ訓練中だったので
、そこまで早いスピードで点字を読む事はできなかった。彼ら彼女らはとにかくひた
すら何曲も歌詞を暗記していた!!
しかも3番まできちんと。恐るべき記憶力!!
私は彼らを密かに「歩くヤンソン」と呼んでいた。
ちなみにヤンソンとはスウェーデンの人ではなく、昭和歌謡の歌詞とかコードが載っ
ている、昔懐かしい明星だか平凡についていた付録の事である。
盲学校の頃もイベントや飲み会の後には必ずカラオケがついてきた。
歌詞を覚えている人も自作の点字歌詞カードを持ってきている人もいたが、弱視の人
に歌詞を読んでもらっていた人もいた。
盲学校卒業後にプレイルメモという点字の電子メモが発売された。それ以降学生たち
も点字板ではなくこれでノートを取るようになった。ハードディスクに大量のデータ
を入れられるので、カラオケの歌詞もこれにストックしておけるようになったのであ
る。
紙の歌詞カードを使っていた頃は、突然カラオケに行くと言われてもそれを持ってき
ていなければ自分には歌詞カードがない。しかしブレイルメモを持っていれば、いつ
どのタイミングでカラオケに行くぞと言うことになってもノープロブレム。
検索で好きな歌を好きなときに出してくることができるのだ。
でもこれは点字のパワーユーザーだけの話。点字ができない人はやはり記憶力に頼る
しかない。あるいは晴眼者に歌詞を読んでもらう。
それがスマホの出現でドラスティックに変わった。
昨今はスマホで歌詞を検索してそれを音声出力したものを聞きながら歌を歌うという
アクロバティックな事をしている人もいるらしい。
この方法なら点字というハードルは越えられる。しかしこれができるようになるには
聖徳太子スキルを体得しなければならない。
音楽を聴きながらスマホの音声を聞きつつ歌を歌うのである。
しかし私はあのうるさいカラオケボックスでよくそんなことができるなと思うし、音
声出力されるワンセンテンスすら覚える短期記憶力がない。
目が見えれば、軽いノリで「ヨッシャー!カラオケ行こうぜ!!」という流れにもな
るだろうけれど、見えない人の場合は点字で歌詞カードを作ったり覚えたり、スマホ
を準備したりなど、とにかく前準備が大変。遊ぶにも地道な努力と根性が要求される
。
見える人に歌詞を読んでもらうという方法もあるけれど、私の場合、人の手を借りて
までなぜカラオケに行かねばならんのだという気持ちが先行してしまい、何となく積
極的に参加しようという気になれない。それ以前に歌もそれほど好きではない。
コロナ禍になり、視覚障害者の間にも音声SNSClubhouseユーザが増えてくると、そこ
でもカラオケルームができた。
Clubhouseは伴走と歌がうまく合わないので、別のヤマハのアプリからClubhouseに音
声を転送していた。
年齢層が比較的高かったせいか、そこで歌われていたのはほとんどが昭和歌謡。
しかしそれには別の理由もあり、かなり点字ができる人でも最近の早いスピードの曲
は点字では追いつけず、あらかた覚えていなければ歌えないという話をしていた人も
いた。
それでもカラオケは視覚障害者たちの間ではかなり手軽なエンタメ。最近では見えな
い人だけでカラオケボックスに行ってもスマホで曲を入力できるようになったことも
ありさらにお手軽感が増した。お金もあまりかからない。
友達が12時間耐久カラオケなんてやっている。そんなに長くいてもかかるお金は3000
円4000円位らしい。
別に歌は歌わなくてもお酒を持ち込んで騒いだりしゃべったりしているだけのグルー
プもいるらしいから、それぞれがそれぞれの楽しみ方で時間を過ごしているようだ。
さすがに私も12時間は無理だけど、途中参加でおしゃべりチームに加わってみようか
なと最近ちょっと思い始めている。
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