お隣の膝枕にいつの間にか駄目人間にされていた件
膝枕リレー2_knee_周年おめでとうございます。
ヒザマクラーの皆さんのおかげでこの2年間楽しい在宅寝たきり盲人生活を送ること
ができました。
僭越ながら、私もアニバーサるべく皆さんの素敵な作品の中に毎度ばかばかしくも薄
い2次捜索をこそっと投下させていただきます。
今井先生、素敵なご縁をたくさん、本当にありがとうございました。
こちらは2021年5月31日からClubhouseで朗読リレー(#膝枕リレー)が続いている短
編小説「膝枕」(通称「正調膝枕」)の派生作品となっております。
二次創作noteまとめは短編小説「膝枕」と派生作品を、朗読リレーの経緯、膝番号、
Hizapedia(膝語辞典)などの舞台裏noteまとめは「膝枕リレー」楽屋をどうぞ。
短編小説「膝枕」と派生作品|脚本家・今井雅子(clubhouse朗読 #膝枕リレー )|n
ote
5月31日からClubhouseで朗読リレー(#膝枕リレー)が続いている短編小説「膝枕」
の正調、アレンジ、外伝まとめ。
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お隣の膝枕にいつの間にか駄目人間にされていた件
休日の朝。独り身で恋人もなく、打ち込める趣味もなく、その日の予定も特になかっ
た男は、隣のチャイムの音で目を覚ました。
続いてドアが開く音。かなり大きなものが受け渡されているようだ。
「休みだっつーのに朝から何やってんだ?!」
ぼやく男の耳に隣人の声が届く。
「枕」
喜びに打ち震えている?!
「受け取ってもらって、いいっすか?」
けだるそうな配達員の声が重なる。
枕?!枕って枕だろ。あんなでかくて重そうな枕何てあるのかよ!?」
男が独り言ちる。
ドアに鍵をかける音に続き、ゴソゴソと梱包を開いているらしき音。
安普請の1Kアパートは隣の音が駄々聞こえなのだ
「それにしても本当に何なんだ?!あのでかい枕!」
眠気も吹っ飛んだ男の耳がダンボになる。
「カタログで見た写真より色白なんだね」
隣人の声。
誰かいるのか?!それは考えられない。
今届いた荷物に話しかけているのか!?
ヤバいだろう!!気持ち悪すぎる!!
「おまわりさーん!ここに不審人物がいまーす」
叫びそうになるのを住んでのところでこらえる。
隣の男は見たところさえないサラリーマン風。顔を合わせばお互い挨拶はする。毎朝
定時に家を出ていくから普通に働いているのだろう。
しかしああいう一見普通そうなのがヤバいのだ。
隣人の声はまだ続く
「よく来てくれたね。自分の家だと思ってリラックスしてよ」
初めて家に来た女の子を招き入れるような不気味に甘い声
やはり今届いた荷物に話しかけているとしか思えない!!
「その……着るものなんだけど、女の子の服ってよくわからなくて.……」
しどろもどろにささやく。
「一緒に買いに行こうか」
だめた!これはもうアウトなやつだ!!
男はもう惰眠をむさぼるどころではなくなった。
翌日、隣人は大きな旅行鞄を持って出かけて行った。
男が薄くドアを開きのぞいてみると、白くて丸いものが二つカバンからはみ出してい
た。
いよいよもって不信感が増していく。
彼は小一時間ほどで戻ってきた。
手にはあの旅行鞄のほかにデパートの紙袋を下げていた。
「なんだ、旅行へ行ったんじゃなかったのか?」
しばらくゴソゴソと音が続いた後、また隣から話し声が聞こえてきた。」
「いいね。すごく似合ってる。可愛い……もう我慢できない!」
声と同時にボサッという音が聞こえたかと思うと静かになった。
その翌日から隣人は家に戻るたびに元気に「ただいま」と言うようになった。
家の中でもああだこうだとどうでもいいような話をしている。彼の声しかしないので
他に誰かいるような気配はない。
イマジナリーフレンドとか「俺の嫁」的なフィギュアとかなのか?!
友達も恋人もいなさそうな隣人、ただ隣に住んでいるだけで他人事なのだが、なんだ
か心配になってきた。
「病院にでも連れて行ってやった方がいいのかな。」
そんなある日、隣に女性が訪ねてきた。
はじめ、心配になった家族かなんかが訪ねてきたのかと思ったがそうではなさそうだ
った。
彼女は毎日のように隣に来ては楽しそうに隣人と話している。
「あんな奴にも彼女ができるのか?!」
しかもこっそり覗いたところ、相当な美女!!!
男は一瞬たりとも彼に同情したことを心から後悔した。
泊まっていく事もあったが期待していたような音声は聞こえてこなかった。
そんなある夜中、男は女のヒステリックな叫びにたたき起こされた。
「最低!」
何事が起ったのかと思う間もなく叫びは続く
「二股だったんだ……」
「違う! 本気なのは君だけだ! これはおもちゃじゃないか!」
ヒールが走り去る音。
「あいつ、あんな顔であの美人と誰か、二股かけてたんだ。」
驚きとともに美人にバレてバッサリ振られた間抜け男にざまあみろと悪態をつく
「え?!今あいつ、おもちゃって言わなかったか?!おもちゃって何だ?!」
しばらく沈黙が続いた後、女がいなくなったはずの隣からまた声がする。
「ごめん。これ以上一緒にはいられないんだ。でも、君も僕の幸せを願ってくれるよ
ね?」
男はもう寝てなんかいられなかった。
それから段ボールに荷物を詰めるような音がしたかと思うと隣人はその大荷物を運び
出した。
外階段を下る音。そしてまたすぐ上がってきた。
ゴミを出したのか?!
いてもたってもいられなくなった男は音をたてないように細心の注意を払ってゴミ捨
て場を見に行った。
案の定オーブンレンジでも入っていそうな大きさの段ボールがそこにあった。
開いてみると、白いレースのスカートをはいた女の腰から下が入っていた。
「膝枕!!」
男は最近見た「膝枕シリーズ」というネット広告を思い出した。
見た目も手ざわりも生身の膝そっくりに作られている。さらに、感情表現もできるよ
うプログラムを組み込まれている。だが、膝枕以外の機能は搭載していない。膝を貸
すことに徹しているという癒しグッズだ。
「そうか、これだったんだ!!」
男はすべてが腑に落ちた。
同時に膝枕に並々ならぬ興味がわいてきた。
隣の男があの美人と二股をかけるほどの商品とはどんなものなのだろう。
「捨ててあるものなんだから、泥棒にはならないよな。かえってリサイクルでエコだ
よな。SDGsだよな。」
男は自分に言い聞かせるとまたまた音をたてないように細心の注意を払って膝枕を自
室に運び込んだ。
箱から出した膝枕はどうやら「箱入り娘膝枕」という商品名らしい。
隣の男のチョイスにちょっと背筋が寒くなる。
しかし、「箱入り娘」の商品名に偽りはなかった。恥じらい方ひとつ取っても奥ゆか
しく品がある。正座した足をもじもじと動かすのが初々しい。一人暮らしの男の部屋
に初めて足を踏み入れた乙女のうれし恥ずかしが伝わってくる。
ああ、これだったんだなと男は納得する。
「見せてもらおうか、箱入り娘膝枕の寝心地とやらを!」
男は心の中でささやくと音をたてないように膝枕に頭を預けた。
すると、マシュマロのようにふんわりと男の頭が受け止められる。白いスカート越し
に感じる、やわらかさ。レースの裾から飛び出した膝の皮膚の生っぽさ。男は天にも
昇る気持ちになった。
この膝があれば、もう何もいらない。
男は箱入り娘の膝枕に溺れた。そしてやわらかなマシュマロに埋(うず)もれる夢を
見た。
翌日男はまたしても隣のガタガタいう音で目覚めた。箱入り娘膝枕はいなくなってい
た。
そっとドアを開けて隣を除くと、
隣人は箱入り娘を抱き寄せて膝をそっと指で撫でていた。
「悪かった。もう誰も部屋には上げない。僕には、君だけだよ」
彼が誓うと、「お願い」と手を合わせるように、箱入り娘は左右の膝頭をぎゅっと合
わせる。それから膝をこすり合わせ、「来て」と言うように彼を誘う。
彼が膝枕を抱き上げて部屋に入っていく。
男は唖然とした。
「あいつは君を捨てたんだぞ!そんな男より俺の方が君を大事にできる!!」
男は盲箱入り娘膝枕の魅力から逃れられなくなっていた。
その後しばらく悶々と過ごしていたある朝、男は救急車の音で目を覚ました。
救護員がバタバタと外階段を上がってくる。
「うちのアパートか?!」
どうやら隣の男らしい。またドアを薄く開けてのぞいてみる。すると膝枕を頭にくつ
けた隣人が運ばれていった。
「なんだなんだ何事だ?!」
男は盲何が何だかわからなくなってきた。
後に調べてみたところ、膝枕は購入者とシリアル番号でつながるようブログラミンく
されているらしい。
「だからうちに連れてきても隣に戻っていったのか!」
そしてこのところ、枕には中毒性があり、消費者センターにも頭が枕に沈み込んでし
まうという事故が何軒か訴えられているらしいという事を聞いた。
注意を促す文言が、保証書の隅に肉眼で読めないほどの大きさでしか記されていない
のも問題になっているようだ。
男はあのまま購入に至らなかった自分をほめてやった。
しかしもうあの感触を知る前には戻れない自分がいるのも確かな事にも気づいていた
。