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演技派
人の視線を感じることで相手が何を考えているかだいたいわかってしまう。
だからこそ自分が楽なように立ち回ることもできるはずなのに、なんかピンとこない。
納得がいかない。
そんな自分を俯瞰で見て、反省して、納得いくように頭の中で美化して映像化する。
さっきの発言を、どんな台詞にしたらおもしろくできたか。
ドラマや映画のような無駄のないやりとりにするには、自分のさっきの発言をこっちに置き換えて相手からこう言われて、言葉数は減ったけれどお互いに通じ合えたかも。
みたいなことばかりで。
今、奥にいるあの人から見られている。
すごい気になる。
始業前で憂鬱だからといって一点見つめしていたら病んでいると思われるかもしれないから、自然に目線を散らし、入ってきた人に機嫌の良い声色で挨拶をし、手遊びをし、肩のストレッチをする。
私はなんにも気にしていない。
向かい合わせに座る同僚の奥に掛けられているカレンダーを見ていると必ずその同僚と目が合うので、話したくないときはできるだけ忙しいフリをして目を合わさない。
カレンダーを見て、手元の付箋にわざとメモ書きをして、カレンダーと付箋をチラチラと照らし合わせ、付箋を目の前のペン立てに貼り付ける。実際に役に立つメモの時もあれば、間に合わせでどうでもいいことを書く時もある。
一応、カレンダーを見ている間に目が合った場合の話題を考えておく。
「来月は連休多いですね。ラッキー」
適当でいい。
目が合って友達以上恋人未満みたいに微笑み合うのを誰かに見られるよりはまし。
先輩が先輩と同い年の〇〇さんに向かって
「もし今から僕があの業務任されたら、こっちの作業は〇〇にお願いしてもいい?」
と依頼した。〇〇さんは、他のことに忙しそうにしていて、「うん」とだけ答えた。
上の空且つご機嫌斜めだった。
先輩と〇〇さんが喧嘩し出してもおかしくないかも!と思って緊張が走った。
高校の部活なら口出ししていたかもしれない。
ここで私がキレたらどうなるのだろう。
「いやちょっと、その返事は違うでしょ。〇〇さんが忙しいのは分かりますけど、話は聞かないと。何かあるなら今すぐ抜けて2人で話してきてください!こんな気まずい空気で仕事できないんで!」
言えるはずがない。
最近色々あったし、負担もかけてるし、分かるけど、それ以上の会話はなくて、しっかり張り詰めた空気になった。
そこにいる全員が不器用だと感じ、すぐに映像化できた。私は張り詰めた空気の中に巻き込まれた被害者役となった。
大勢の人と働くという環境。
気にしていない、聞いていないふりが得意なだけにしんどいことが積み重なる毎日。
自分が楽なように工夫しているけれど、
他人の行動や他人同士の会話など、自分だけではどうにもできないことがたくさんある。
私の立ち回りが納得のいかない結果に終わったところで、他の誰にも影響しないのは分かっている。
笑っているのは俯瞰で見ている自分だけ。
影響はしないけど、私と同じような感覚の人に頭の中を覗かれている気がする。
私もそうしているように。
「あー、今日も演技やってんな」
という声が、すぐそばから聞こえてくる。
その人のためにも、自分のためにも、
できるだけ笑える動きをして、うまくいかない今を楽しむ以外に逃げ道はない。