仮想通貨は法定通貨を代替するのか?
第2弾はうってかわって仮想通貨についてです。ビットコインで15万円損失を出している僕が語るのは憚られますが頂いたお題に対して頑張って書いています。
ちなみに去年読んだ下の本から得た知識が多いです。この本は仮想通貨に限らないお金のしくみがまとまっており、具体例も多く読みやすくておもしろいのでおすすめです。
・結論
「今のビットコインに代表される仮想通貨は、価値基準としての安定を実現させながら、送金取引の利便性を保つのに必要な報酬をマイナーに持続的に払い続ける仕組みがまだ確立されていないようにみえるので、貨幣が流通する3大条件を満たさず普及は難しい。だが長い目で見れば法定通貨に匹敵する流通は、上の課題を解決したうえで達成されうる。」
なんとも歯切れの悪い文章です。これは結構無理難題でしたね。
今回は仮想通貨がなぜお金として機能するのか的なところから書いていきます。
・お金とは記憶である
歴史上、石、貝、金、様々なものがお金として認識されてきました。お札が金と交換できなくなっても、人々は変わらずお札をお金として認識しています。電子マネーや、ビットコインに代表される仮想通貨も新たなお金として台頭してきました。こうなってくるとお金の役割とは何なのかという問いに答えるのは意外と簡単ではありません。
僕が今まで目にした説明で最もしっくりくるのはマイケル・ブライアンという経済学者による「お金とは誰かの生産と消費に対する社会の記憶を提供する単なる伝達の道具である」というものです。
彼はヤップ島のライと呼ばれる巨大な石貨を研究していました。この島の住民は重すぎて移動させられない石貨の所有権をやりとりすることで、経済的な取引をし、何と石自体が嵐で海の底に沈んでしまっても、石の所有権が持つお金としての価値は変わらずに残り続けたといいます。
そしてヤップ島の歴史から500年経った今日、ほとんどのお金の取引は、銀行間のバランスシート調整で行われる電子振替に代表されるように、物理的なものの移転が一切なしにおこります。もはやお金は従来のような物理的創造物である必要はなく、取引記録の提供こそがお金の果たすべき唯一の技術的な役割であるともいえます。
難しい話になりましたが、もし違法にも賭けポーカーをやっている人たちがいたとして、お金のやり取りはせず勝ち負けを紙とペンで記録し、後日敗者が勝者に対してラーメンをごちそうした分を記録から差し引いたら、そもそも物理的なお金のやりとりは実際には2人の間では起こっていないことになります。
コチャラコタ前ミネアポリス連銀総裁の「効率的な経済取引という点でお金で実現できることは全て記憶で実現できる」という言葉はこれらの考察を反映したものになっています。
・ビットコインの本質は新世代の取引記録システム
さて前置きがかなり長くなりましたが、かといって人間の記憶や紙とペンでの記録には限界があるので、現在では銀行に代表される中央集権的な組織が記録の役割を担っています。クレジットカードの普及も情報の記録・アクセスの費用をクレジットカード会社が担うことによって実現されています。
一方で仮想通貨の代表例であるビットコインは、そのような中央集権的な組織は存在せず、インターネットなどのオープンなネットワーク上で、ユーザー全員で管理、監視しあっていく分散型台帳と呼ばれる技術によって取引記録を蓄積していきます。この革新的な仕組みとその記録こそがビットコインをお金たらしめる源泉となっています。
・マイニングに要する電力が価値の源泉
分散型台帳による取引記録の蓄積はボランティアではなく、複雑な計算問題を解くことによる取引承認プロセス(マイニング)を完了させたユーザー(マイナー)へのインセンティブとして①新規発行のビットコイン報酬と②取引手数料を支払うことで達成されています。
取引手数料を負担するのは基本的に送金主であり、定額ではなく送金の需要とマイニングの供給に基づいて送金手数料は変動します。過去には1回の送金手数料が最大6,000円を記録したこともありますが、現在は数百円程度で、高速で安価な送金機能がビットコインの一つの魅力となっています。
そしてマイナーが負担する費用としては、この複雑な計算を行うためにコンピュータを稼働させる電気料金が主となります。実はこれがかなり膨大で、現時点で既に全世界の電力の0.40%がビットコインの取引に消費されています。これは国1つ分の電力消費に匹敵する規模で、国ごとの序列だと全196か国中35位の消費量ということになります(参考: CBECI)。このとてつもない電力消費こそがビットコインの採掘コストであり、その価値を裏付ける指標の一つであるとも言われています。
・通貨の三大機能
ここまででビットコインのようなネットワーク上の仮想の概念がなぜお金としての機能するのか、その仕組みを簡単に見てきました。そして漸く本題の「仮想通貨は法定通貨を代替するのか?」を考えます。
これはかなりよくある議論でGoogleで検索すればいろいろな人の説が出てきます。そこで必ずと言っていいほどなされるのが、仮想通貨は通貨の三大機能として①価値の尺度、②価値の保存、③決済機能を備えているかというものになります。
仮想通貨の最大の課題が価値の尺度としての役割で、市場評価が安定していない以上は通貨として浸透しづらいことになります。ビットコイン建てで30年の住宅ローンを組む勇気は誰にもないですし、ビットコイン財団ですら本当は給料はドル建てで給料日のレートに合わせてビットコインに換算して支払いを行っているらしいです。
とはいえ、これって結局みんなが使いたいと思うようなお金になれば三大機能のどれも達成されるんじゃないかなと個人的には思ったりもします。つまり今現在投機的対象でしかない仮想通貨が貨幣の三大機能をどの程度持っているかという評価は、将来を予測するうえでとりわけ役に立たないのかもしれません。
・仮想通貨の送金コストは既存通貨より実質的に安価か?
では例えばビットコインが普及する条件は何かというと、結局ユーザーが既存の通貨よりも便益を感じられるかということに尽きると思います。そして今ビットコインが通貨として持つ強みは高速で安価な匿名での送金取引にあるでしょう。これを可能にしているのが分散型台帳にて行われる取引承認プロセスです。
そして今現在、ビットコインの送金コストは一般的な銀行間の国際送金に比べて安価な状況となっています。これが達成されるのはマイナーが送金手数料に加えて、新規発行のビットコインを報酬として受け取っているためで、実は報酬のほとんどを後者が占めています。この部分に個人的には持続性の疑問を感じてしまいます。
というのもビットコインには上限の発行数が設定されており、2140年ごろには新規発行が停止されます。その時にマイナーの受け取る報酬は現在小額の送金手数料のみとなり、高額なマイニングの電気代を賄えないことが予想されます。これにより送金手数料の値上げが将来的に引き起こされる可能性が示唆されます。
・価値の安定と送金の利便性の両立が課題
もちろんビットコイン以外で発行上限数が設定されていない仮想通貨もありますが、それはそれで価値の安定が難しいという課題が発生してきます。通貨として価値を安定させ、送金コストの優位性を保ち、マイナーに持続可能な報酬を払い続ける仕組みが今はまだ確立されていないというのが、仮想通貨の現状ではないでしょうか。
とはいえ、仮想通貨はまだ発展途上であり、今後新たな仮想通貨の登場などによっていずれ法定通貨に匹敵するような流通が起こる可能性は十分にあると思います。特に貨幣価値の安定しない発展途上国では、ビットコインの方が通貨として信頼されているケースもあるようです。歯切れは悪いですが、今後の動向に注目したいと思います。
・おわりに
いや、普通に難しすぎましたね。いろいろ的外れなとこありそうですが、僕は兎にも角にもマイニングの電力消費量に度肝を抜かれてしまいました。
とりあえず今持っているビットコインは売らずに保有しておこうと思います。