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さらば、わが愛 / 覇王別姫


チェン・カイコー監督

『さらば、わが愛 / 覇王別姫』


観ましたよ...やっと... 

おとといの夜鑑賞して、今もまだ陶酔状態です。

もうしばらく帰って来られません。グッバイ、現!


はじまりは、1925年の北京。

女郎の私生児として生まれた小豆子は、「京劇俳優養成所」に預けられます。

それも多指症を理由に入所を断られた直後、「これなら良いんでしょう!」と言わんばかりに実母に指を切り落とされるという、半ば捨てるような形で。

半ばというか、9割9分捨ててますね。

悲しみはそれだけでは終わりません。

入所が認められたのは良いものの、今度は養成所の仲間から「淫売の子」としていじめられる現実が待っていました。あまりの苦境に小豆子は心を閉ざそうとします。

しかし...

「いじめるな!」

絶望から引きあげて助けてくれたのは、先輩団員の石頭。

この出来事をきっかけに、小豆子は石頭を兄のように慕うようになります。


日々の厳しい稽古に耐え、めきめきと役者としての頭角を表すようになった小豆子と石頭。

偉い様にも見初められ、成長した彼らはそれぞれ程蝶衣(レスリー・チャン)、段小楼(チャン・フォンイー)という芸名を名乗り、トップスターまで上り詰めていくのですが...


流れゆく時というものは優しく、そして同時に残酷でもあります。

時代背景は日中戦争、文化大革命へ、

小豆子が石頭に抱いていた思慕はやがて恋慕に変わっていき、

それに合わせるように京劇のあり方、小豆子と石頭の関係もうつろいでゆくんですね。



遊郭で女性と遊ぶ石頭に、

「僕から離れないで」

「一年、一月、一日、一秒 離れていたくない」

と縋るように小豆子が言葉をこぼすシーンがあるのですが、もう。

ここでわたしは爆散しました。

過去にも爆発は体験しましたけど、四肢もろとも体ごと吹っ飛んだのは初めてかもしれない。


もうとにかく、美しくて切ないの。

ずっと夢と現の間を彷徨っているかのようなその表情が。

なんて言うか、「あぁ、このひとはきっと幸せにはなれないだろうな」って感じさせるような。そんな危うさがあるんです。でも同時に、強くもある。

哀しみと共に生きる覚悟のあるひと、なのかな。虞美人がそうだったように。


少年の頃、2人が『覇王別姫』をはじめて大々的に演じたお屋敷で見つけた立派な刀。

「こんな刀があれば楚王(項羽)は漢王(劉邦)を殺し、お前(虞美人)を妃に据えたのに」

「じゃ、兄さんが持ってて」

幼い頃の何気ない会話ですが、この言葉をずーーっと小豆子は覚えているんですよね。

お屋敷が廃れて解体されて、刀の行方が知れなくなった後も探し続けて、大人になってからパトロンのコレクションの中にあるのを発見しまして。

2人の名声を守るため、そしてあの言葉を、愛する兄を信じて自らの身体と交換に刀を手に入れます。

その刀を持って遊郭の女郎、菊仙(コン・リー)と石頭の結婚式に行き、彼に渡すのですが、

「うん、いい刀だ! だがここは舞台ではないぞ、刀に用はない」




大切にしていたものが時の流れで消え去って、時代に合わせて無理やり形を変えさせられていく。

日本軍が攻めてきたのなら媚びねば生きていけないし、共産主義が蔓延すればアカになるしかない。「京劇」も「小豆子」も「石頭」もそこに「在り」はするけれども、もう以前のようにはいられない。変われないのなら、翻弄されて散る未来しかない。

京劇の亀裂が少しずつ広がるように壊れていく様は、そのまま小豆子の姿に重なるようで...


石頭は「変わる」ことを受け入れ色々なものを手にし、また色々なものを無くしました。

小豆子は「変われず」、色々なものを無くしました。でもその代わり、大切なものを最後まで失いませんでした。


どちらが正しいと言うことはないでしょう。

ですが先に進むたびに過去を否定して、そうやって歩き続けて行った道の果てには、一体何が待っているのでしょうか。



定かではないけど、小豆子が石頭のことを「小楼」と役者名で呼んだのは、決別を告げた時の1度きりだった気がする。それ以外はずっと「兄さん」呼びだった、はず。

対する石頭はずっと「蝶衣」呼びだったけど。この辺りも切ない。


兎にも角にも、程蝶衣もとい小豆子を演じるレスリー・チャンが素晴らしかった。


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好きなシーンは山ほどあるけど、長くなったからこれくらいにしておこうかな。




最後に。

この作品を観て痛感させられてしまったのは、

「美しいひとやものがまだ美しいままで壊れていく様」を見ることに、わたしはカタルシスを感じるタイプの人間だったってことです。そのことはちゃんと認識しておかなくてはいけませんね...

「他人を娯楽として消費する」、我々が無意識に行なっていることですが、自覚してみると何と恐ろしいことでしょう。


『さらば、我が愛 / 覇王別姫』、1人でも多くの人に観てもらいたい。

そしてこの作品が、何百年先も愛されていることを願ってます。



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”覇王別姫" 2021.3.17


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