エッセイ「カラオケ」雑誌SPIN/スピン(河出書房新社 )の永田敬介さん
とにかく、このエッセイ読んでみてください!
自らの身に起きた出来事を、独自の着眼点で笑える漫談に昇華し、お笑いファンに強い衝撃を与え続けている大注目のピン芸人、永田敬介。
「スピン」3号に掲載されたエッセイ「ディズニー」も大好評だった永田さんによる、書き下ろしエッセイをお届けします!
永田敬介さんと文芸誌「スピン」
約1年前、2024年3月末に発行された、河出書房新社「スピン」3号。この文芸誌に永田敬介さんのエッセイ「ディズニー」が掲載されました。
こちらのエッセイは、YouTubeにもアップされている漫談をご覧になった出版社の方が、ぜひエッセイ化したいということで、オファーがあったものだそうです。
確かに、永田さんの漫談は、実際に自分の身に起きた出来事を喋っているものが多いです。それを思いもよらないような視点から斬ったり転がしたりしていくのが、本当にすごいところです。
永田さんの書き言葉
永田さんは、ブログやnoteを公開されていません。SNSも週1回、ラジオの更新のお知らせをされるのがメインであり、永田さんが書かれた言葉に触れる機会はほとんどありません。
ラジオでお話されていましたが、正確にはnoteは書いているけれども、全て下書きに入っているそうです。官能小説なので自分の名前では外に出せないと仰っていますが、また、どこかの出版社が口説き落としてくれないでしょうか。いつか読んでみたいです。
SNSでは、良くも悪くも感情が大きく動かれた時に呟きをされることがありますが、それも頻繁ではありません。呟き一つにも、かなりの時間をかけて推敲されていると聞きます。この永田さんの言葉への向き合い方は大好きなところです。いつも、呟き一つひとつを、大切に味わわせていただいています。
もっと、永田さんの書く言葉に触れてみたい!
ずっとずっと願ってきたところでしたが、2024年5月24日、前触れもなく、文芸誌「スピン」のWEBサイトに、永田さんのエッセイが公開されました。
またエッセイを書きました。タダで読めます。
— 永田敬介 (@nagataksk) May 24, 2024
スピンさんのお陰であの夜孤独だった僕を10年越しに世間の人々に会わせる事が出来ました。覚えておいて良かった。肝心の次の日やったネタは本当に何も思い出せません。 https://t.co/sGwWASAQbc
この日、スマホの通知音が鳴り、こちらの永田さんの呟きを目にした瞬間、感情が一気に沸騰して身体が熱くなるような感覚がありました。午後8時45分。絶賛残業中でしたが、喫煙者がタバコ休憩するんだから、私だって永田敬介休憩するんだからね、と思い、席をはずして、エッセイを一読しました。最高すぎて、疲れが一気に吹き飛ぶような感じがしました。私にとって、永田さんの言葉は、ヤバいおくすりみたいな効果があるみたいです。
そもそも、この呟き自体が素敵じゃないですか!
あの夜孤独だった僕を10年越しに世間の人々に会わせる事が出来ました
私も、10年前の永田さんにこうして出会えて、とても嬉しいです。
エッセイ「カラオケ」の好きなところ
文章が、本当に上手いな、と思いました。丁寧に繊細に言葉の一つひとつを紡がれているような感じがします。
冒頭の一文があまりに素敵で、何度も何度も読み返しています。
もし催眠状態の俺に心理カウンセラーが耳元で「カラオケ」と囁いたら、無意識下の俺は「常温のポッキー」とだけ呟くだろう。
以下、ザッと、好きなところを箇条書きにしていきます。誤読も含まれているかもしませんので、その点、お含みおきいただければ幸いです。
4歳か5歳頃でしょうか。幼い永田さんの感性の鋭さに驚かされました。そしてそれを鮮明に覚えているというあたりも。
芸歴1年目2年目の頃のエピソード。漫談やラジオなどでは、まるで昨日起こった出来事かのように、感情をぶつけてくるような熱を感じる喋りで、おもしろおかしく聞かせてくださるのですが、書き言葉だと、静謐な響きをまとって、こちらに届いてくるのが新鮮です。
まずい唐揚げ丼が鍵となって、永田さんの中に子供時代の記憶が鮮明によみがえってくるくだり。前半の、過去の記憶の一枚一枚が、スライドのように小気味良く切り替わっていくようだった書きぶりが、一気に、その時点の永田さんの恐怖と孤独にフォーカスされていく構成が美しく、素敵だと思いました。そこから永田さんの感覚と思考にぐっと入り込んでいって、詳細に書き込まれていく展開も。本当に上手いなと思います。
その恐怖と孤独に対抗するためCM集を真剣に見続け、詳細にレビューするというのは馬鹿馬鹿しい行動ではあるけれども、ここで、永田さん持ち前の独自の視点が全開になるのが読み応えがあります。最後のNARUTOレビューには永田さんの筆に乗せられて、ちょっと感動も覚えました。
天才と呼ばれた青年が、天国から地獄に突き落とされるような体験をして、「人格が歪み捻じ切れるくらいのショックとストレスを受けた」(この表現も素敵です。)こと。この挫折した事実を何年も受け入れられず、現実逃避をしていたこと。
これらを、真っすぐに自分語りの言葉にすることもできるけれども、そうしないのが、すごいなと思いました。
賞レース予選前日にネタも書かずにカラオケCM集を見続けていたという常軌を逸した行動。しかも10年経っても詳細に覚えていられるくらい真剣に見続けていたというのが、10年前の永田さんの精神の追い詰められた状態を、何より鮮やかに描き出し伝えてくれているように思いました。読みながら、当時の永田さんの心に寄り添うような気持ちになり、切なくなりました。
ひとまず、ザッと140字に収まりきらないことを書きました。
また、永田さんの書かれた言葉に触れられる機会がありますように!