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令和6年能登半島地震の被害状況についてのデータ・エビデンス(1/8時点)

お正月から非常に大きな災害が起こっており驚きました。今回の地震で亡くなられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災された方々に心からお見舞い申し上げたいと思います。
個人的な関心から、報道を見ながらデータやエビデンスをいくつか調べてみており、今後振り返る際の役に立つのではないかと思い、まとめてみておくことにします。
なお、私自身は今回の被災地域に行ったことがなく、あくまで「調べてわかったこと」にすぎません。現地をご存じの方でもし気になる点などがあれば、ぜひコメントいただければ幸いです。

揺れによる被害

被害量

被害の具体的なボリュームはまだ明らかになっていませんが、現時点で得られる情報として、防災科研「防災クロスビュー」(https://xview.bosai.go.jp/)にて建物被害の推計結果が示されています。
推計のやり方によって数字がずいぶん違っていますが、全壊棟数は約6千~1万8千棟(全半壊棟数は約1万3千~5万棟)と見積もられているようです。複数パターンの中での最大値について多少整理してみました。

  • 全壊被害のほぼ100%(全半壊被害は9割弱)が、珠洲市、輪島市、七尾市、能登町、穴水町、志賀町の6市町で生じている。

  • 市町村の建物棟数で割り算してみると、珠洲市や穴水町では5棟に1棟が全壊、輪島市・七尾市・能登町・志賀町でも10棟に1棟が全壊。

建物被害の推計結果(複数パターンの中での最大値)
※防災科研(リアルタイム被害推定・状況把握システム)のデータより筆者作成

ただ、報道(例えば、珠洲市の市長さんは「市内の9割が全壊か、ほぼ全壊」とおっしゃっていた https://mainichi.jp/articles/20240102/k00/00m/040/322000c)を見ているともっと被害が大きいようにも感じます。上記の被害量はあくまで推計結果でしかないので、今後の続報を待ちたいと思います。

なお、震度の分布は以下のように推定されています。震度6強以上が出た志賀町や七尾市の以北で多くの被害が出た、というイメージです。

面的推定震度分布 出典:防災科研(リアルタイム被害推定・状況把握システム)
※あくまで現時点で入手できた地震観測情報に基づく結果であり、地震観測情報が十分に入手できていない可能性がある点に留意

考えられること

今回の被災地域は古い建物が多い地域だったといわれているので、データを見てみました。国の「住宅・土地統計調査」の構造・建築時期別の住宅数データから以下のことがわかりました。

  • すべての住宅戸数のうち木造住宅が占める割合は、全国だと6割程度、石川県全体でも4分の3程度ですが、今回被害が大きかった地域では9割超

  • そのうち、いわゆる「旧耐震基準」の住宅が占める割合が、全国・石川県ともに3割程度だったところ、今回被害が大きかった地域では6~7割

    • なお、住宅・土地統計調査にデータがある全国市町村の中で、珠洲市は木造住宅の旧耐震割合が最も高い(能登町が全国で2番目、輪島市が全国で5番目)。

  • 最新の「2000年基準」の住宅が占める割合は、全国・石川県ともに3割程度だったところ、今回被害が大きかった地域では1~2割にとどまる

今回被害が大きかった地域における住宅の状況
※平成30年 住宅・土地統計調査より筆者作成。1980年までに建築されたものを「旧耐震」、2001年以降に建築されたものを「2000年基準」として整理。なお、穴水町については住宅・土地統計調査に市町村別のデータなし。

古い建物が多かったことには、人口減少・高齢化の中で建物が更新されなかったり、歴史的な建物が多い地域がゆえの難しさもあったのではと推測します。たくさんの被害があったからといって、地域の方々の暮らしがある中で外からああしておけばこうしておけばとはなかなか言えないなと私は思います。一方で、同じような状況に置かれている地域は全国各地にあるでしょうから、そういう場所で今後どうしていくかは考えないといけないことなのだろうと感じました。

加えて、この地域では直近で何度も地震が起きていた中で建物の強度が下がっており、「新耐震基準」の建物であっても被害が拡大したという報道もあります。この辺りも、今後の調査を待ちたいと思います。

火災による被害

地震に伴って複数の火災が発生したようですが、輪島市中心部の朝市通り周辺での火災が最も顕著であったようです。NHK報道によれば約200棟が焼失、国土地理院のまとめによれば延焼範囲は約48,000㎡(延焼範囲内に建物が約300棟)とされています。観光名所として知られる地域であったとともに、木造建物が密集する地域でもあったようです。
空中写真を見ると、一部の建物を除いてほとんどが焼け落ちてしまっているように見えます。木造の建物はほぼ焼けてしまったということなのだと思います。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kanazawa/20240102/3020017578.html
https://www.gsi.go.jp/common/000254070.pdf

朝市通り周辺の焼失範囲 出典:国土地理院「空中写真等の画像判読による輪島市中心の火災焼失範囲(推定)」(2024-01-05更新)

北國新聞の下記の記事では、被災者の方への取材のもと、被災状況が丁寧に描かれていました。ポイントは以下のようなところかと思います。
https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/1283544

  • 地震から1時間程度で、町の西端で出火

  • 各家庭のプロパンガスボンベが爆発、風にあおられて燃え移った

  • 消防車や消防団も出動したが、消火栓が断水やがれきにふさがれて使えなかったり、近隣の河川からも津波による引き潮の影響?で水を取れなかったりして、消火活動が困難だった

  • 地震の混乱で、他地区から増援されるはずの消防団も来なかった

  • 朝に火勢が衰えるまで、数百メートルにわたって燃え広がり続けた

下記のNHK記事にも、おおむね同様の内容が書かれていました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240104/k10014309301000.html

火災に巻き込まれて亡くなられた方がどの程度おられるのかはまだ明らかになっていないと思いますが、建物の倒壊で自宅に閉じ込められて逃げられなくなった方はおられるような気がします。他方、津波警報で避難したことで火災に巻き込まれずに済んだ方もいらっしゃるかもしれません。

津波による被害

災害発生当初、私はNHKニュースを見ていましたが、しきりに津波避難が呼びかけられていました(緊迫感の高さがSNSでも話題になったとおり)。
そのこともあり、津波被害がどの程度になるのかは最初から気になっていました。そこで、日本地理学会が出している津波浸水範囲(http://disaster.ajg.or.jp/files/202401_Noto003.pdf)を見てみました。
①珠洲市では沿岸部の一部で津波浸水がみられたものの市街地すべてが流されるような状況にはならなかった、②それ以外では現状確認されている限りでは顕著な浸水はみられなかった、ということのようです。

今のところ、東日本大震災で起こっていたような、津波から逃げきれなかった人が多数亡くなられたような状況は特に報じられていないものと思っています。おそらく、この浸水範囲の狭さによって、そもそも浸水しなかった地域が多かったし浸水範囲にいた人も逃げ切ることができたのだろうと推測します。そのうえで、地域の方の防災意識とか、行政や報道の方々の尽力によって、被害を抑えられた部分があったのだろうと思います。

津波浸水範囲の分布(全体図)
出典:令和6年能登半島地震変動地形調査グループ(日本地理学会):令和6年能登半島地震による津波浸水範囲の検討結果(第二報),2024年1月5日
津波浸水範囲の分布(珠洲市北東部)
出典:令和6年能登半島地震変動地形調査グループ(日本地理学会):令和6年能登半島地震による津波浸水範囲の検討結果(第二報),2024年1月5日

最後に

上記に挙げた以外に、インフラやライフラインの被害、それに伴う集落の孤立など、様々な大変な状況が起きていて、多くの方が避難生活を続けておられることも心配しています。こうした状況も、どこかで取りまとめて誰かの役に立てればと思っています。
離れた場所からできることは多くありませんが、少しでも何かの役にたつ発信になっていれば幸いです。


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