長期投資はすなわち知の総合格闘技である〜N高等学校投資部の授業から パート1〜
皆さん、こんにちは。NVIC note編集部チームです。
今回は弊社CIOの奥野が先日実施させていただいたN高等学校投資部での授業の様子をお送りします。
N高投資部とは?
N高等学校(以降、N高)はネットと通信制高校の制度を活用した新しい“ネットの高校”です。教養、思考力、実践力の3つを教育方針として掲げ、IT×グローバル社会を生き抜く“創造力”を身につけ、世界で活躍する人材を育成することを目的としています。
https://nnn.ed.jp/
その中で、高校生の時期から株式投資に挑戦することで、社会の仕組みや経済動向を学び、本気で株式投資に向き合える人材を育成する部活動としての取り組みとしてN高投資部が活動を行っています。
現状部員は約50名在籍していますが、部員はそれぞれ運用資金として村上世彰氏の財団から提供された20万円をもとに、東証に上場する株式への投資を行っています。
https://nnn.ed.jp/club/investment/
まさにリアルな投資行う中で、途中で実学的な知識を養う特別講義を挟んだり、村上氏から運用に関するフィードバックを受けたりすることができる、ユニークな部活動内容となっています。
実は以前noteイベントにて実施した「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ」のスピンオフ勉強会にN高投資部の運営責任者の方に参加していただきました。
https://m.youtube.com/watch?v=7kV27wiHYak
そこで奥野の講演内容に興味を持っていただき、今回、投資部で授業の一コマを実施させていただくことになったのです。
さて、奥野はN高投資部の生徒達にどのような授業を展開したのでしょうか?
その一部始終をご覧ください!
自己紹介
はじめまして。農林中金バリューインベストメンツの奥野といいます。今日はよろしくお願いいたします。ところで、皆さんは実際に投資をしているんですよね?村上さんとは話をしたりするのですか?時間は10分ぐらい?投資先の企業について相談するのですか?
(生徒) 具体的な銘柄についてのアドバイスはもらえなくて、取引する際のポイント等を聞かせていただいて、その点に関連する質問をしたりしました。
なるほど。隣のあなたは?どんな質問をしました?
(生徒) 自分はまだ村上さんとお会いしてないです。
まだこれからの人もいるんですね。でも、村上さんと会える機会って本当にものすごく貴重ですよ。
実は私は以前、農林中金の中で2003年からヘッジファンドの投資をしていたことがあるのですが、そこで村上ファンドにも投資をしていました。
その当時はまだ末端の担当者レベルの立場だったので、村上さんは自分のことを多分覚えてないと思いますけども、村上さんとは何度も会っていますし、当時六本木ヒルズにあったオフィスにも何度もお邪魔して色々なことを教えてもらった記憶があります。
村上さんの投資の手法は株価と価値の間を取りに行く戦略なんです。
ちょっと難しいですか?
まず企業には「企業価値」というものがあります。村上さんの戦略は、基本的に「株価」が「企業価値」よりも相当低い時に「株式」を仕入れる。これは業界的に「割安」というのですが、その後、その会社に色々な提案なんかをしながら、企業に働きかけを行い、その割安に仕入れた株式の「株価」を上げていく。上げることができたら、その差額部分が儲けになるわけです。
でも私は、村上さんやそれこそ世界中のヘッジファンドのマネージャーに話を聞き、実際に投資をする経験を得た後、いまは自分ではちょっと違うやり方を取っています。
具体的には「企業価値が長い年月の中でずっと上がっていく」ものに投資をするやり方です。このような投資のやり方であれば、長い年月をかけて「企業価値の上昇を楽しむ」ことができるのです。そういう意味では、「株券を安いところで買って高いところで売る」という発想ではないんですね。
そう聞くと、「企業価値が長い年月の中でずっと上がっていく」そんな会社ってあるのか?という疑問が湧きませんか?
実はあるんですよ、これが。例えば、実際に投資はしてないですけど、コカ・コーラっていう会社を例に説明します。
ここでちょっと質問してみましょう。いま、世界の人口は何人いるか知ってますか?
(生徒)68億人。
すごいですね! びっくりしました。そういう質問に対してリアルな数字でピシッと答えられる人ってそうそういないですよ。村上さんはいつも本にも書いてらっしゃいますけど、やはり数字というのは、常に頭に入れておく必要がある。
大事な数字としては、世界の人口は何億人いるのかとか、アメリカのGDPは一体いくらなのか、日本のGDPはいくらなのか、日本の人口はどのくらいなのか、等ですかね。
キーポイントになる数字っていうのは、必ずしもピッタリ正確でなくてもよくて、常にざっくりでいいんです。
例えば、日本の人口であれば、正確には1億2700万人なんですけど、ただ1億2700万人とか覚えられないじゃないですか。「ざっくり1億3000万人だな」っていうような覚え方でいいと思います。
日本のGDPであれば、「まあ500兆円ぐらいだよね」って思っておけばいいです。別にそれが550兆円なのか570兆円なのかというのはそれほど大した話ではない。
ざっくりと「おおよそこれぐらいかなあ」という数字が頭に入っていれば十分です。
そういう意味で彼は凄いですね。僕なんかも細かい正確な数字は把握していないので、ざっくり世界の人口は70億人ですよっていう話をするわけです。
コカ・コーラの「強さ」
コカ・コーラの話に戻しますね。
1900年代後半の世界の人口は、58億人ぐらいで、要するに60億人弱だったわけです。それがいま、20年経つと、ざっくりと70億人になってるわけですね。要するに「人の口」が10億個も増えているわけです。
ところで炭酸飲料をいままで飲んだことのない人はいますか?いないですよね。通常、人は人生の中のどこかのタイミングで炭酸飲料を必ず飲むことになるんですよ。僕はいままで炭酸飲料を飲んだことのない人は聞いたことがない。
炭酸飲料を飲もうと思ったときに、日本だとサントリーだったりキリンだったり色々な飲料メーカーがありますが、実はその状態って日本固有だったりします。
アメリカとか世界中に行くと、コカ・コーラとペプシが大きく2つあって、ドクターペッパーがちょっとあるだけです。要するに世界シェアというのはもう決まっています。
なんでそうなっているのか?簡単に言うと、コカ・コーラの向こうを張って、炭酸飲料なんかを作っても儲からないから、普通の人間はそんなことをやらないのです。
これがまさしく「参入障壁」と呼ばれるものです。
皆さんも「こいつとケンカするのは嫌だなあ」みたいな人っていませんか?だってケンカして負けるのは嫌でしょ?
経営も実際は「ケンカ」なんです。
ケンカに勝つ人って最初からケンカ強そうですよね。ケンカが強い人で、例えば友達でも、よく周りにケンカを吹っかけて「俺は無敵だ!」っていう人、いませんか?
そういう人は一体何を言ってるかというと、実は本当にその人がケンカに強いわけではなく、実際にはただ弱い人を探してケンカしているだけだったりします。
結局勝てばいいわけですからね。だから最初から勝てない人とはケンカしない。これが、実は「ケンカが強い人」の本質的な部分です。
逆に言うと、本当に強い人には誰もケンカを挑まないので、一見ケンカをしていないように見えるかもしれません。でも、実はそういうのが一番強い人だったりします。
要するに何を言いたいかというと、コカ・コーラの向こうを張って、炭酸飲料なんか作ろうっていう向こう見ずな人は世界中を見渡してもいない、ということなのです。それぐらいコカ・コーラは強いということなんです。
先ほど「人口」という話をしましたね、それこそ50数億人だったところが、70億人まで駆け上がっている。その人口の中には色々な国の方が含まれているわけです。
ほとんどお金のない人も含まれてしまう一方で、炭酸飲料を飲めるぐらいの、ちょっとお金に余裕ができた人、こういうのを「中産階級」と言いますが、中産階級の人も含まれています。
世の中というのは、全体としてちょっとずつ豊かになっているので、中産階級の数の伸びというのは全体の人口の伸びよりも速いペースで伸びています。構造的にそうなってしまっているのです。
そのような構造の中で、ある人が「あ、今日炭酸飲料飲みたいな」と思ったときに、コカ・コーラかペプシしか選択肢がない状態になっている。これ、普通に考えてコカ・コーラ儲かりませんか?
コカ・コーラってお店で買うと大体100円くらいですよね。そのうちの20円がコカ・コーラに「チャリン」と落ちるわけです。これがコカ・コーラの儲かる秘密です。
そのような会社を見つけてしまえば、はっきり言うと株の「売り買い」なんか全くする必要がないのです。ずっと上がっていくだけですから。
もしリーマンショックになったからといって、「いまリーマンショックだから、コカ・コーラ飲むのをやめておこう」っていう人はいないわけです。周りは皆、景気がどうとか、誰かが株を売ったとか買ったとか色々言うわけですけど、誰かが株を売ったからコカ・コーラが売れなくなるわけでは全くないわけですよね。
ずっとコンスタントに「価値」が上がっていくようなビジネスや企業を見つけてしまったら、株価というのはその周りをクルクル回っているだけなんです。本当に良いビジネスは売る必要がない。
もちろん、安く買って高く売れれば儲かりますけど、そんなことをしなくても利益を出せる。大体、「ここで買って、ここで売る」って、そんなに簡単ではないです。「いつが安いのか、いつが高いのか?」そのようなことは分からないというのが、私の哲学です。
皆さんは20万円貰えて、しかも村上さんのアドバイスを受けられるのはすごく恵まれていると思いますが、「6ヶ月で利益を出しましょう」なんていうのは、基本的に無理です。
ただ無理ですと言いつつ、6ヶ月で儲かる人も確かにいます。でも、それは単にまぐれだと思った方がいい。20万円の元手で40万円にしました。その20万円の利益、確かにすごいことです、自信を持ってください。
でも、もっと大事なポイントは「投資をすることで社会との接点をできるだけ早く持てるようになる」ということなんです。
村上さんがすごいと思うのは、あの人は小学生の時に親から何百万円か渡されて、投資を始めているところですよね。そうすることで社会との接点を持ち、企業はなぜ儲かるのか、株価はどのように決まるのか、ということを、リアルな現場で小学校の頃から彼は勉強していた。
ウォーレン・バフェットだって、子供のときからビジネスに接していたんです。
(パート2につづく。次回は12月10日頃公開予定です)