長期投資はすなわち知の総合格闘技である〜N高等学校投資部の授業から パート3〜
海外の株式に投資をするということ
このチャートを見てください。オレンジの線がアメリカ株のインデックス(S&P500)で、青い線がTOPIXです。
実は日経平均とか、TOPIXといわれている日本株のインデックスは長期的に見るとほとんど横ばいです。
1日とか1ヵ月とか短期的に見れば何%上がっているとか下がっているとかあるかもしれないですけど、長いタームで見ると、ほとんど上がっていないことが分かります。
緑色と水色の階段状になっているグラフ。これはS&P500とTOPIXの一株あたり純資産(BPS)の推移を示しています。
先ほど見たように、企業が1年間事業を行って営業利益が出ると、そこから銀行に利息を払って、国に税金を納めて、株主に一部を配当して、残った利益がチャリンと純資産に貯まります。
つまり、企業が利益を上げ続けることができていれば、一株あたり純資産は持続的に増えていくはずです。
かのウォーレン・バフェットも自分の会社の「価値」を説明するのに長らくこの一株あたり純資産という指標を使ってきました。
この指標を見ると、はっきり言って、ほとんど何も価値を生んでいない(=BPSが増えていない)のが、日本株です。
日本株全体は、競争優位を失っている可能性がある。参入障壁を失った会社がたくさんインデックスに入っているから、そういうことが起こってしまうのです。
これは日本人的に考えると、ものすごく暗い気持ちになりますよね?でもちょっと待って下さい。別に我々は、日本株にだけ投資をしなきゃいけないってわけじゃないですよね?日本にいながら、実はディズニーに投資することもできるし、ナイキに投資することもできるんです。
もちろん、皆さんの投資部での活動としては、海外株に投資はできないですよ。もっと将来の話です。
アメリカでビジネスをやっている会社は得なんです。
日本は1億2,700万人の人口がずっとこれから減り続けていくことが分かっています。2050年になると、8,000万人くらいになってしまう可能性もあると言われています。つまり「人の口」がこれからものすごい勢いで減るんです。
そのような状況下で国内スーパーマーケットのビジネスをやってる人が果たして勝つと思いますか?利益をしっかり増やせると思いますか?難しいですよね?
もし真剣にこの分野で利益を増やそうと思ったら、マーケットシェアを取るしかない。その中で圧倒的なマーケットシェアを取ることに徹底して、「もうスーパーマーケットといえば自分たちだ!」ぐらいまでやるなら話は別ですけど、その意気込みがなければ、この国で普通にスーパーマーケットをやって儲かり続けると思っているほうがおかしいです。
一方、アメリカは、人口が3億3,000万人で、それが毎年0.7%ずつ増えています。日本のGDPは約500兆円であるのに対してアメリカは約2,000兆円を超えてきている。世界の富の4分の1はアメリカで作られているんですね。
つまりアメリカは圧倒的に強い。そのアメリカの中に先ほど話したような3つの条件、付加価値あるよね、参入障壁あるよね、それで、長期潮流に乗っているよね、という会社があるとします。
その会社は、約3億3,000万人だけにとどまらず、結果的に世界中の残り約70億人にもアクセスすることができるわけです。
そう考えると、圧倒的にアメリカでビジネスやる方が得なんですよ。つまり最初から下駄を履いているわけです。だから、アメリカ株は持続的に上がるのです。
ナイキの強さとは?
具体例としてナイキの話をしましょう。皆さんはシューズ、何履いていますか?アシックス?
ナイキ、言わずと知れたスポーツシューズの世界シェア実に3割、アメリカでは4割もマーケットシェアを握っています。ナイキがなかったら、スポーツシューズが存在しません、という世界を作ってしまっています。
もうナイキの向こうを張って、スポーツシューズを作ろうなんていう人は、恐らくアディダスぐらいしかいません。実はもともとアディダスが、世界のスポーツシューズのマーケットを席巻していました。そのアディダスの牙城を、ナイキがアメリカの市場から崩してきた、というのが、この産業の歴史です。
ナイキの競争優位は何か?それはナイキの「広告宣伝費」です。単純にCMをたくさん出している、という話ではありません。
たとえば、大坂なおみさんにスポンサーとしてお金を出します、例えばタイガーウッズに、スポンサーとして金を出します、それが広告宣伝費です。実に、4,000億円以上あります。広告宣伝費が4,000億円ですよ!実はこの広告宣伝費の年間4000億円とか、4,500億円というのは、アシックスの売上と同じ規模です。全然スケールが違う訳ですよ。
みんな大坂なおみさんのようにテニスができるようになりたいと思うから、大坂なおみさんが使っている商品を買うわけです。でも、絶対彼女のようなサーブは打てないですけどね(笑)。
エアジョーダンを履いたら、マイケルジョーダンのように飛べるかっていうと、そんなに飛べないですよね?
でも人間というのは、ものすごく超人願望があるんです。何とかものすごく能力のある人間になりたい。これはもう完全に普遍的な価値観なんです。人はそのためにお金を払います。
と同時に「健康でいたい」という長期潮流もあります。不幸になったり、不健全になりたいと思っている人なんて世の中にいないですよね。世界中が長生きになっていく中で、健康への需要はますます高まっていきます。
付加価値、参入障壁、長期潮流の全部が〇。だから、先ほど話した利益率はずっと安定しています。売上高もずっと増え続けています。
リーマンショックが起こったらどうする?全く関係ないです。リーマンショックが起こったら株価は下がるよね?いえ、逆に上がります。売り買いする必要は?全くないです。
アメリカに行くとこういう会社があるんですよ。日本の株だけを見ていると、残念ながらこういう会社にはなかなか巡り合えないのです。
じゃあ世界的に見て、唯一ナイキと競争しうる規模を持つアディダスとの競争はどうなのか?それを我々はドイツの片田舎にあるアディダスまで行って確認しに行きます。
アディダスの創業者はアディ・ダスラーという人なんです。実はあまり知られていないですけど、アディダスとプーマって兄弟会社なんです。
ダスラー家の息子達がもともと一緒に靴工房をやっていたのですが、仲たがいをして、ひとりはアディダスを、もうひとりはプーマを立ち上げました。
だからいまでもアディダスの本社から15分ぐらい歩いたところにプーマの本社があります。
こんな風に直接現地に行ってナイキとアディダスの違いというのを、私はちゃんと自分の足で、自分の目で見に行きます。そして自分の頭で考えるのです。
自分の頭で考える~時間という最大のアセットとの付き合い方やこれからの生き方、働き方
今日伝えたい重要な話の一つが、先ほどの「企業のオーナーになりましょう」というお話。
それからもう一つは、これからお話しする「自分の頭で考えましょう」ということです。自分の頭で考えている人は、人の言ってることなんて基本的に鵜呑みにしない。
インターネットの情報なんていうのは、それだけではほとんど意味がないと思った方がいいです。その情報を組み合わせて自分で考える。情報は多ければ多いほどいいわけではなくて、情報が多ければ多いほど、考える量は減ってしまいます。まるでGoogleに行けばなんでもあるかのように勘違いしてしまいます。でも、そこに氾濫してる情報にはほとんど付加価値はないです。誰でも取れる情報だから。
先ほどからお話ししている「参入障壁」と一緒です。皆さんの「参入障壁」は一体何ですか?「考える」以外に、人間が生きている上での「参入障壁」はないと思います。というようなことを、分からないことが分かるようになるまで考えましょうっていう話です。
なんだかんだ言って人生は不公平だと思います。
お金持ちのところに生まれれば、お金持ちになれたりするけど、そうじゃなければ、お金持ちになれなかったりする。それはもう考えてもしょうがない部分だと思います。でも、人間というのは、一つ必ず平等な資産があります。
それは時間です。この時間をどのように使うのか?時間をどのように自分の味方につけるのか?我々の投資というのは実はそういうことなんですね。時間が敵になったら大変です。
皆さんは時間というアセットを一体何に使うのか?いま皆さんはお金が自由にならないじゃないですか。だからお金の部分は現状切り離されている、つまりお金はいまは親が面倒みてくれています。
でも、実は時間と能力とお金っていうのは、兌換なのです。時間を使って、先ほどお話しした企業会計を分析、勉強するとか、日経新聞を読んで興味のある企業を、自分で研究する。そうやって時間を能力に換えていくのです。
時間を能力に換えておくと、将来どこかのタイミングで、それをお金に換えることができます。お金というのはまた時間にも換えることができる(時間を買う)。この「お金」、「時間」、「能力」の3つが常に兌換であるということがとても大事です。
将来社会人になったときに、「あいつはお金があるから付いていこう」なんて思うような人とは、一緒に仕事しちゃだめですよ(笑)。
そうじゃなくて、「あいつは能力がある」、「あいつは人間力がある」、そういう人たちがそのまわりの人たちを惹きつけて、多分5人で10人分の仕事をすることになる。それが「社会」というものなんですよね。
だから皆さんがいまやらなきゃいけないことというのは、できるだけ、「時間」をうまく活用して、「能力」を増やすことなんです。
投資だけやって20万円を40万円にできればいいじゃないか?と思う人がいるかもしれません。もちろんそれができればいいです。でも、皆さんは普通に英語をやらなきゃいけない、数学をやらなきゃいけない、現代社会や歴史をやらなきゃいけない。
実は、ビジネスを分析するということは、絶対にこの3つは必要です。
数学、絶対必要です。数学の中でもとりわけ統計は必要です。数学的な論理的思考がない人は、絶対投資はできません。
そもそも英語できないと、ナイキのアニュアルレポート、つまりナイキの事業報告書ですね、読めません。ドイツに行って、アディダスの人とミーティング、できません。英語、必ず必要です。
歴史、絶対必要です。アディ・ダスラーがどういう気持ちでこの会社を創業したのか、なぜアディ・ダスラーの哲学だけではナイキに勝てないのか。
私は仮説を持っています。
ナイキの創業者フィリップ・ナイトは、もともと大学のアスリートランナーなんですね。靴職人を出自とするアディ・ダスラーとはスタートから異なるわけです。アスリートの能力を引き出す機能性を追求してきたのがナイキという会社です。
あ、彼の自伝『SHOE DOG』、これ絶対読んでくださいね。日本語にもなっていますから。この本、超面白いです。『SHOE DOG』、つまり「靴のきちがい」という意味ですね。皆さんは絶対読むべきです。
大学のランナーだった彼が、世界中を旅するところから物語は始まります。ナイキはもともとアシックスのアメリカでの販売代理店だったのです。彼は旅の途中に一人で日本にやってきて、アシックスの靴をアメリカで売らしてくださいと言って神戸のアシックス本社を訪れます。
交渉の場でアシックスの経営陣が目の前にずらっと並んで、「あなたの会社はどういう会社なんですか?」って聞かれたときに、実はまだ会社なんてないんですよ。だから口から出まかせで、「ブルーリボン社の社長です」みたいなことを言っちゃって(笑)。完全にはったりですよね。ここからナイキというビジネスがスタートします。そのようなことがずっと赤裸々に書かれています。
いまとなってはアシックスの10倍近い売上をもつ会社に成長している。企業を見るうえで、歴史、これは絶対に必要です。その会社の沿革や成り立ち、創業者の思いを知ることが企業を分析する際に、非常に重要です。どうしてこの会社ができたのか、この会社はこのときどうだったのか?そのときの企業を取り巻く経済環境とともにビジネスモデルを理解していく。
いずれにしても、この3つ、数学、英語、歴史、もちろんこの3つだけではないですが、長期投資をやる上では絶対に必要です。それが、今日のお題である、「長期投資は知の総合格闘技」ということなのです。皆さんがいま勉強していることで無駄なことは何ひとつないわけです。
そのようなことを考えながら、これから大学に行き、社会人になる。すると社会人になったときに皆さんの働き方が変わります。
いま、ブラック企業がどうのこうのとか、色々問題が起こっているじゃないですか。でも私に言わせるとあんなのは働いてる人の心掛けが悪い。経営者ももちろん悪いのですが、そんなに嫌なら辞めちゃえばいいんじゃないって思ったりするんです。
こういう人って「労働者マインド」なんですよ。つまり「働かされている」とか「人に使われる」というところから抜け出せない。
先ほどお話ししたように株主になるということは、永守重信さんという人を「働かせる」ということなんです。すごいことですよね?
ディズニーの株式を持ってミッキーマウスを働かせるというのが、オーナーになる、株主になるっていうことなんですよ。
これが、「オーナー」という概念。このマインドセットをもつと、全然世界が違って見えます。「働かされている」のではなくて「自分が働く」。「自分の時間を売る」のではなくて、「自分の才能を売る」という世界に入っていけます。
(質疑応答につづく。次回は12月17日頃公開予定です)