貯金20万円のアラサー女子が一念発起!ゼロから始める投資思考 ⑦オリエンタルランドと東宝に学ぶ「価値」の本質
「価値」とは、一体何か。
さて、あらためて考えるととても難しい問題です。あなたは、「価値」をどう定義しますか? もしも子どもに質問されたとしたら、どう説明するでしょうか。「価格」との違いは? 「100円の価格」と「100円の価値」という言葉にどんな違いがあるのかと、はっきり言語化できるでしょうか。
さて、今回のメンバーズカンファレンスでは、一見簡単なようできちんと説明するのが難しい、「価値」の本質について深掘りして考えてみたいと思います。「価値」とは一体何なのか、「価格」との違いは何か。バフェット流投資家・奥野一成さんの本に書かれた内容もふまえながら、一緒に勉強していきましょう。
「ディズニーのコンテンツ」×「エンタメ空間」の強さ
さて、まずは今回のメンバーズ・カンファレンスで取り上げられた二つの企業「オリエンタルランド」と「東宝」の付加価値について考えてみましょう。
どちらも、日本人ならば誰もが知っていると言っても言い過ぎではないほど有名な企業です。ディズニーのコンテンツを活用してテーマパークやホテルなどを幅広く展開しているオリエンタルランド。そして、映画の制作から配給、映画館・劇場の運営まで、国内映画産業において圧倒的なプレゼンスを持つ東宝。「エンタメ事業に携わりたい」という就活生ならば、誰もができることならこの会社に入りたいと願うような、ネームバリューもある一流企業です。
さて、「エンターテイメント空間」を提供し続けているオリエンタルランドと東宝ですが、そのどちらにも共通して言えるのは、国内人口の減少が続いているにもかかわらず、入場者数が低下していない、という点です。
2020年、2021年はコロナ禍で打撃を受けたものの、2019年までは入場者数を落とすことなく推移していました。オリエンタルランドはここ10年で実に6回の値上げを実施。比較すると1.4倍の価格になっていますが、それでも入場者数がガクンと減ることはありませんでした。
「正直、2011年の東日本大震災のときは、本当にちょっとまずい状況になるんじゃないか、と思ったんですけどね」
カンファレンスの中で、奥野さんがそうコメントしました。たしかに、液状化現象の影響で東京ディズニーリゾートが多大な被害を受けている様子をテレビや新聞で観た、という人も多いのではないでしょうか。しかし、臨時の長期休園を挟み、東京ディズニーランドは4月15日から、東京ディズニーシーは4月28日から営業を再開。むしろ、地震発生時の臨機応変で的確なオリエンタルランドの対応が評価され、ますますファンを増やしたきっかけになったのではないかと思います。
その他にも、2回の消費税増税や新エリアのオープン等に伴いチケットの値上げを実施してきましたが、2018年度には、東京ディズニーランドと東京ディズニーシー2パーク合計の入場者数は過去最高を記録。「ディズニー」というコンテンツを体感できる唯一の空間であるテーマパークの価値が、消費者にいかに高く評価されているかを如実に表した結果です。
「ディズニー社の持つコンテンツの価値が高まれば高まるほど、それに紐づくアトラクションを展開するオリエンタルランドの価値も高まる構造になっているんです」
アナリストの大福谷さんがそう解説しました。ディズニーが新しいヒットコンテンツを生み出すほど、そのコンテンツを体感できる場を求めて訪れる顧客も増える。事実、2013年に大ヒットした映画『アナと雪の女王』のエリアも2023年のオープンを目指して建設中です。リピーターが多く、また、子どもから大人まで世代を超えてさまざまな顧客が来場し続けるというのも、東京ディズニーリゾートだからこその強みと言えるかもしれません。
国内映画産業における東宝の圧倒的なプレゼンス
さて、オリエンタルランドと同様に、「エンタメを体感する場」を提供している東宝はどうでしょう。
これも映画館入場者数と平均単価の推移を見てみると面白い発見があります。ビデオ、DVD、ブルーレイなどのビデオソフト市場は年々縮小しているのに対し、映画館は興行収入も入場者数も、コロナ禍の影響を受ける2019年までは緩やかな増加傾向にありました。国内人口が減少や時代の変化によらず、映画館の価値は陳腐化していないということがわかります。さらに興味深いことに、映画館の平均料金は年々上昇しているのです。
近頃、「ラグジュアリーシート」や「カップルシート」と名付けられた、通常よりもゆったりと座れる席が用意されているのを、みなさんも見たことがあるのではないでしょうか。東宝が運営するTOHO CHINEMASでは、+500円の追加料金で
より高品質な映像・音響を体感できる「IMAX®デジタルシアター」も用意されています。技術の進歩に伴い、それぞれの映画コンテンツの質も上がりました。「せっかくならより迫力のある映像で非日常を味わいたい」と、追加料金を払うことに抵抗を感じなくなった、という人も増えたのかもしれません。
さらに、国内映画産業における東宝の競争優位性を担保しているのが、バリューチェーン全体をカバーしていること。アナリストの高島さんは、こう分析します。
「TOHO CHINEMASという巨大な映画館チェーンを運用しているだけでなく、 映画をつくる制作会社、完成した映画を各映画館へと卸す配給会社、興行を担う映画館……と、東宝はすべてをカバーしているため、自社で制作したコンテンツをそのまま自社保有の映画館で放映できるという圧倒的なプレゼンスを持っています。映像技術の進歩により映画の制作コストが低下し、それに伴って制作される映画本数は増加していますが、東宝は多数の作品の中からヒットコンテンツを優先的に選りすぐることができるという、優位な立場にいるのです」
モノ余りの時代に求められるのは課題を解決するアイデア
今回のカンファレンスを経て、果たして「価値」とは一体何だろうと、随分深く考えてしまいました。
オリエンタルランドにせよ東宝にせよ、価格が上がったとしても顧客が減ることはない。むしろ増え続けている。それはつまり、顧客がこの二つの企業に「価値」を感じている、ということになります。
さて、それでは「価値」の本質について、今一度整理して考えてみましょう。奥野さんの著書『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』では、「価値」についてこう解説されています。
戦後、日本は自動車、家電製品などを大量に作り、モノ不足だった日本国内でたくさん販売しました。日本国内で売り切れなかったものは海外に輸出し、外貨もどんどん稼ぎました。それが今の日本経済の土台を築いたのです。
日本が高度成長をするためにやるべきことは何なのか、その答えは誰にも明確にわかっていました。それは欧米諸国が作っている製品をそっくり真似して大量に製造し、安い価格で販売することでした。
でも、これからの日本はそういう時代ではありません。
1990年以降、モノが余るようになってきました。バブル経済が崩壊して、需要が縮小してしまったのです。
モノが余っているからそう簡単に買ってもらえなくなります。だから需要を呼び起こさなくてはなりません。1990年以降はモノが満たされたため、極めて抽象的、かつ複雑な社会課題への対応が求められるようになりました。
これはもう完全に答えのない世界です。その中で売れるものを生み出すには、アイデア勝負になります。資本と労働力を大量に投入して工場を動かし、モノを作り出すのではなく、社会の課題・問題を解決するためのアイデアを生み出した人が、世の中を動かすようになります。
この点を踏まえると、オリエンタルランドも東宝も、誰も見たことがないような新たなアイデアを生み出し続けているように思えます。たとえば、映画館を例にあげて考えるのならば、「ラグジュアリーシート」というのは、「特別感のある空間で、日常を忘れて思いっきりリラックスして過ごしたい」という顧客の課題を解決することができた、と言えるでしょう。
価値=「機能的効用」と「意味的効用」の二つを足したもの
奥野さんは「価値」について、「その人が受け取る効用(≒満足感)であり、その人のおかれた状況や他の人との比較においても、全く異なるもの」と定義しています。
「価格」と何が違うのかというと、「価格」は他人が決めるものである一方、「価値」とは自分が決めるものである、という点でしょうか。コストやプロセス、他社との競争など、さまざまな要因を踏まえて客観的に価格が決められる一方で、「価値」とは主観的に判断されるもの、と考えてもいいのかもしれません。
さて、さらにこの「価値」を考えるにあたって、要素を分解していくと、二つの効用が出てきます。
それが、「機能的効用」と「意味的効用」です。「機能的効用」とは、その名の通り「どんな機能があるか」ということ。映画館ならば、「大きなスクリーンで映画が観られる」という機能は共通です。テーマパークならば「迫力のある乗り物に乗れる」というのも機能に当たるでしょう。
けれど、モノがあふれるモノ余りの時代になると、「機能的効用」よりも「意味的効用」が重視されるようになる、と奥野さんは語ります。ダイソンの羽根のない扇風機に代表されるような「スマートさ」、iPhoneユーザーが感じる「かっこよさ」、「しっくりくる」操作性など、人の感性に訴えかけるようなものが求められるようになるのです。
オリエンタルランドも東宝も、「意味的効用」を感じられるようなエンターテイメントの場を提供し続け、常に我々が想像したこともないようなワクワク感・新鮮な体験を共有してくれているからこそ、価格が上がっても「あの場所に行きたい」と思わせられるのかもしれません。
こうして「価値」について分解して考えてみると、これからの時代、「私」という商品にはどんな「意味的効用」があるのだろうか? と考えてしまいます。
「個」の時代と呼ばれる現代では、組織の中の一部ではなく「個人」としての力量をますます求められるようになるでしょう。こうして当てはめてみると、「機能的効用」=マニュアル人間的な働き方が通用しなくなってきた、とも考えられるのではないでしょうか。
モノ余りの時代において、「人材」という商品のどんなところに企業側が「価値」を感じるのかも、きっと変わり続けているはずです。たとえば年収アップを目指して転職活動しようと決めたとき、果たして「私」という「商品」の値上げは、世の中に受け入れられるのでしょうか。「年収を上げたい」ということばかりを考えて、自分という商品にどんな効用があるのか、誰にでもできるような「機能的効用」だけではない、「意味的効用」がきちんと備わっているのか、はっきりと言葉で説明できるくらいに考え抜くことができていたでしょうか。
あらためて、自分がどんな顧客に対して、どんな価値を提供できる商品なのか、整理し直さなくてはならないなと思います。
投資の勉強をはじめて約半年。
いろいろな企業について知れば知るほど、「自分」という商品をより価値あるものへと成長させるための方法を学べるような気がして、本当に楽しくてたまりません!
こうしていろいろなものに当てはめて構造的に考えられるようになるのも、投資を勉強する大きなメリットなんでしょうね。
さて、今回も川代紗生さんにカンファレンスのレポートを書いていただきました。
その川代紗生さんですが、先月「Reading Life」という雑誌を出されました!ボリュームある内容で、色々な切り口から「面白い」文章を綴っており、一読の価値がある雑誌です!
ちなみに、その雑誌の中で『最高に続きが読みたくなる「出だし」リスト30』という内容が書かれていました。これを読んでしまったせいで、出だしに文章を書く勇気が無く、挨拶文を後ろに持ってきてしまいました…ただ、「餅は餅屋」という諺もあるように、NVIC職員は得意分野(企業分析)中心に頑張っていきたいと思います!