奥野一成、母校に帰る~洛南高校キャリア教育講演会から 質疑応答~
生徒1:話の序盤に「強い会社の見極め方」ということで要素が3つ挙げられていました。
僕が以前本で読んだ内容で、ジャック・ウェルチという方の言葉に「仕事で最も重要なのは、適材適所の人事であり、優れた人材を入れなければどんなに優れた戦略も実現できない」という言葉があったんですが、会社を見極める上でこの3つの観点以外に経営者の経歴やプロフィールなんかも注目して見た方がいいのでしょうか。
奥野:いい質問ですね。すごく重要です。
経営者だけじゃなくて実はそこで働いている人がどういう人たちなのかっていうのを知るのはすごく大事です。
だから工場を見に行きます。だから色んな人に会うんです。
経営者だけじゃないんですね。皆さん経営者が優秀であれば、会社はうまくいくと思いがちです。
もちろん経営者はすごく重要です。なぜなら経営者が人を吸引するからです。その人の理念であるとか哲学というのにみんな惹かれて来るから、経営者というのはとても重要ですけど、経営者だけではない。
やっぱりそこにいる人たちの強さであるとか、その会社全体に育まれた文化、DNAみたいなものというのを重視します。
ただその文化だけが良くても多分ダメで、文化というものがさっき言ったこの3つの要素の中のどれに貢献しているのかとかっていうことを考えるのが大事なんだろうなという風に私は考えます。
生徒2:お話の最初の方で、今の長期投資というのは今あまりやってる人が少ないというお話されました。
今後、長期投資の良さに気付いて長期投資をやっていく人が増えていった時に、奥野さんにとっての競合が増えて他の人よりも儲けられる機会がだんだん少なくなっていくような気がするんですが、それについてどうお考えですか。
奥野:それもすごくいい質問です。
人っていうのは手っ取り早く儲けたい生き物なんですよ。
皆さんも知ってる朝三暮四っていう中国の故事がありますよね。朝の3つの果物と夕方に4つの果物か、朝に4つの果物と夕方に3つの果物なのかっていった時に、ほとんどの猿は朝に4つって言うんです。これは実は人間の性なんですね。
「目先の利益が欲しい」、これはある意味当然にある本能です。だから私なんかがどれだけ長期投資、長期投資って言っても多分ほとんどの人達は長期投資なんかしません。長期投資は結果が出るまでに長い我慢の時間が必要だから、ある意味苦しいんですよね。
「勝つか負けるか」という観点でいえば、だいたい8割の人が負けるようにできています。マーケットという世界はとりわけ2割の人しか勝たないようにできているっていうのが、私が30年間この世界にずっといて思うことです。
その時に重要なのは人と違うことをやるっていうことなんですよ。
長期投資の良さに気付いたって結局みんなそんなことできないです。なんだかんだ言って本能に従って「短期で儲けたい」と思うから。
これが答えになるかわからないですけど、実際に10年以上長期投資をやってきて、その有効性を示して、色々なところで良さを語っても、やる人ってなかなか増えません。
アメリカなんかでもせいぜい10%くらいでしょうか。日本ではもう圧倒的に少ないです。ほとんどの人達が長期投資しません。
だからそういう意味で言うとしばらく、私が生きてるあと40年ぐらいは大丈夫だなと思ってます(笑)。
生徒3:長期投資だとか他の人と違う道を選ぶことってすごく勇気がいることだと思うんですが、その勇気を出すために自分が心掛けていることとか、エネルギーがどこから来るのかなというのが知りたいなと思いました。
奥野:これは性格かもしれません。そもそもヘソ曲がり、あまのじゃくな所っていうのはあると思います。
でも、私関西人が結構好きなのは、人と違うことをやることを貴ぶ雰囲気が割とあるじゃないですか。これって東京に行くとちょっと違うんですよね。右と左の人を見ながら横と同じようなことをやる人が結構多いんです。
関西人ってそんなことなくて、結構人と違うことを貴ぶ風土がある中で、とりわけ京都大学っていうのはそういう人達の集まりだったんですね。私の人生の割と重要な部分っていうのは、京都大学で遊んでいる間に育まれたかなと思っています。
そういう意味で言うと、仮に人から異端だと思われても、「ああ異端だよ」と。辺境に行けって言われたら、「喜んでいきます」という、そういう性格です。
みんなと同じことするのが嫌なんですよね、単純に。そういう変わり者だという風に思っていただければいいです。
私はその見返りっていうのも結構大きいっていうのを知っているのですが、それを知るまでの間は結構しんどいと思います。
実際に単なる変人だったら多分ダメなんです。ちょっとした心掛けが重要です。例えば今日帰る時の帰り道を変えてみる。これ大事。
例えば電車乗るでしょ。電車乗ったら8割の人達がみんな乗った瞬間にスマホ見てるでしょ。僕なんかは、あれを見た瞬間に「もう意地でも俺はスマホを見ない」と思います。アホみたいでしょ。
でも真面目な話、そうやって電車に乗ってスマホでSNSなんかやってる場合じゃないです。SNSなんかで繋がってるっていうのは幻想ですから。
人っていうのは直接繋がるから人なんですよね。なので電車に乗って俺はもうとにかく本を読んでやるとか、そういう感じで毎日毎日ちょっとずつ違うことをやる。何か目的があって違うことをやってるんじゃなくて、違うことをやるっていうのが大事なんですね。
まさにスティーブ・ジョブズの言うところの“Think different”ですよね。日々の心掛けです。
生徒4:ご講演ありがとうございました。大事なことは後にならないとわからないと仰っていたんですが、小さい頃や幼い頃に教わったことで後々これは大事だなと思ったこととかって何かありますか。
奥野:難しいですね・・・結局嫌だったことって忘れてるんですよね。だいたい小さい頃っていうのは。人間ってそういう風に記憶が出来てるんでしょうね。
今やっていることに活きたことっていう意味で言うと、私は小さい時から軍師になりたかったんですよね。軍師って竹中半兵衛とか諸葛亮孔明とかああいう人たちです。
小学校とか中学校の時は、図書館とかで漫画の織田信長とかの歴史ものを読んだり、高校では孫子の兵法とか読んでましたね。そういうものを読む中で戦略を考えて人を動かして勝つっていうのに憧れてました。
そういうのが回り回って、今の戦略的に物事を考えるっていうことにものすごく活きてるかなと思っています。
皆さんが今やっていること、小学校の時にやってたことっていうのはおそらく仕事をした時に「あ、あれって大事だったな」って思い出すと思うんです。
その時に思い出すものが具体的に何かっていうのは別になんでもいいんです。なんでもいいんですけど「一生懸命やってきた」っていうことが大事なんですよね。脇目もふらずにやったことしか、それが直接役に立つかどうかは別として、記憶には残らないんじゃないかなと思います。なので何でもいいから打ち込むっていうのは結構大事だと思いますね。
先生:ありがとうございました。そろそろ時間です。
それではみんな姿勢を正して。礼。ありがとうございました。
(本シリーズ終わり)