人生のオーナーになれ! 【 京都大学特別講義から】
こんにちは。NVIC note編集チームです。
前回書いた京大寄附講義「企業価値創造と評価」…
一番人気はやはり企業経営者の講義なのですが、弊社CIOの奥野も毎年1コマ話をしています。
現役ファンドマネージャーから株式投資の話が聞けるということで、学生さんの中にはひょっとしたら手っ取り早い「儲け話」を期待して来ている人もいるかもしれません。
でも、奥野が語るのは、キャリアの話、「価値」の話、投資と投機の違い・・・などなど、即効性は決してない、これからの人生の中でじわじわ効いてくる(かもしれない)話ばかりです。
「投資」とは何か?それが持つ意味とは?
これから社会に羽ばたく若者たちに、自分で考えてもらうために、奥野なりの言葉で、真正面から語っています。
講義の書き起こしなので、いささか読みづらい点もあるかと思いますが、全3回(+質疑)、奥野のむき出しのメッセージを是非ご覧ください。
経営者と同じ船に乗る
皆さんおはようございます。
農林中金バリューインベストメンツの奥野です。今日は、「投資」って何なのかなということをちょっとでも感じていただきたいと思っています。
まず題名なんですけども、「オーナーとしての株式投資」ということでお話しします。そもそもこれなんぞやって思う方も多いかと思います。
これまで株式投資について教わったことなんてあまりないでしょうから、「株を安く買って高く売ることでしょう?」とか、「楽して儲けてるんちゃうの?」というようなイメージを持っている方も多いかもしれません。
そういった捉え方をされている方に対して、今日の話が「こういう考え方もあるのか」というような投げかけになればいいなと思っています。
自己紹介です。
私、ちょうど30年前にこの京都大学の法学部に入りまして、92年に卒業して長期信用銀行という銀行に入っています。
多分皆さんが産まれた時にはもうつぶれている銀行なので知らないと思います。
就職活動の時に僕が何を考えていたのかというと、コンサル志望でした。
その当時マッキンゼーとかボスコンとかあまり京大から受けに行く人は少なかったんですけども、それこそ青春18切符を買って東京まで受けに行きました。
僕は企業の戦略コンサルをすることで価値を作ることができるんじゃないかと考えていたわけです。
戦略を立てることで価値を作って、その会社をより良くするとか、大きくするとかそういうことを夢見てコンサルを受けてたわけですけど、たまたま会った長銀のリクルーターの方から、「お前アホちゃうか」という言葉を頂きまして。
どういうことかと言うと、「お金も出さないで人が言うことを聞いてくれると思うんか。長銀はいいぞ。お金を出しながら提案するんや」と。
僕はその当時とても素直な人間だったので、「あ、そうか」と。
いまはもうちょっとひねくれてるんですけど。
とにかくその言葉に惹かれて長銀に入りました。
いまでも本当にそれはその通りだと思います。
やっぱり長期でお金を貸すというのは、その会社に長期的に価値を上げてもらってそれでお金を返してもらうわけです。
その会社が短期的に儲かったってお金返ってこないわけです。
お金返ってこないなら担保で回収すればいいやっていう発想の銀行ではなかったっていうことなんですね。
長銀での仕事はすごく楽しかったです。
それが色々紆余曲折ありながら、いまこういう株式の長期厳選投資というのをやらしてもらってるんですけど、実はいまやっていることっていうのは、自分がちょうど就職活動のときにやりたいと思っていたこととかなり近いです。
僕たちはその企業の株式に投資をすることで、あとでも話しますけど、その企業の「オーナー」になるんですね。「オーナー」になることで経営者と同じ船に乗れるんですよ。
経営者は当然その会社を大きくしたい、強い会社にしたいと思いますよね。
僕たちは投資をしている会社が強くなって大きくなったら、営業利益が増えていくので、それはたとえ時間差はあっても、いつかは当然に株価に反映されるわけです。
だから「オーナー」と経営者は同じ船に乗れるんです。
いまでは経営者の方々とひざ詰めでミーティングをしながら、金融屋、あえてこの言葉を使いますが、金融屋としての色々な気付きを経営者にお話ししています。
話をしただけですぐに何かが変わることなんて世の中ないです。
時間がかかります。
時間がかかるんですけども、長い目で見れば少しずつ良くなっていく。
そういうことを目指してやらしてもらっています。
そういう意味でいうと僕がそれこそ学生の時にやりたいなと思ったことが、長銀がつぶれる中でできなくなったということではあるんですが、そこから結果としてはいま自分がすごくやりたいことをやらしてもらって、しかももう13年同じことをずっとやっています。
そういう意味ではものすごくラッキーなサラリーマンだなと思っています。
キャリアの話
「辺境に行け!」
キャリアの話でいうと、今日お話ししたいポイントの一つ目ですけど、いまここにいらっしゃる方っていうのは3年生と4年生と院生の方ですよね。
これから自分の人生を決めていかないといけないわけです。
それを他人任せにしちゃだめだよということっていうのは絶対にお伝えしたいなと思っています。
他人というのは自分の親も含めて他人です。
他人の人生を生きたってしょうがないわけでして、「自分の人生のオーナーになりましょう」っていうことなんです。
そんなの当たり前のことなんですけど、実はなかなかできないんです。
キャリアを考えるうえで僕の経験から一つ言えることは、「辺境に行け」ということです。
皆さんこのまま普通に就職活動すると、大企業に入ることになると思います。
いい会社に就職することになってそれはすごくいいことなんですけど、どこの大企業に行くかという問題ではなくて、その大企業の中で辺境に行ってもらいたい。
辺境とは何かというと、例えば2、3兆円を大きな売上を持っているメーカーさんに入りましたと。
そこの中の経営企画みたいなところに行ってもらいたくないんですね。そんな王道の所に行って「よし、大きな仕事するぞ」と思っても、いまや大企業っていうのはものすごく細分化されています。
会社の機能が、企画をする人、作る人、売る人、結果を計算する人、ずーっと細分化されていて、一人の人が、実際にお客さんに価値を付けているプロセスの全体像を見ることっていうのは不可能です。
そこで、そういう大企業で例えば何かの子会社に行くとか、どこか物理的にすごく辺境の所に行って、全て自己完結的にビジネスを回せるような立場になることです。
そういう風になれば大きな企業の真ん中に戻っても動かせるようになります。
これは実際そうなんですよ。
いま大きな企業の社長になってる人の顔ぶれ見て下さい。
強い企業であればあるほど、大体その人はキャリアのどこかで左遷されています。
大体どこかのすごい小さなオペレーションに身を置いて、そこの中で這い上がってます。そこで全体の繋がり、ビジネスの繋がりということを学ぶんです。
大企業の本部なんかにいても絶対無理ですよ。2,3兆円ある中で自分がやっていることなんて何のことか分からないわけです。
どこで働くかというよりも、どういう働き方をするかっていうことがすごく大事だということを言いたいなと思います。
それから、もう一つは、自分がいま大事なスキルを持っていて、このスキルを活かして就職したいと。それは大いに結構です、絶対に使って下さい。
ただ、そのままで止まってたら失敗します。
なぜなら世の中の動きはめちゃくちゃ早いからです。
学生の時に取ったスキルなんていうのは、多分1年も2年もすれば多くは使えなくなります。
大事なことは何かと言うと、いまのスキルはもちろん大事なんですけども、どんどん学ぶ姿勢を持つことです。
いつまでたっても学び続けるということが大事かなと思います。
少し戻りますけど、そういう意味でも大企業の辺境に行くっていうのは結構大事です。
もしくは自分でベンチャーを作るかどっちかです。
否応なしに勉強して走り続けないといけませんからね。
僕はそういう意味でいうと、長銀に入ったのは自分の意志でしたけど、そこから先はもう漂流してます。
漂流してますけど、その中で必死に学び、考えて、結果としていま自分が好きなことを、いろんな人のサポートの中でやらしてもらっていて、すごくハッピーな人生だなと思っています。
広義の投資
今日二つ目のトピックとして、「投資」とは何かっていうことです。
皆さん投資って聞くとどんなイメージですか?
いくつもの画面に囲まれてチャートなんかを見ながらカチャカチャっと株を売買して、「楽に儲けてます」みたいな。
多分そういう風に思っている人って結構多いんですが、こういうのは僕の中では投資ではないです。どちらかというと投機に近い。
「投資と投機って何が違うねん」ということは後で説明しますが、それよりも何よりも最初に「広義の意味での投資ってなんぞや」ということについて話してみたいと思います。
例えば、家庭教師のバイトをすれば、いまの時給がどれくらいか知りませんが、僕らの時は2000円ぐらいもらえました。
皆さんがいま1時間を使ったら2000円稼げるとしましょう。
1時間という時間を労働に投入すると、2000円もらえるんです。
にも関わらず、それをせずにここに来て講義を聞いているということは、2000円を諦めているっていうことなんですね。
2000円分の時間をこの講義に投下しているってことなんです。
これによって得るものがなければ、2000円損しているってことです。
そういう意味で言うと、人生における全ての選択が、皆さんがいま授業を受けているということも、実は大きな「投資」なんですよね。
ここのところがすごく大事です。広義の意味での「投資」。
【図1:広義の投資】
図1の左上がアルバイトです。さっき言った話ですね。
例えばうちの息子なんかにも話すんですけど、マクドナルドでバイトしたら1時間で1000円もらえると。これが労働です。
労働っていうのは、自分の時間を使って働いて、その対価としてお金がもらえる。
それに対して、僕が息子に言うのは、「その1時間を英検1級取る勉強に費やしてごらん」と。
英検がいいかどうか知りませんよ。例えばということですけど、英検1級が取れればおそらく君の時給は2年後、3年後に3倍ぐらいになっているよということなんです。
図1の右上の話です。
これは何を言ってるかというと、一旦時間と授業料を勉強に投下することで、ちょっと先になるかもしれませんが自分の能力が付くんですよ。
才能って言ってもいいかもしれない。
そうするとそのときには、いま皆さんが持っているよりもずっと大きな才能を持っているので、当然大きなお金が得られるということです。
就職活動してる人、これから就職すると左下のような形になるわけです。時間と能力を使いながらお金をもらっていきます。
間違えないでもらいたいんですけども、この会社に入ったらこんだけお金がもらえるって思ったら大きな間違いですよ。そんな世界はもうないですから。
皆さんのお金は皆さんの能力に対して支払われるものであって、その企業に属しているからもらえるものじゃないです。
ので、わざわざこんな図を付けています。時間と能力に対して、収入をもらっていると。
それから起業、自分で会社を作ると。最初はものすごい大きな持ち出しになります。大きな持ち出しになるけれども、大きなものが得られるかもしれないと。
「自分の人生の『オーナー』に」
実はですね、こういう話こそ学生の時に聞いておいてもらいたいんです。それが僕たちがこの講義を始めたきっかけですし、続けている情熱です。
何を言っているかといると、この講義を始めた最初の2014年に、日本電産の永守さんに出てもらったんですね。
永守さんは28歳の時に20万円のなけなしのお金と自分の才能と自分の時間を全て「回るもの動くもの」に投資したんです。
それがいま2兆円の売上をうかがおうという会社になって、永守さんも大金持ちになっています。これこそが本当の「投資」なんです。
僕みたいなファンドマネージャーがいくら言っても「結局株買ってるだけでしょ」って言われたらどうしようもないわけですよ。
そういう時に永守さんが出てきて、「投資とは?」っていうのをちゃんと示してくれたら、それを聞いた学生さんの人生が絶対に変わるという風に僕は考えて、6年前この講義を始めさせてもらったということです。これこそが広義の「投資」です。
この広義の投資の中で言うと、最初に投下するアセットっていうのは時間であったり能力であったりもちろんその中にお金も入るわけです。
アウトフロー、下に矢印が出るもの。
インフローは、お金はもちろんですが、才能であったり。
実際これもお金で買うことができるわけですよ。
上向きの矢印もお金だけじゃないわけです。
あんまり言うと「この人、品がないな」って思われるかもしれないですけど、大抵のことは実はお金に換算できます。
お金に換算できないものをどういう風に見てあげるのかというのが人生なんで、そこから先は自分考えてもらいたいんですけど、一旦お金に換算してみるっていうのは結構大事かなという風に思います。
例えばどこかの土地を買う場合、その土地をある人が見たら100万円かもしれないけど、別の人から見たらそれは200万円かもしれないわけです。
例えば、お母さんが作ってくれたお守り袋があります。
それはお金でいえば二束三文ですよ。だけど、自分にとっては全然違う感情を持つわけですよね。僕はそれを全然否定しようとは思わないです。
だけどこの土地は、正味の話、一体どれくらいの価値があるのかというのを自分なりに自分のロジックで自分の頭で考えるということを放棄して、どこかの不動産業者が「これは坪いくら」というのを鵜呑みにしてたら、本当の意味での「価値」にはたどりつけません。
「価値」というのは必ずしも価格とは違うということです。
話を戻しますけども、実は時間と才能とお金っていうのは交換できます。ここがすごく重要なラインです。
重要なラインなんだけど、皆さん大学生になってアルバイトなんかで自分でお金を稼ぐようになって初めて、お金と自分の能力と時間っていうのは結びついてきます。
高校生くらいまでは基本的にはお金っていうのは親が払うものだから、時間と能力の間の交換しかありません。
要は時間を使って勉強とか部活の練習とかをして能力を上げる。それしか多分想像できません。
そこにお金っていうのが入ってくるわけですが、いま皆さんが圧倒的に持っているのは時間です。これが実は最大のアセットになるんですよっていうことをここで申し上げたいです。
24時間はみんなに平等にあるという風に言われていますが、ちゃんと考えて使う人と全然考えない人では全然違う時間の使い方になります。
大体電車に乗ったら9割の人がスマホ見るでしょう?そんなことしてる時間があるんだったら、もうちょっと別のインプットの仕方、自分なりのアウトプットの仕方をどんどん考えた方がいい。
メッセージとして一番伝えたいのは、とにかく「オーナーシップ」を持ちましょうと。「自分で自分の人生を作ろう」というのを声を大にして言いたい。
第2回につづく