長期投資で、社会を良くする 【イベントレポート】
こんにちは。NVIC note編集チームです。
今回は、前回に引き続き、6月にSBI証券で開催された個人投資家向けセミナーの模様【後編】をお届けします。
弊社CIOの奥野と、2009年から個人投資家向けに日本株の長期集中投資ファンドを運用しておられるコモンズ投信の伊井社長という日本を代表する長期投資家2人の対談後半では、長期投資の重要性、そしてアクティブファンドが果たすべき役割について語りました。
司会者:
ここまで「価値」が上がるものを選ぶということについてお話しいただきましたが、ここからは「長期投資」の重要性ということについてお話しいただきたいと思います。
伊井さん、いかがですか?
「企業価値は1日にしてならず」
伊井:
そもそも企業の価値は1日では高まらないということだと思います。
株価は1日で数%、大きなニュースがあった日なんかは10~20%動くということもあります。
じゃあ企業の価値はというと1日では根本的には変わりません。
優秀な経営者、能力のある従業員が、より多くの人により良いものを使ってもらいたいとか、新しいイノベーションを起こしたいということに向かって、血のにじむような努力を毎日少しずつ積み重ねてようやく企業価値が作られるのだと思います。
先ほどあげた企業もすぐに株価が何倍にもなったわけではありません。
その会社の経営者、従業員の思いや何を目指しているのかを理解し、日々の営みの積み重ねによって、時間の経過とともに価値がより高まるような企業を選択する。
それに寄り添うことで、時間の長さに比例する大きな成長をリターンとして享受できるのです。
買った株が短期間で10%とか20%とか上がれば、どうしても「やった!」と思うわけですが、本当に大きな資産を作ろうと思ったら、やはり時間を味方にしていかなければいけないとい思います。
私も金融業界に30年いますが、株式に投資して大金持ちになったという人を何人も知っています。
でもその人たちは株を売買してお金持ちになったわけではありません。
従業員持ち株会で毎月コツコツと勤めている会社の株を買っていて、20年とか30年務める中で会社が大きく成長して、気が付くと1億円とかになっている、そういうケースが多いようです。
一方で、投資信託で大きく資産を増やしたという人はほとんど聞きません。
もちろん弊社のお客様や今日お越しの方の中でも私が知っている人でしっかり資産形成されている方はいらっしゃいますが、世の中全体で見ると極めてまれです。
投信はそのときどきで流行り廃りがあって、持っている投信が少し上がるとすぐに売って別のものを買ってしまう。
買ったもの全てがうまくいくわけではありませんので、たくさん売買したけど結局資産が増えていない。そんなことになりがちです。
私たちは、投資信託でもしっかり長期で積み立て投資をしていただいて、資産形成をしていただきたいと思っていますが、そのためにはファンドとしても企業をしっかり選んで長期保有することで、その企業の成長をしっかり取る、ということが大事だと思います。
「『オーナー』として社会を良くする」
奥野:
投資家個人としての長期投資の重要性というのは、いま伊井さんがおっしゃったとおりです。
多くの日本人はこれまで労働者として資本主義経済に参加し、自ら働くことで賃金を得て、老後も含めて必要なお金を貯めてきました。
これが最も確実で安全なお金の貯め方であることは間違いありません。
ただ、人生100年時代と言われるように、リタイア後の期間が伸びることで、自分で働いて貯めた分だけでは足りないという現実も見えてきます。
考えてみると、日本人は1800兆円以上の金融資産を持っていて、相当金持ちなわけです。でも、その半分以上は預貯金になっていて、実質的に「何も生まない」状態で眠っています。
このお金の一部を使って、資本家=オーナーとして資本主義に参加する、是非そういう発想を持ってもらいたいと思います。
例えば、Disneyという会社に投資をすれば、ミッキーマウスがあなたのために働き、稼いでくれるわけです。
Amazonを保有すれば、ジェフ・ベゾスがあなたのために働いてくれるのです。痛快ですよね。
ともすると自分で働くよりもたくさん稼いでくれるかもしれません。
でも、そこにはリスクがありますよ、という話です。
自分で働くのであれば確実に1か月分の賃金が得られます。
これは極めて真っ当な稼ぎ方で、これをベースに考えるべきです。
でも、いまは使わないお金を、ほんの一部でもいいので、ジェフ・ベゾスに預ける、ミッキーマウスに預ける。
そういうやり方で、20年で資産を数倍にしてきたのがアメリカの普通の人たちなんです。その背景にあるのは、これらの企業の「価値」がずっと上がってきたという事実です。
これを長く続けることで、いま若い人であれば、働いて少しずつ貯めたお金が、老後には数倍になっている。
年配の方であれば、20年後自分の子供や孫に残すお金が増えている。そういうことが実現できると思います。
戦後、この国全体が貧しかった時代はこういう発想は持つべくもありませんでした。自分で一生懸命働いて稼ぐしかなかった。
だけど、いまでは世界3位のGDPを持つ先進国です。
僕は投資をするということは権利であると同時に、先進国の国民にとっては義務でもあると思っています。なぜなら、投資は文明を進歩させるものだからです。
少し青臭い話になりますが、聞いてください。
先に述べたように、長期投資できる会社は、持続的に営業利益を稼ぐことができる会社です。では「営業利益が出る」とはどういうことなのか?
それは、その企業が顧客の問題を解決しているということです。
コストを削って安くものを作ったから利益が出るわけじゃありません。
顧客が抱える、何らかの問題を解決するからこそ、その対価として営業利益がチャリンと落ちるのです。
つまり、たくさん営業利益を稼ぐ会社というのは、がめつい会社ということではなくて、たくさん顧客の問題を解決した会社ということになります。
それを持続的にやる会社、顧客の問題を解決し続ける会社というのが、長期投資できる会社です。
顧客の問題というのを広くとらえると、それは社会の問題といえます。
長期投資で成功するとはどういうことか?
僕が選んだ会社が、僕の見込みどおりの営業利益を稼げば、投資家さんも儲かります。でもそれは、その会社が社会の問題を解決し、社会をより良くした結果なんです。
これこそが、投資の本当の意義、資本主義の根幹だと思います。
にもかかわらず、株式投資って、どこか利己的な、単なる利殖行為と思っている人がほとんどじゃないかと思います。
僕だって必ずしも「より良い社会を作りたい」との思いだけで投資をしているわけではありません。
僕の目的は、あくまで投資家様の資産を長期で増やすことです。
でも、資本主義という近代最大の発明を使って、結果的に社会が良くなっているという状態を実現するにはどうすればいいか?
それを考えることは先進国に住む人の義務だと思いますし、僕はそれを長期投資という形で実現できると思っています。
以上、青年の主張でした(笑)。
司会者:
ありがとうございました。そういった中で、アクティブファンドが果たす役割について、どのようにお考えですか?
「長期投資家は経営者のパートナー」
伊井:
一番は、経営者の人たちがいい長期投資家を求めているということだと思います。
昨年上場したある会社の経営者から、上場前のロードショーで国内外の投資家を回っていたときの話を聞きました。曰く、
「国内の投資家から聞かれるのは、『黒字化はいつですか?』という話ばかり。一方で、海外の優良な長期投資家と言われる人たちは、『黒字化はいつでもいい。今回調達した資金でしっかり成長に向けた投資をしてくれ』と言う。
後者の話は、実は我々が考えていることと全く同じで、黒字化を急ごうと思えばいつでもできるけれど、いまはより高い成長を目指して投資をしていきたいと考えている。
伊井さん、日本でももっと経営者と同じ舟に乗ってくれる長期投資家が育たないとだめだよね」
と。
このことは、弊社のイベントなどにも出ていただいている他の社長さんたちも全く同じことを言われていました。
経営者というのは、ともすれば「裸の王様」になってしまいます。
社内からは良い話しか上がってこなくなる。
そういうときに良い投資家が、外から見た視点で、経営者と同じ長期の目線で、非常に良い「壁打ち」の相手になってくれれば、それは絶好のパートナーです。
色んな経営者から、そういう相手になってほしいと言われていて、そうなれるように頑張ってやっているわけですが、これがアクティブファンド、長期投資家の意義だと思います。
「企業を選ぶことの意義」
奥野:
アクティブファンドを使うかどうかは別として、皆さんには自分で企業を選んでもらいたいと思っていて、僕たちはその参考になればいいなと思います。
「投資」そのものが、ゼロから価値を生み出すことはありません。
何もないところから1を生み出すのは企業であり、経営者です。
その1をできるだけ早く、効率的に100にしていくというのが、投資家の役割です。
ライト兄弟が飛行機を飛ばしただけでは、いまこんなにたくさんの飛行機が飛んで、みんなが世界中を移動できるようにはなっていません。
恐らく彼らの横に資本家がいて、飛行機という技術に投資をしたから、こういうことになったのだと思います。これが文明の進歩です。
ゼロから1を生み出す人を見つけて、そこにきちんと投資ができれば、1は100になります。
逆に言うと、もしマイナス1を作る人に投資をしてしまうと効率よくマイナス100になってしまうこともあり得るわけです。これは社会を悪くする行為です。
僕たちはいい会社を選んで投資していると言っていますが、裏を返せば、ダメな会社を外しているということでもあります。
僕はダメな会社にはビタ一文払いたくありません。
これは金融屋、あえて自分のことを金融屋と言っていますが、金融屋としての矜持です。
リーマンショックというのは、金融屋が間違ったお金の回し方をしたために起こったと思っています。その反省に立って、ちゃんとした事業を、丁寧に見て投資をしていかなければいけないと思っています。
司会者:
最後にお二人に「なぜこの仕事をしているんですか?」という質問をしてみたいと思います。いかがでしょうか。
「世の中の役に立ちたい」
伊井:
キャリアのスタートは証券会社に入りました。
中から見てこれはひどいなと思うことも多かったんですが、同窓会なんかに行くと、「うちの親が証券会社に騙された」とか散々に言われたわけです。
別に人から良く思われたいとかいうのではないんですが、やっぱり世の中の役に立つ仕事がしたいと思って、いまの仲間たちと一緒に、企業の経営者の役にも立てて、個人投資家の皆さんにも貢献できて、社会の役に立つようなそういうストーリーが作れる会社をやりたいということでコモンズ投信を立ち上げました。
今日「コト消費」というお話をしましたが、投資がライフスタイルの一部分になって、積み立てをしているのも忘れるくらい、知らないうちに資産が増えていると。
で、たまにファンドマネージャーに会ったり、一緒に工場見学に行ってみたり、あるいは社会起業家の方の話を聞いてみたり、そうやって社会とつながりながら、皆さんの生活が豊かになればいいなと思って、仕事をしています。
「企業価値向上のための対話」
奥野:
僕は最初は日本長期信用銀行に入ったんですが、そこでやりたかったのは、お金を貸しながら経営者とひざ詰めで話をして、どうやったら企業がもっと成長できるのかということを一緒に考えることです。
いまは融資か投資かという形は違いますが、やっていることは実は同じだと思っていて、経営者と対話して、金融屋としての気づきを共有させてもらうことで、どうやったらもっと企業価値が上がるのかということを一緒に考えています。
僕たちはアクティビストではないので、配当を増やせとか自社株買いをしろとか、そういう議論には興味がありません。
一方的に株主への配分を増やせというのはフェアではなくて、企業価値そのものが上がれば、ステークホルダーみんながハッピーだろうと。
そういう意味で企業価値の向上という点に絞って対話をさせてもらっていますが、これはまさに長銀時代にやりたかったことそのもので、本当にラッキーだなと思っています。
司会者:
最後に皆様にメッセージをお願いできますか?
「ファンドの生産者として、顧客に寄り添う」
伊井:
この仕事を長くやっていると、最近は海外の長期投資家が来日した時に訪ねてきてくれることがあります。
彼らが言うのは「伊井さん、私たちもManufacturer(生産者)だよね」と。
先ほど奥野さんもそういう言葉を使われていましたが、僕たちはファンドというモノを、何かAIみたいなものに判断させるのではなくて、毎日磨き続けるという生産者としての気概を持って常にファンド運用に取り組んでいます。
そして、生産者の思いをお客様である皆様に届けたいと思っています。時には厳しい声をいただくこともあると思いますが、それは生産者にとっては貴重なフィードバックです。
そういう関係を企業とも、投資家さんとも築いていきたいと思っています。
「オーナーシップを持とう」
奥野:
お伝えしたいのは、一言「オーナーシップ」です。
企業のオーナーという観点でいうと株主になるということですが、単なる利殖としての株式投資ということではなくて、その企業に対する「オーナーシップ」というものを持っていただきたいと思います。
わからないこと、難しいことがあれば僕たちがお手伝いしますので、そこは信じていただきたいと思います。
一同:
本日はありがとうございました。
【スピーカー紹介】
伊井 哲朗氏
コモンズ投信株式会社 代表取締役社長 兼 最高運用責任者
内外の大手証券会社を経て、2008年コモンズ投信創業と共に現職。2012年7月から最高運用責任者兼務。
著書に「『普通の人』が『日本株』で年7%のリターンを得るただひとつの方法(講談社)」、「価値向上のための対話(日本経済新聞出版社 共著)」、「97.7%の人が儲けている投資の成功法則(日本実業出版社)」がある。