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奥野一成、母校に帰る~洛南高校キャリア教育講演会から パート2~

迷走しながらやりたいことを追求した

そんなことなので、私は今ものすごくエキサイティングに仕事をしています。本当に好きなことを好きなようにやらせてもらっている。

農林中金っていう大きな金融機関ですけれども、そういう金融機関で私みたいに好き勝手やらせてもらってる人そうそういないと思います。普通ではあまりないと思うんです。

でもここに至るまでのキャリアの説明をすると、極めてくだらないキャリアだったということをお話したいなと思います。

私は元々高校から洛南に入っています。当時はまだ洛南中学ってなくて、私が高校1年の時に中学が出来たんですね。中学から入ってる奴らってものすごい頭いいんですよね、ビックリするくらい。高校2年の時に、中学2年の授業を見学に行ったんですけど、そいつら高校の数Ⅰやってたんですよね。私らが高校1年生の時にやった数Ⅰをやっててビックリした覚えがあります。

いずれにしても高校から、つまり中学時代の受験戦争に成功して洛南に入りました。当時は洛南で一生懸命勉強していれば普通に京都大学に行けましたので、私もあまり考えずに京都大学に入りました。

京都大学はすごく楽しかったんですけど、まぁ普通に就職活動をして、皆さん知らないと思いますけど、日本長期信用銀行(長銀)っていう、その当時は一番入るのが難しい銀行の一つと言われたところに入りました。ここは本当の意味でものすごく優秀な人達が集まっていた銀行でした。

ここまではものすごく直線的なキャリアです。誰もが予想できる、このままいけば普通に生活できるようなキャリアというのをずっと歩んできたわけです。

ところが98年に金融危機というのが日本に起こりまして、長銀が潰れました。今でも大銀行がこの規模で潰れた例はないと思います。それくらい大変だったわけです。もう世の中真っ暗でしたね。というか私が真っ暗でした。当時もう結婚していて、奥さんも長銀でしたから。そういう意味で言うと二人で真っ暗なわけですよ。

それでここから私のキャリア上の迷走が始まるわけです。そこまではある意味世の中的には順風満帆なキャリアをずっと歩んできたわけですけど、そこから迷走が始まります。

最初はUBS証券というスイス最大の証券会社の日本法人、まあ簡単に言うと外資系証券に入りました。貰える報酬は普通の銀行の3倍くらいあります。でも、損したらいつでもすぐにクビになります。それだけものすごく厳しい世界の中で私は結局4年間勤めることになりました。

2年間東京で勤めて2年間はロンドンで、ロンドンでは日本人1人だけでしたけど勤めました。なんで2年間向こうにいたかというと、ロンドンビジネススクールっていうビジネススクールに行くためです。

皆さんも多分学部卒で普通に就職するとマスターの必要性を感じると思います。日本で学士取っているだけではこの世界では生きていけませんので、普通にMBAとかファイナンスの修士を取りに行くことになります。

私はそのロンドンビジネススクールで企業価値評価、さっき言った企業の価値を評価する、今やっている長期の投資に直結する技術を学んで、それで帰ってきて農林中金に入りました。

農林中金って皆さん知らないと思いますけども、所謂銀行というよりも大きな機関投資家といった方がイメージに近いです。世界で5本の指に入るというと言いすぎかもしれないですけど、10本の指に入るほどの機関投資家です。

そこに雇ってもらって、そこで私はそのロンドンビジネススクールで学んだ企業価値評価という自分の武器を使って色んな提案をしていくわけです。その中の最大の提案が、農林中金の中で社内ベンチャーを作る。今のプロジェクトの原型ですね。

社内で手を挙げて、こういうことやりたいんですって言ったら、農林中金はものすごくフラットな組織なんですね。そこで「ええよ」という風に言ってくれた上の人がいて、それでスタートしたのが取っ掛かりで、それが大きくなったのでじゃあ会社を作ってやるよっていう風になって、会社まで作ってくれたのが2014年です。

だからもうそういう意味で言うと、25年間、これですけれども私のキャリアっていうのは後から見ると、なんかすごいキャリアだなって見えるかもしれないですけどそうではなくて本当に迷走してます。でもやりたいことっていうことにはものすごく忠実に今まで来たつもりです。これが私のキャリアですね。

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キャリアを拡散せよ!

この直線的なキャリア、多分君達はこれから文系に行こうかとか理系に行こうかとか、東京大学に行こうか京都大学に行こうかとか、多分そういうことでキャリアを決めていくんだと思います。

そんな中でそれはもしかしたら親の希望なのかもしれません。が、君たちは普通に生活していると、この極めて振れ幅の小さい、直線的なキャリアをこれから歩むことになります。

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けれどもそれは本当に社会に対してインパクトのある人生なのかどうかっていうのはどこかでまた考える機会が出てくると思います。

まだ中学3年生とか高校1年生だから、そんなことを考えるには早すぎます。そんなこと考えている間に勉強しましょうっていうのが多分今のステータスだと思います。

そういうことを考え始めるのは大学生であるとか就職してからとか、もう少し先だと思いますが、その時に思い出してもらいたいんですね。5年くらい前にそういえばこんなことを言ってたおっさんがいたなと。そういう感じで思い出してくれれば、私はすごく本望だと思っています。

大事なのはそういう意味で言うと学歴ではないんですね。とりわけ今私は企業の経営者でもあるんですけど、その企業に来てもらいたいと思うのは高学歴な奴じゃないんです。

ちゃんと人間としての力を持っている人こそが重要です。教養がある、みんなと一緒に働けるとか。もちろん能力は当たり前ですが、大事なのは物を知っていることではないんです。

とりわけ今やAIだとかGoogle先生に聞いたら何でもわかる時代なわけですよ。そんな時に知識なんか集めたって何の役にも立たないんですよ。大事なのはその情報を集めてそれを自分の頭で考えることができるか、要は「考える力」なんですよ。

そのために君達は今基礎能力を積み上げているんだと思う。そういう風に認識して下さい。最初から基礎がなければそれを組み合わせることもできないので、君達はそういう意味で言うとまだ基礎を身に付ける段階なんだろうなっていう風には思っています。

なんでそんなこと言っているかというと、普通に勉強して医者になります。そんなの取って代わられますよ。ワトソンっていうIBMが開発した人工知能があります。これっていうのは普通の医者が色んな論文を3年間かかって読むところを20分で読みますからね。

弁護士もいらないですよ。判例なんて別に単なるテキストです。これまでどういう判例がどういう風に出てどんな確率でどうなっているかというのがわかるわけですから。

普通のサラリーマン、もうほとんどの部分はそういうものに取って代わられる可能性があります。

会計士、単純にその数字の羅列を見るだけならば機械で十分ですからね。もうそういう時代は終わってるんですよね。

そういう中で君達なりに本当に生きていこうと思った時には、医者になる人は例えば弁護士の資格も持つとか。医者の免許を持っている弁護士、最強ですよ。例えば弁護士の資格を持っている経営者、いいですね。

何を言っているかと言うと医者になろうが弁護士になろうがビジネスのセンスのない奴は無理なんですよ。さっき言ったように人間力がない奴は無理なんです。

ここを勘違いすると、医者になったからもう安泰とかって思ってしまいます。これからの時代、それで安泰ということは絶対にありません。

問題を大きく解決する。それこそが社会にインパクトを与える生き方なんだろうという風に私は思います。組み合わせってすごく重要です。その世界っていうのは多分AIは入ってこれません。

AIっていうのは過去の情報だけを分析して、何が確率が高いかを選ぶだけですから。もっと大きく将来を想定して構想する、色んな物を組み合わせて考える、それが人間に残された最後の力なんだろうと思っています。なのでキャリアを作る時に注意して下さいよっていうことです。


最後に

ここからが結論に入っていきますけど、ハッキリ言うと大事なこととか本当に意味のあることとかっていうのは後にならないとわからないです。

洛南の校訓ありますよね。

「自己を尊重せよ」
「真理を探求せよ」
「社会に献身せよ」

この3つ。私高校の時になんじゃこれはと思いましたね。こんな当たり前のことを普通に言って何やねんこれとずっと思ってました。

でも、さっきから口酸っぱくして言ってますけど、社会に貢献する会社、ビジネスじゃないと生きてる意味ないわけですよ。それを本当に突き詰めようとした時に、社会に貢献するっていうことの重要さっていうのは今になって初めてわかるんです。多分今の君達ではわからないと思うんです。そういう大事なことっていうのは後から振り返った時に分かるかもしれないだろうと思います。

自己を尊重するってことは好き勝手に生きればいいのか、実は高校生の時はそんな風にも考えました。そして、なんだかんだ言って私は自分の本当にやりたいことは一体何かっていうことをずっと突き詰めてきました。もちろん、そればっかりやってたわけじゃないですよ。嫌なことだってたくさんやりました。でも、自分のやりたいことを突き詰めようと思ったらやっぱり仲間が必要なんですね。

仲間が必要な時に自分がやりたいことというのが何らかの真理に根差してないと。人間がみんな普通に持っている真理に根差してないと絶対人なんか付いてきませんから。すごく重要なんですよ。

私は自分のこの手帳、だいたい3ヶ月に1冊のペースで全部書き終えるんですけど、その一番最初のページには自分がなりたいものと、あとは高校の校訓、校訓だけじゃないですけど色々思いつく大事なことっていうのを最初のページに書いています。

今言ったような話だとか仲間の尊さ。京都大学ってすごくいい大学ですよ。変人ばっかりでしたからね。自由なんです簡単に言うと。何もしなくても卒業できるし超楽ちんです。ただ逆に言うと自分で何かを考えないと何も起こらないんです。自分で責任を持つ。これが自由っていうことですね。

高校の時の友達、大学の時の友達、本当に宝です。恋愛もすごく大事です。大学に入ってやっぱり恋愛なりその友達と付き合うということっていうのが、どれだけ自分の幅を増やすかっていうこと。だからどんどんそういう付き合いを増やしていきましょう。

勉強だとさっき英語とかありましたよね。そんなのわかりませんよ、やってる時は。やってる時は京都大学に入るためにやってるだけですからね。でも後になって考えてみると、もうちょっとちゃんとやっときゃ良かったという気持ちもあるし、でもやっといて良かったという気持ちもあります。

なんだかんだ言って銀行が潰れて野に放り出された時に、じゃMBA取りに行こうと思った時に、昔勉強したことが支えになりました。日本のこの教育のレベルの高さっていうのは誇っていいです。とりわけ数学。これちゃんとできるかどうかっていうのが海外で大学院行ったりとかする時にはとても活きます、絶対にやりましょう。

というのが後にならないと分からないという話ですね。そういったことの中でこんなことを言うと多分君達のお父さんお母さんに怒られるんですけど、積極的にはみ出しましょう。はみ出すことを恐れてはいけないと思っています。多分皆さんとても従順でものすごく優秀で、私も35年前は多分そうでしたから。

そういった中で、はみ出さないように、親の期待に沿うように多分ずっと生きてきたし、これからも多分普通にそういう部分はあるのだと思いますけれども、どこかで親はもう責任を取ってくれませんから、自分の人生というのは自分の責任取らなきゃいけない。そんな時に、色んな振れ幅が大きい選択を持つっていうのはすごく大事です。でもそれは今じゃないかもしれません。それはもしかしたら大学に行ってから、企業に入ってからの話かもしれません。

少なくとも今は自分達の選択肢を狭めるべきではないです。今自分はこれなりたいとかって思ってることっていうのは、後から考えると極めて狭いキャリアです。

これが最後のメッセージです。つまり「自分のオーナーになる」。先程から長期投資をすることで永守さんやミッキーマウスを働かせるなんていう話をしましたが、若い人の場合はとにかく自分の人生こそが自分のものです。自分の人生以外は自分のものじゃないです。なのでとても大事にしましょう。

将来、世界を変えていくような人達が、今日聞いていただいている300人か400人の中から出てきてもらいたいなというのと、35年前の自分がこういう話を聞きたかったなと思っていることをつらつらと考えてお話しさせていただきました。

(質疑応答に続く。次回は1月22日頃公開予定です)