いかにしてデザイン組織をデザインするか <DesignOps 実装編>
前回はDesignOpsの生い立ちを整理したが、今回はそれをどのように実装するのか?についてさらに読み解いていきたい。
Craftとは
DesignOps Handbook“So, What is DesignOps?"の章では次のように記述されている。(前回エントリの冒頭でも紹介した)
また、前回のエントリでは
というMaloufの言葉を紹介し、だがこれはCraftを否定するものではないと言及した。
“So, What is DesignOps?"の章では次のようにCraftを説明している。
いかに課題を解決し、より良い変化をもたらすのかという創造性の発揮こそがデザイナーの仕事であると理解している。
ただし、それが個人のセンスという属人性に閉じ込めるのではなく、Methodとして扱いやすくして、デザイン思考の4D(Discover, Define, Design, Deliver)のようなProcessとしてパッケージ化することで成功への道筋を立てる必要があるとHandbookでは解説されている。
そうすることで、今までにないCraftの開発(デザイナーとしてのチャレンジ)に力を割くことができ、そして、またそれをMethodとして抽象度を上げて思考する…を繰り返すのである。
Operationの分解
そんなCraftが内包されたMethodとProcessをスムーズに実行するための要素について、DesignOps Handbookでは4つに分解している。
内容を簡単に紹介すると・・・
ツールとインフラ
まずは、デザイナーのための“ツール”と“インフラ”が整備されている必要がある。整備された環境で、ムラのない(常にHigh Qualityな)仕事をしなければならない。
ワークフロー
こだわることは大事だが「これでよし」の線引きは必要である。“ワークフロー”を定義することによって、デザイナーのアウトプットについて品質管理を行う。
人(ピープル)
デザイナーのパフォーマンスを引き出す仕組みができたなら、そこで働く“人”を集めなければならない。どんな人をどのようにこの組織に参加してもらうのか、そこでデザイナーはいかに継続的に働き、成長し、組織全体のパフォーマンスを上げていくのかを検討し実行する。
ガバナンス
献身的に働くデザイナーを適切に評価し報酬で報いる。ほかに休暇や福利厚生も必要になるだろう。さらに、クライアントとの関係性も重要である。良好であることに越したことはないが、様々なトラブルに対処できる“ガバナンス”体制によって本来の仕事にフォーカスすることができる。
よくDesignOpsを解説する記事で取り上げられる図がこちらである。
3つのレンズ
ただ、個人的にはその次の章“How DesignOps works”で掲載されている以下の図のほうが、活動内容や管理すべきことが具体的に記述されているのでより実践的に理解しやすいと思う。
3つの重なり合う領域(レンズ)で表現されているが、前述のガバナンスは“Business Operations”を中核に、ツールやインフラは“Workflow Operations”を中核にしつつ、それぞれ他の2つの領域にも掛かっている(実際、レンズの中心にGovernanceもToolsも記述されている)と解釈できると思う。
同じく中心にあるResearchOpsはデザイナーの素養としてリサーチの重要性を言わんとしていると理解している。(こちらについては改めて頭の整理を進めるべく別エントリで紹介したい)
そのうえで、各領域について内容を見ていきたい。
Business Operations
Business Operationsは次のように強調されている。
すなわち、社内外に向けてデザイン組織の正当性(経営への貢献)を説明し、経営リソースを獲得する活動であると解説されている。デザインというものを、適切に“通訳”しながら理解と支援を得ていく必要がある。
People Operations
People Operationsでは次のように言及されている。
活躍の幅を広げ、これまでにない領域での成果を期待されるデザイナーたちのキャリアパスは、これまでのようなOJT(徒弟制度)という名の暗黙知的な伝承では明確にならず、期待と表裏一体にある責任にコミットすることができない。
Workflow Operations
Workflow Operationsで興味深いのは次の文章である。
ここで、“Product Lifecycle Management”と言い換えている意図は、デザインを事業活動の独立した1ステップとするのではなく、開発や生産、マーケティング、営業、サポートといった様々な活動にデザインは積極的に関与し、統合を主導していくべきという狙いがあると理解している。
そうすることで、真のUX(User Experience)デザインが成されるのである。
DESIGNの価値
ここまで読み進めてきて、根幹にあるのはやはりDesign for Sustainabilityであると改めて感じる。
デザインを持続的な活動にするためには、「design」という高い城壁を築くのではなく、デザインを民主化することで様々な組織と関わり合い、「DESIGN」としてその価値を高めなければならないのである。
このような「特定の職能を持った組織の存在意義を明確にして、周囲の理解を促し、その価値をさらに高める」という道は、“デザイン”が初めてではないだろう。
その昔、PCに詳しい人が情シス(情報システム部門)となり、“パソコンよろず相談所”として機能していたところから、より戦略的に情報(Information)を扱い、それを解釈して使う(Intellegence)ところまでスコープは広がっている。
他には、マーケティング部門とくにデジタル領域においては、企業ウェブサイト(ホームページ)の管理人から、いまやデジタルに限らずより広く多層的なコミュニケーションを包括的に捉えて活動している。
これらの組織は自組織のボスを、CIOやCMOとして経営陣に送り込み(ラインナップさせ)、より大きな責任を負い、その組織自身の価値を高めている。
デザイン組織をデザインする
デザイン組織についても同様にCDOとして責任を負い、期待値を上げ、その役割を果たそうとしている。
デザイン組織は、いかにして事業部門や顧客と関係していくのか?
ひとつの組織として集合したり、各事業やプロジェクトに個別に入っていったり、様々なトライアルを繰り返しながら、あるべき組織のカタチを模索している。
そこには様々な事例やレポート、書籍があるので、次回以降は興味深いものをピックアップしながら自分なりに理解し解釈していきたいと思う。
イベントやりました
NTTデータ Tangityさんと共催でDesignOpsについてのオンラインセミナーを開催しました。(追ってレポートエントリ公開予定)