
#3 貧血の人は低血糖症になりやすい。貧血と低血糖症の関係とその対処法とは?オススメの分子栄養学的アプローチを解説
なぜ、貧血、鉄不足が低血糖症の原因に? 貧血と低血糖症の深い関係
では、ここからは貧血と鉄不足がなぜ低血糖症の原因になるのかについての具体的な解説に移りましょう。この関係を理解しておくことは、今後低血糖症と貧血改善を行っていく上で役に立つはずです。
まず、鉄分が私達の身体の中でどのように働いているのかについてです。鉄分は、全身に酸素を運ぶためのヘモグロビンの材料して使われる以外にも、全身の細胞がエネルギーを生み出す際の補酵素として使われています。
具体的には、私達が食べた糖質や脂質、タンパク質などは胃で消化され、小腸で吸収された後に血液中にのって全身へと運ばれます。全身へと運ばれた栄養素は細胞内のミトコンドリアへと運ばれ、このミトコンドリアがATPと呼ばれるエネルギーを産生することで、私達は筋肉を動かしたり体温となる熱をエネルギーを生み出しています。
このミトコンドリアがエネルギーを生み出すときには鉄分を始めとしたミネラルやビタミンB群などが必要で、鉄が足りないとミトコンドリアがエネルギーを作る事が出来なくなってしまうのです。
このエネルギーが十分に作れなくなるということは、私達が食べた糖質などがエネルギーとして利用しづらくなることを意味しています。糖分(グルコース)は貯蔵型の糖であるグリコーゲンとして肝臓や筋肉に貯えられ、運動時や低血糖時などに必要に応じて使われています。これら糖をエネルギーとして使えない状態だと、そのぶんだけ血管内に余分な糖が溢れることになり、機能性低血糖症のような血糖値の乱高下に繋がってしまいます。
また、貯えたグリコーゲンが低血糖時や運動時など必要に応じて使えない場合は、血糖値が下がったときに血糖が十分に上げられなくなってしまいます。このようなことも、低血糖時に血糖値を上げられない状態になってしまう原因です。
それから、鉄分から作られるヘモグロビンは体中に酸素を運ぶ役割も担っています。ミトコンドリアがエネルギーを産生するときには、この酸素も欠かせません。酸素が不足することで更にエネルギー産生能力が低下し、糖のエネルギー利用や糖代謝が更に低下してしまうことに繋がります。
つまり、貧血になってしまうと①糖質、脂質、タンパク質などの栄養を細胞の隅々まで運ぶ能力が低下し、②鉄が不足することでミトコンドリアがエネルギーを作り出せなくなります。さらに、③貧血状態では酸素の運ぶ量が低下し、ミトコンドリアが利用出来る酸素も減ってしまうのです。
この3つが重なる事で糖質や脂質、タンパク質などがエネルギーとして利用出来なくなってしまい、全身の細胞の働きや臓器の働き、糖の代謝が落ちて低血糖症へと繋がってしまいます。
加えて、貧血は肥満や異所性脂肪、脂肪肝などへ発展し、さらなる血糖コントロール障害へと進行するきっかけになっています。これは、ミトコンドリアがエネルギーとして使えなかった糖質や脂質などのエネルギーは、インスリンなどの働きによって中性脂肪に貯えられてしまうためです。
よく「貧血になるとあまり食べていないのに太りやすくなる」と言われるのはこのためです。貧血が肥満や異所性脂肪、脂肪肝などへ発展し、更なる血糖コントロール障害へと進行するきっかけになっています。
また、鉄分はミトコンドリアのエネルギーとして使われる以外にも、脳の神経伝達物質の材料としても使われています。脳の神経伝達物質とは、分泌されると幸せな気分になったり、感情をコントロールしている物質のことです。
これは特に、うつ病の原因と関係があると言われている「セロトニン」などが有名ですよね。このセロトニン以外にも「ノルアドレナリン」や「ドーパミン」など様々な神経伝達物質がバランス良く分泌されて、私達の精神や自律神経が保たれています。
この神経伝達物質の材料には、鉄分が欠かせません。まず、神経伝達物質を合成するためには、材料として「アミノ酸」が必要です。このアミノ酸は、肉や魚などのタンパク質を胃で分解し、小腸で吸収することで補給しています。このアミノ酸にはおよそ20種類ありますが、そのうち脳の神経伝達物質として利用出来るのは「L-グルタミン」と「L-フェニルアラニン」「L-トリプトファン」です。
そして、この3つのアミノ酸がそれぞれ「鉄」や「葉酸」「ナイアシン」などを利用して「L-グルタミン酸」や「L-チロシン」「5-HTP(ヒドロキシトリプトファン)」などに合成され、最終的に「GABA」や「ドーパミン」「セロトニン」や「メラトニン」などに合成されて利用されています。
この脳の神経伝達物質を合成する際には、必ず鉄が必要です。例えば、「L-フェニルアラニン」から「L-チロシン」に合成する際には鉄が必要ですし、「L-トリプトファン」から「5-HTP(ヒドロキシトリプトファン)」に合成する時にも鉄が必要です。この時に体内で鉄分が不足していると、脳の神経伝達物質を合成するための材料が足りなくなってしまい、自律神経の乱れやうつ症状、感情が抑えられない、ストレスの増加、頭痛やめまい、PMSや腸内環境の悪化など様々な体調不良へと繋がってしまうのです。
それから、「セロトニンは幸せホルモン」だということをどこかで聞いたことがありませんか?セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンなどを調節する以外にも、分泌されることで多幸感を得られるホルモンでもあります。
このセロトニンから合成される「メラトニン」は、体内時計を司っていたり質の良い睡眠を司っており、リラックスするための副交感神経を優位にするホルモンでもあります。
これら脳の神経伝達物質合成が出来なくなってしまうということは、副交感神経を優位にする事が出来なくなってしまうということに繋がります。副交感神経が優位に出来ない場合は、リラックス出来ない状態が続いてしまうということです。
この状態では常に交感神経が優位の状態に陥り、交感神経優位の状態では胃や腸の働きが低下してしまいます。加えて、交感神経優位の状態では常に神経が高ぶって身体がストレスを受け続け、先ほど解説した副腎からストレスに対抗するためのホルモンが大量に分泌されてしまいます。このことから、副腎が疲れて副腎疲労や慢性疲労症候群などへ進行し、結果的に低血糖症へと繋がってしまう原因になるのです。
貧血だと腸内環境も悪化する!? 貧血が腸内環境の悪化と更なる低血糖症の悪化へと発展する理由
貧血からくる自律神経の乱れは、副腎疲労や慢性疲労症候群の原因になるだけではありません。これ以外にも腸内環境の悪化にも関係しています。自律神経は胃の動きや腸の動きと関係しており、自律神経が乱れると胃や腸の動きが悪くなって便秘や腸内環境の悪化を招きます。よく、貧血になると便秘になると言われているのはこのためです。
この便秘や胃の働きが低下することで、腸内環境が悪化してしまいます。腸内環境の悪化とは、腸内に生息する善玉菌と悪玉菌のバランスが乱れてしまった状態を指します。この腸内細菌のバランスが乱れていることで肥満になりやすくなったり、アレルギーを引き起こしやすくなったり、感染症や認知症、動脈硬化や糖尿病、低血糖症の悪化など、様々な疾患が引き起こされるリスクが高くなるのです。
腸内細菌のバランスが乱れる原因としては、主に悪玉菌の増殖が関係しています。腸内には体に良い働きをする善玉菌と身体に悪影響を与える悪玉菌が住んでおり、これ以外にも日和見菌(ひよりみきん)といって、悪玉菌にも善玉菌にもどちらにもなれる菌が多数を占めています。この日和見菌は、悪玉菌が優勢であれば悪玉菌と同じような活動をし、善玉菌が優勢であれば善玉菌と同じような活動をするのが特徴です。
この善玉菌や悪玉菌、日和見菌のバランスは善玉菌が2割、日和見菌が7割、悪玉菌が1割という比率が最もバランスが良いと言われていて、その優劣は日々、私達が食べた物や体調によって影響を受けています。
つまり、腸内の健康状態を保つためには、善玉菌を多くして日和見菌を味方に付けることが最大のポイントです。これが逆転して善玉菌よりも悪玉菌の量が多くなってしまうと、日和見菌も悪玉菌の見方をして悪さをし、お腹の調子が崩れたり太りやすくなったりと様々な不調へと繋がってしまうのです。
そして、この腸内環境が悪くなるとインスリンの効きが悪くなり、糖代謝が悪化することが分かってきました。この理由は、悪玉菌が出す毒素や、善玉菌が出してくれる「短鎖脂肪酸」量の低下が関係しています。悪玉菌が出す毒素は腸粘膜にダメージを与え、腸粘膜に炎症を発生させます。この腸粘膜に炎症が続くと、いずれ腸粘膜が弱って「リーキーガット症候群」と呼ばれる状態に進行してしまいます。
リーキーガット症候群とは、食べ物の栄養を吸収する小腸の粘膜が炎症によって弱り、腸粘膜の細胞同士の間に隙間が出来てしまう状態のことです。この隙間から本来吸収されるはずのない未消化の食べ物や細菌などが血液中に入り込み、免疫が過剰に反応してアレルギー反応や慢性的な炎症を引き起こしてしまう状態です。このアレルギー反応や炎症が慢性的に続くことで免疫細胞が過剰に活性化し、インスリンの働きを低下させる物質(TNF-α)を分泌することでインスリンの効きが悪くなってしまう可能性があります。
このリーキーガット症候群は機能性低血糖症や無反応性低血糖症の原因にもなっており、現時点で何らかのお腹の不調を抱えている状態なら、既にリーキーガット症候群になってしまっている可能性が高いです。特に下記の症状に当てはまる項目が多いようでしたら、リーキーガット症候群も疑いましょう。
リーキーガット症候群の疑いがある症状
アレルギー性疾患
炎症性腸疾患
自己免疫疾患
糖尿病
低血糖症
頻繁に下痢をする
下腹部(大腸)に不快感や痛みが起こる
食後の膨満感が強い
原因不明の倦怠感
栄養補給していても血液データの改善がみられない
服薬中の方(抗生物質、鎮痛剤、ステロイド、ピルなど)
特に、抗生物質や鎮痛剤、ステロイドやピルなどの薬剤を使用している方は要注意です。これら薬剤も腸内環境の悪化を招き、リーキーガット症候群の原因になりえます。
特に女性の方は毎月生理がある度に鎮痛剤を飲んだり、生理痛が重い方やPMSが酷い方は低用量ピルの服用によって生理を止めたりしますよね。このような慢性的な服薬が胃の機能を低下させ、腸内環境を悪化させる原因になりえます。
加えて、貧血は免疫力の低下を招きます。風邪を引きやすくなるので、風邪を引いたらすぐに病院に行く方も多いですよね。そして、この時に病院で処方される薬と言ったら、抗生剤です。この抗生剤の服用も、腸内環境を悪化させる原因になります。
実は、風邪に対して抗生剤は全くと言って良いほど役に立ちません。その理由は、風邪は細菌感染では無くウィルス感染によって起こるものだからです。インフルエンザウィルスやコロナウィルスなどがその代表格ですね。このウィルスに対して抗生物質は全く効きません。
にもかかわらず、病院ではただの風邪に対しても抗生物質が安易に処方されている現状があります。この抗生物質は、腸内細菌にとってみれば原爆を落とされるようなもので、このようなただの風邪に対しても抗生物質を服用してしまうと、腸内に生息するいい菌も悪い菌も含めて殺菌され、腸内環境が悪化してしまうのです。
もしかすると、あなたの低血糖症はこれら薬の服用や、貧血による自律神経の乱れによって引き起こされたリーキーガット症候群が関係しているかもしれません。リーキーガット症候群かどうかは、オーソモレキュラー療法のうちの1つであるリーキーガット症候群検査を受ける事で分かります。心当たりがある方は、当方が推奨するオーソモレキュラー療法の検査を受けてみて下さい。
ただし、リーキーガット症候群は先ほど解説した貧血も関係しており、その他にも脂肪肝や肝炎、口腔内の環境悪化等も関係しています。基本的に、リーキーガット症候群だけが単独で発症するということはあり得ません。
もしリーキーガット症候群だった場合は、貧血も含めて口腔内や肝臓のケアなど総合的に対策するようにしましょう。オーソモレキュラー療法では、これらも含めて総合的にアプローチすることが可能です。是非受けてみて下さい。
この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓