半年間のSHARE Cambodiaでの経験を振り返って
11月末をもって、約半年間働いたSHARE Cambodiaを退職しました。この半年間、主にベースライン調査のデータ分析と、現地スタッフ向けのキャパシティビルディング(統計や医療の講義)に取り組んできました。現場での実務を経験し、公衆衛生学修士課程で学んだ知識を活かすことができ、とても充実した学びの多い時間でした。少し振り返りながら、この経験を共有したいと思います。
コミュニティに根付いた活動の意義
SHAREは、カンボジアのプレアビヒア州で低栄養改善を目指すプロジェクトを展開しています。ただし、現地に直接介入して乳幼児健診や治療を行うのではなく、現地の保健ボランティアや女性子ども委員会(CCWC)が自主的にIGMS(統合型乳幼児健診)を運営できるようサポートするというスタイルです。たとえば、身長や体重の測定方法や成長曲線の記録方法を教えたり、CCWCが自治体から予算を獲得できるよう支援するなどの活動を行ってきました。
時間のかかる取り組み
最も感じたのは、コミュニティに根ざした開発には時間もお金もかかるという現実です。短期的には、自分たちで乳幼児の健診や栄養補助食品の配布を行ったほうが効果が目に見えるかもしれません。しかし、それでは持続可能性を生み出すことはできません。重度の栄養失調の子どもたちを目の前にしながらも、治療ではなく測定方法を教える日々には、葛藤もありました。
さらに、たとえ目標通りに現地ボランティアが自立して活動を行えるようになっても、それがすぐに栄養状態の改善につながるわけではありません。目に見える成果が得られにくいこのアプローチが、臨床医として患者のアウトカムを直接見てきた自分には、とてももどかしく感じる場面もありました。
それでも、地域に根差した活動を続ける理由。それは、最も困難な状況にある人々が、将来的に自分たちの力で健康を守れるようになること。それが達成されたときの価値の大きさを信じるからです。教科書で学んだ「コミュニティベースアプローチ」を実際に現場で経験し、その理想と現実のギャップを痛感しました。
キャパシティビルディングの難しさ
キャパシティビルディングもまた、簡単なことではありません。現地の保健ボランティアの多くは、小学校卒業率や識字率が8割に満たない状況の中で活動しています。BMIの計算や単位変換の理解が難しいため、現実的には、成長曲線の記載はヘルスセンターのスタッフが行い、ボランティアはその結果を基に次のアクションを決める形です。しかし、本来のキャパシティビルディングを目指すなら、基礎的な健康測定を彼女たち自身ができるようになる必要があり、その道のりは長いと感じました。
また、私は現地スタッフ向けに統計や医学のレクチャーを担当しました。彼らはとても熱心でしたが、「分析する」「関連性を考える」といった概念に触れる機会がこれまでなかったため、新しい考え方を身につける難しさも実感しました。現地スタッフは非常に聡明で、限られた教育環境の中でもプレアビヒアの中ではエリート層に属しています。しかし、教育の基盤が違うため、データや科学的思考への適応には大きなハードルがあると感じました。
現場に近いということ
もう一つ学んだのは、最も困っている人たちとともに活動するということは、快適な生活環境とは無縁である、という事実です。プレアビヒアでは、水道やエアコンのない環境が当たり前。現場に根ざした活動を実現するためには、こうした環境で生活する覚悟が必要です。大学院で学んだときは「コミュニティに根差した活動」の美しさに憧れましたが、それを長期的に続ける現実の厳しさも身をもって理解しました。
今後のキャリアに向けて
専門家としての喜びと学びの実感
SHAREでの活動を通じて、専門家として自分の知識やスキルが現地スタッフや村の活動に活かされることの喜びを強く感じました。医学的知識やLSHTMで学んだことを基にしたレクチャーでは、現地スタッフが目を輝かせて聞いてくれ、その学びが村での活動に活かされていく様子がとても嬉しかったです。また、ベースライン調査の報告書作成では、LSHTMで習得した記述統計やアカデミックライティングのスキルを地道に活用でき、学びが実務につながる感覚を得ることができました。こうした経験から、専門家として成長し、学びを続けることが自分にとってのやりがいに直結するのだと再認識しました。
NGOの強みを実感して
NGOでの活動を通じて、地域に密着した支援の強みを改めて感じました。例えば、プロジェクトでは、XX村で-3SDの子どもたちがどの家に住んでいるのか、誰がまだヘルスセンターに行っていないのかといった具体的なレベルで状況を把握し、実際にフォローアップを行っています。このように、一人ひとりの受益者の顔が思い浮かぶほど現場に近い支援ができるのは、NGOならではの強みだと思いました。これは、家庭医として訪問診療を行ってきた自分の経験に通じる部分があり、非常に親しみを感じました。
現場への近さを考える
半年間のプレアビヒアでの生活はとても充実していましたが、温水シャワーもなく、唯一の娯楽が1ドルのネイルサロンという環境に何年も住むのは、自分には厳しいと感じました。一方で、受益者に最も近い場所で働く魅力も感じています。今後は、現場にどの程度近い場所で働くのが自分にとってベストなのか、生活環境や自分のキャリアビジョンと照らし合わせながら考えていきたいと思います。
これらの経験を通じて、自分がどのように国際協力や公衆衛生の分野で貢献できるかをさらに深く考えるきっかけを得ました。今後も、自分のスキルや知識を活かしながら、現場に寄り添い続けるキャリアを模索していきたいと思います。