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【連載】僕の親友は不法滞在5

5 彼の旅立つ日

  11月下旬肌寒い朝、彼を見送りに彼と東京駅に向かって地下鉄に乗った。彼と過ごした1年を振り返り彼と懐かしい話をしながら東京駅に向かった。

  新幹線のぞみで名古屋までまず彼は行く。着いたら知り合いが迎えに来てることになっていた。

  新幹線が発車する直前まで僕は車両にいた。彼はベトナム人特有の背が低く小さい体で、似合わない革ジャンを着ている。そして上目遣いに僕に、「今までありがとう」と言った。そしてそのあとベトナム語で「カムオン」(ありがとう)と言って、何かをつぶやいた。ベトナム語はほとんどできない僕にはあの時彼がどんなことを言ったのかいまだに分からない。

発車のベルが鳴り、車両から降りた。

新幹線が動き出したとき、今まで我慢していた涙がどっと溢れて来た。

新幹線が見えなくなるまでホームに立ち尽くしていた。

何がありがとうだ。僕は彼に何もしてやれなかった。僕が貧乏でなければ彼を不法滞在にさせずに済ませることだってできたはずだ。いろんな日本を見せることすら、できなかった。

僕こそありがとう。そして、ごめんな。

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