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【連載】僕の親友は不法滞在4

4 親友Hの場合

 親友Hは中野区にある自動車系専門学校のオープンキャンパスに日本語学校の先生と行った。彼の実家は建築資材の工場で、車に興味がある彼はベトナムに帰ったら実家の横に自動車修理の工場を作りたいとも言っていた。ベトナムでは物価は日本の何分の1なのに車はほぼ同じ価格設定だ。だから庶民はなかなか手に入れられない。日本人より憧れの存在。そして世界的に有名な自動車企業がたくさんある日本なのだから、日本の技術を学ぶため車の専門学校とはいい考えだ。彼は説明を受け、パンフレットをもらい、校舎を見て回り、学校の雰囲気などもいろいろ感じて、僕にいろいろ話してくれた。

 しかし2年間で学費が240万円。どう働いても出せない金額だった。

 彼は母親に電話を掛けた。すると母親は「ベトナムに帰ったあと240万円稼ぐのに一体何年かかると思うの?」と聞いてきたそうだ。

 ベトナムの物価は特に田舎は当時日本の10分の1だった。単純計算して2年間の学費だけで2400万円相当。お母さんも目ん玉飛び出たことだろう。

 結局、彼は不法滞在を選ばざるを得なかった。僕には何も言わずすべて手筈を整えたあと、僕に不法滞在になることを告げた。愛知県の知り合いの所に身を寄せると。

 とても急で、もう日本語学校には行かず、数日後新幹線で旅立った。



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