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【連載】僕の親友は不法滞在15
15 宴もたけなわ
大晦日の宴が始まった。総勢40人が横一列になって食べるのは圧巻だ。本当にこれが日本とは。愛知県周辺のベトナム人が全部集まってるんじゃないかと当時思ったもんだ。
日本と同じくガスコンロの上に温かい鍋、それと肉料理、野菜料理など皿がずらっと並んでいる。
僕の前にはなぜか刺身が置かれている。Gが少し前に来て刺身を僕にくれたのだ。1000円もする刺身をくれるなんてなんとありがたいことか。今ならみんなにおごってやりたい。でもあの時ぼくは本当に貧乏だった。
Gというのは親友Hと同い年でとなりの省出身で、彼女Jと一緒に日本に来ていた。Hと同じ日本語学校でHとは親しかった。面白いことに、彼がアルバイトをしているところを知らない。逆に彼の彼女はまじめでしっかり者だった。この二人は極めてまれだが、僕が知っている日本でお金を貯められたベトナム人だ。帰国してハノイ郊外に家を買い、さらに高速バスを経営し始めた。そして今バスをもう1台とか2台とか買っていっているそうだ。
小さくて腹は出てだるまのような彼を僕はひそかに山賊の頭(かしら)と呼んでいた。その風貌とずっと座っていつも酒飲んでなぜかお金を持っていたから自然とひそかに言い始めた。
前置きが長かったがそのGと彼女Jが実はHが住んでいる隣の市に来ていたのだ。宴会が始まる少し前にやってきて、僕を驚かせた。
彼らが東京の学校時代、みんなで飲んだくれてた。そんな彼らとまたこうして飲むとはね。
刺身を買ってきてくれたのは8割僕へのプレゼント。そしてたぶんだけど、2割は生魚をむしゃむしゃ食べる人間をみんなに見せて楽しむ山賊の頭的な一面もあるんじゃないかなとも思った。生を食べるのは多くの国では気味悪いですからね。
テレビは格闘技が流れていた。誰も見てはいなかったが。
僕はみんなの言葉が分からないから、時々僕に片言で話しかけるベトナム人と話す以外は、乾杯するか、一気コールで一気するかだった。あとはずっと大晦日恒例になった格闘技番組を見ながら刺身とビールでいい気分になっていった。
今言ったが、ベトナムではことあるごとに乾杯をする。日本では1、2回だがベトナム人は相当する。そして乾杯は一気飲みが一般的だ。一気に全部飲むことを100%という。漢字を見ても、乾杯あるいは干盃。中国でも乾杯といえば飲み干すことをいう。さらに宴もたけなわになると一気コールが出始める。1..2..3..ゾー!(南部ではヨー!)といって、みんなで一気飲み。
なんだか訳がわからないが陽気になっていった。