つれづれ、クリスマスソングの思い出
毎年この時期になると、頭の中をぐるぐると同じ歌の同じフレーズが駆け巡る。
「ジングル・ベール、ジングル・ベール、金持ーってこい♪」
父親によるひどすぎる替え歌が我が家の定番ソングだった。
金、と鐘をかけているのだが、正しくは鈴である。
このフレーズを思い出すたび、サンタが熨斗つきの分厚い封筒を差し出してくる場面が頭を横切る。一体何の弱味を握られたのだ。
ついつい息子の前で口ずさんでは、違う違う、こんな曲覚えてくれるなよと訂正作業を行う毎日である。
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毎年12月に入ると、母はよく、子ども向けのクリスマスソングがたくさん入ったカセット(時代を感じる)をかけながら家事をしていた。
台所からクリスマスソングが流れてくると、「ああ、もうすぐいつものごちそうと、プレゼントがもらえる日がやってくるんだな」とわくわくした気持ちになったものだ。
このわくわくした気持ちを息子にも味わってほしいなと思って、本屋でボタンを押すとクリスマスソングが流れる音絵本を購入した。聞き齧ったことのある歌が、声入りで10曲も入っている。
これなら赤ちゃんでも楽しめるであろう。
早速渡してみると、彼は即座に本の角をお口に突っ込み、品定めを始めた。
ちがう、そうじゃない……。
耳馴染みになる前に破壊されそうな気配がひしひしとただよっていたが、本はなんとか、クリスマスイブ当日である今日現在まで生き延びている。この調子で対象年齢ギリギリの3歳までもってくれるといいのだけれど。
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そういえば、母のカセットに入っている曲に『ママがサンタにキスをした』というタイトルの歌があった。
えっ……。
不倫じゃん……。
当時小学生だった私は、曲から漂う大人びたムード(洋楽だったのである)に不穏な空気しか感じとれず、母がこの曲を聞いているのを目にするたび(メドレーの頭から終わりまで聞いていただけで、ピンポイントにこの曲を聞いていたわけではない)に、サンタが母を連れ去っていってしまうところを想像しては不安な気持ちになっていた。
いったいどんなサンタだよ。
大人になったある日、ふと気になって、この曲の日本語訳を調べてみた。
すると、そこにはこうあったのである。
ママはよりそいながらキッスして
とてもうれしそうに
お話ししてる
でもそのサンタは パパ
パパだった!!
サンタ、パパだった!!
意訳であるらしいが、つまるところ本来の曲も種明かしするとそういうことらしい。
心の底から安堵し、不貞を働くのではないかと疑っていたサンタと母に内心で謝ったのであった。
メリークリスマス。