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ダーク大和さんのこと
ダーク大和(やまと)さん、という方がいた。昭和の手品師で、筆者は小学校に上がりたての頃に一度お会いしている。そしてつい一月ほど前まで、著名な方だったと存じ上げなかった。謹んでご冥福をお祈りします。
筆者は昔から手品やトリックが好きで、小学生のころのいちばんの愛読書は学研の『忍術・手品のひみつ』であった。大和さんと出会ったのは旅行好きの両親に(無理やり)連れて行かれた、どこか遠くの旅館でだ。大和さんはそこの屋内(地下だったか)にある土産物屋のそばで、手品の営業をされていた。壇上というわけでもないフロアの上で演技をされていた、と記憶している。
観客はそのとき、他にいなかったと思う。熱心に手品を観ていた私は、大和さんとひとことふたこと交わしていたかもしれない。ふと、湯上がりのサラリーマンが二人、そばを通ってこんなことを言った。
「なんだ、手品師かよ!」「ハハハ」
大和さんは気にされていなかったと思う。こういう差別は、茶飯事であったろうから。しかし気の毒に思った筆者は大和さんが販売する手品グッズを(数が増えるように見える、赤いスポンジボールだ)購入し、サインまで求めた。それでお名前が分かったのだ。いま考えると同情したようで、かえって失礼だったかもしれないが……。
スポンジボールも、スポンジボールの箱にしてもらったサインも、何年もの間たいせつに持っていた。だがボールは汚れてしまい、サインも箱が薄い紙製だったために傷んで手放してしまった。それから十数年経つだろうか。筆者は出雲に関心を持ち、「火男(ひょっとこ)」の民俗を調べるなかで大和さんの Wikipedia 記事があるのを見つけたのだ。大和さんは出雲の出身で、安来節を芸にテレビでも活躍していらしたとのこと。全然、知らなかった!! それに安来節は舞台で観たこともある(もしかすると大和さんがいらした旅館で、大和さんの芸を観ていたのかもしれない……!)。YouTubeにもいくつか芸がアップされているので視聴してみると、そうそう、このアフロのかた!
筆者がいま暮らしている街の神社は、アウトサイダーの神(と勝手に解釈している)を祀っている。筆者自身もアウトサイダー寄りの人間であることは間違いない。そして、ダーク大和さんも……。出雲出身で、広島に行けば原爆に遭い、生涯では三度結婚され、ガンで亡くなられた大和さん。素敵な芸と生き様と、サインを本当にありがとうございました。重ねてご冥福をお祈りします。
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