Hospital
「彼はね、すっごく雑なんですよ、アシスタントを何だと思っているんでしょう。人間じゃなくて、アシスタントって生き物と思ってるんですかね、すっごくすっごく失礼ですよね。」
脳みそに感情と文字があふれ出て、とまらないため、わたしが数か月前から通い始めたクリニックの先生はカニだった。
彼女はその綺麗な脚とハサミでカルテを眺めながらわたしの話を聞いてくれる。
「そうよねえ、そんなの腹が立つわよねえ」なんてあいづちを打ちながら。
「先生はそうやっていつものんびり聞いてくれてますけど、仕事をしてて腹が立つことってあるんですか」
と、気になってある日聞いてみたら彼女ははっとして大きな二つの黒い黒い目と、爪以外の足を震わせてわたしのほうをみた。
「まぬるさん、よく聞いてくれたわね!それがたくさんあるのよ、すっごくすっごくたくさん。まずはね医院長、彼はねほんとーーーになんにもしてくれないの。とりあえず、うん、いいんじゃないとかいって。それはね専務が奥さんじゃない?だからなんっかいろいろあるんでしょうね、板挟みっていうの?それでね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
先生は、わたしが引くほど、医院長の悪口を言い続けた。大きな爪をくわっと開いて、カニ味噌が飛び出そうな勢いだった。わたしは途中で相槌を打つ間も、止める間もなく、ただ聞くしかできなかったのだった。
あまりにもすごい勢いで、途中、全然別のことを考える暇もあったくらいだった。(最近のカルディのエコバッグの色について考えていた)
もうそろそろ止めた方がいいかなと思った時だった。
「カニ美さん~そういえばあの薬って~」とか言いながら件の医院長がわたしたちの診察室を覗いてきて、やっと我に返った先生だった。
「あ、医院長、あれはもう頼んでおきましたよ~」
なんて先生がにこやかに答える顔をみて、わたしはすぐにこいつら寝てるんだな。なんて勘付いたのだった。
「ところで先生、わたしはそろそろここに通わなくてもだいじょうぶですか?もう10円ハゲもなくなりましたし、新しい仕事もみつけましたし・・・」
カニ美先生が医院長との情事を忘れて我にかえったようなので聞いてみた。
「まぬるさん、あなたの症状は改善しつありますが、そうですねえ・・・もう1か月は様子をみるために通ってください。」
そう言われたのだった。
そのときブブブブブ・・・と、医院長に仕込まれた遠隔バイブのスイッチが強くONになったのだった。
わたしは「はい」というほかなかった。
おかしいのは、どっちなのか、もうわからなかったから。
end
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