-看護実習のすべてがわかる!-なんでなんだの看護過程ガイドブック② 第1章
2024.10.29更新
※本書はメンバーシップ追加のため有料設定となっていますが、-看護実習のすべてがわかる!-なんでなんだの看護過程ガイドブック① 序章 ~ ② 第1章ついては全文無料でお読み頂けます。
「なんでなんだの看護過程ガイドブック」の続きです。
なんでなんだの看護過程ガイドブック① 序章
第1章 情報収集
なんのために情報収集をするのか?
情報収集を行う目的を一言で言うと「患者の健康状態をアセスメント(評価)するための材料さがし」です。この目的が分かっていないと、どこからどの様な情報を収集すれば良いか分からずにただ時間だけが過ぎていく、闇雲に受け持ち患者の情報を収集したものの後になって肝心な情報が抜けていた事に気付くなどの不都合が起こります。
この目的を達成するためには「情報収集を行った後にどの様にアセスメント(評価)をするか」ではなく、「どの様にアセスメント(評価)できるかを踏まえて情報収集を行う」という考え方が大切になります。ちょっと分かりにくいと思った方は次の問いを考えてみてください。
Q.はじめて1人で買い物から料理までをする子どもがいます。A、Bどちらの方法で行うと効率が良いですか?
A.材料を買ってきてから、なんの料理を作るか決めて作る。
B.なんの料理を作るか決めて、材料を買ってきて作る。
Bの方が効率良く作れますよね!
これを情報収集に当てはめると次の様になります。
A.漠然と情報収集してから、どうやってアセスメント(評価)しようかと考えてアセスメント(評価)を始める
B.どうやってアセスメント(評価)できるかなと考えてから、必要な情報を収集する
ここで大切なのが、評価をするためになんの情報が必要なのかを知っておく事です。それを知るためには序章の実習は事前学習からはじまっている!で述べた通り事前学習が役立つのです!
■ちょっとお知らせ
なんでなんだナーシングの中にある「疾患別看護計画(サクッとまるわかり!〇〇の看護診断)」のより良い使い方をお知らせします。
先ほど、情報収集の考え方として「どの様にアセスメント(評価)できるかを踏まえて情報収集を行う」とありました。この「どの様にアセスメント(評価)できるかを踏まえる」には「〇〇の疾患にはどんな看護問題があるかを知る事」が近道となります。
「疾患別看護計画(サクッとまるわかり!〇〇の看護診断)」では、それぞれの疾患に起こり得る看護問題を一覧にしています。つまり、疾患別看護計画を見れば実習で受け持った患者にどんな問題が起きているか(または起こる可能性があるか)が分かります。
ほとんどの場合、実習がはじまる前に実習で受け持つ患者の年齢、性別、疾患を知らされます。このタイミングで事前学習の抑えておくべき8項目に加えて、疾患別看護計画(サクッとまるわかり!〇〇の看護診断)を確認しておけば、実習をより良く進める事ができます。
疾患別看護計画にさらに詳しく知りたい方は、以下を参考にしてください。
▶なんでなんだナーシング2.0 疾患別看護計画(サクッとまるわかり!〇〇の看護診断)
情報収集の枠組み ゴードンとヘンダーソンは全くの別物!?
実習で使用する看護理論は看護学校によって異なりますが、主に使用されるのはゴードンとヘンダーソンです。この2つの中身は全くの別物なので、それぞれの特徴を知らないと求められる事に対して適切な回答ができません。それぞれの特徴を見ていきましょう。
■ゴードンの機能的健康パターン
ゴードンの機能的健康パターンは患者の全体像をアセスメント(評価)するための書式です。ゴードンは健康機能を11のパターンに分類し、それぞれのパターンでどんな内容を情報収集しアセメントすればいいのかを誰でも分かる様に枠組み化しました。
ゴードンと同じ様な患者の全体像をアセスメント(評価)するための書式にはNANDA-I(北米看護診断協会)があります。こちらは健康機能を13の領域に分類し、それぞれのパターンでどんな内容を情報収集すればいいのかを誰でも分かる様に枠組み化しています。これらは病院によっては、良いとこ取りでミックスされている事もあります。
ゴードンの健康機能パターンでは、その患者がどんな状態であるか全体像を適切に把握するためのアセスメント(評価)に関する情報が求められます。
それぞれのパータンにどんな項目を情報収集すれば良いのかをさらに詳しく知りたい方は、以下を参考にしてください。
▶【完全公開はnoteだけ!!】しっかり整理整頓!情報収集の素:ゴードンの機能的健康パターン
■ヘンダーソンの看護の基本となるもの
ヘンダーソンの看護の基本となるものはヘンダーソンがまとめた看護理論です。すごく簡単に説明すると次の様になります。
ヘンダーソンの理論
人間には14の基本的欲求があります。この14の基本的欲求のすべてが充足され、自身の体力・意志力・知識により自立して生活していれば健康と言えます。しかし、常在条件(年齢、気分、社会的状況や身体・知的能力など)や病理的状態(病気や手術など)の影響によって、基本的欲求が未充足になり、自身の体力・意志力・知識が不足し自立した生活ができなくなる事があります。この状態が病人です。
看護師は14の基本的欲求を満たせる様に健康あるいは健康の回復の一助となれる様に援助する役割があります。基本的欲求が未充足になり、自身の体力・意志力・知識が不足し自立した生活できていない人ができるだけ早く自立できる様に手助けしましょう。
ヘンダーソンの看護の基本となるものでは、14の基本的欲求が充足しているか未充足であるかをアセスメント(評価)するための情報が求められます。
それぞれの基本的欲求にどんな項目を情報収集すれば良いのかをさらに詳しく知りたい方は、以下を参考にしてください。
▶【完全公開はnoteだけ!!】しっかり整理整頓!情報収集の素:ヘンダーソンの看護の基本となるもの
いかがでしたか?
ゴードンとヘンダーソンではアセスメント(評価)する内容が異なるため、情報収集の項目や内容が異なります。ただし、最終的な目的は看護過程に沿って受け持った患者がどんな状態で、どんな看護問題があるか、どんな看護ケアを行えば良いか評価し判断する事です。そのため患者を見る角度は異なるものの目指すゴールは同じです。これは私的な考え方ですが、例えるならば、山登りで山頂を目指すのにルートAを使うかルートBを使うかの違いくらいに思っています。
注意:ただし「書式と理論はぜんぜん違うものです!」と断言する先生はいます。この内容をそのまま大っぴらに言うとそういった先生にめちゃくちゃ反論される可能性があるので、この内容をこのまま誰かに伝える時は相手を見てよく考えてからにしてください!
情報収集の種類
情報収集にはいわゆる「S情報(主観的情報)」と「O情報(客観的情報)」の2種類あります。それぞれの内容を見ていきましょう。
■Subjective(主観的情報)
患者の反応の事です。話し、問いかけに対する反応、自覚症状(痛みやかゆみなど)がS情報(主観的情報)に当たり、問診や患者・家族との話しの中で得られます。
実習場面では患者・家族と直接話した時の話の内容、その時の表情やしぐさから情報を得る事ができます。
S情報(主観的情報)を得るためにはコミュニケーション能力が重要となります。世間話をしつつ情報収集したい内容をしっかりと抑えなければならないため、ただ話ができれば良いわけではありません。これはコミュニケーションが苦手な人にとっては大変難しい技術になります。しかし、あくまでもコミュニケーション技術なので、練習すれば習得できます。
※コミュニケーション技術については後にお役立ちツールとして記事にする予定です。今しばらくお待ちください。
■Objective(客観的情報)
医療者が見た情報の事です。フィジカルアセスメント、バイタルサイン、行動、検査値などがO情報(客観的情報)に当たり、(電子)カルテやカーデックスから得られます。
実習場面では(電子)カルテやカーデックスから情報を得る事ができます。種類がいくつかあるので、代表的なものをいくつか紹介します。
1.患者の基本情報(データベース):患者の個別的な情報。氏名、年齢、既往歴、アレルギー、感染症、入院までの経過、ADL、家族環境、自宅環境など患者の全般的な情報が記載されている。
(患者がどんな人なのかを知るのに役立つ)
2.看護問題リスト:看護問題が載っている一覧表。
(患者にどんな健康上の問題があるのかを知るのに役立つ)
3.看護計画:看護問題を解決するための目標と看護ケアの内容が記載されている。
(患者がどこを目指すのか、患者に行われているケアや注意点を知るのに役立つ)
4.看護記録(経過記録):患者の経過、治療や処置、看護ケアの実施、急変、インシデントが起こった時の状況などが記載されている。
(患者の入院生活の経過、状態の変化、治療内容、処置内容、ケアに対する反応や効果を知るのに役立つ)
5.検温板:患者のバイタルサインや観察項目が記載されている。
(患者の状態の変化や必要な観察項目を知るのに役立つ)
6.検査データ:血液検査、心電図検査や画像検査(レントゲンやCTなど)などの結果が記載されている。
(患者の状態がどうなのかを知るのに役立つ、先々に行う検査や治療を予測するのに使える)
7.看護サマリー:患者の経過、ADL、実施されたケアや残された問題をまとめた内容が記載されている。
(前の病院のものであれば患者の経過を知るのに役立つ、現在入院している病院のものであれば入院から記載された日付までの経過やADLを要約したものを見る事ができる)
※それぞれの名称、様式、使い方は病院によって異なります。
上記の1~7に記載されている内容と使い方が分かれば、知りたい情報をどこから得られるのか容易に判断する事ができるため時間短縮につながります。看護学校独自の情報収集用紙がある場合は、実習がはじまる前になんの情報をどこから得られるのか事前にシュミレーションすれば、実習をより良く進める事ができます。
■情報収集あるある
患者とのコミュニケーションが苦手な場合、O情報(客観的情報)の収集にたくさんの時間をかけてしまい、患者の側に行く時間が少なくなる事があります。
看護記録は患者の言葉をそのまま一言一句書く必要はありません。そのため看護記録だけでは患者のS情報(主観的情報)は十分に収集できません。また、中には担当の看護師が毎日変わるため患者が自分の思いを看護師に十分に伝えられていないなんて事があります。これらの理由からコミュニケーションが苦手でも、できるだけ患者のところに行くのがベターです。
必要な情報を必要なタイミングだけで取れば良いという考えもありますが、意外と実習指導者や現場のスタッフは「実習生の〇〇さんは患者のところに行くのが少ない。」などという話を休憩室でする事もあります。色々な考え方の人がいますが、ネガティブな意見は広がりやすいので注意を払うに越した事はありません!
…とは言え強要はできませんし、無理に患者の所に行って実習が辛くなり休んでしまう様なら行かない方がいいです。できる範囲で良いので頑張ってください!
情報収集を行う際の注意点
この項目では情報収集における注意すべきポイントをお伝えします。
情報収集を行う上で大きな落とし穴となるのはあなた自身の思い込みや決めつけです。
なんのために情報収集をするのか?の項目で「どの様にアセスメント(評価)できるかを踏まえて情報収集を行う」と述べましたが、あなた自身の強い思い込みや決めつけが入ってしまうと「この様にアセスメント(評価)できるからここだけ情報収集すればそれ以外は必要ない」の様な都合の良い内容に変換されてしまいます。その結果、自分の都合の良い情報しか収集しない、情報を歪曲化してしまう、こじつけて解釈するなどといった事をしてしまいます。実習前に事前学習で調べた疾患の経過はあくまでも一般的なものであり、同じ疾患名でもしっかりと細かく見れば原因、障害されている部位や程度が違います。それに伴い状態や症状も患者ごとに異なります。つまり実際の場面では一般的な疾患の知識+患者の個別性が反映されるので、一般的な疾患の知識だけで思い込みや決めつけをすると本当に重要な情報を見落としてしまいます。
具体的には次の思い込みや決めつけをした実習生Aさんと慎重に考えた実習生Bさんの例を見てください。
患者の情報:85歳男性、大腿骨頚部骨折の患者
この患者は保存的治療のため長期間ベッド上安静で過ごしています。
実習3日目に38.5℃まで発熱しました。
ここまでの情報で、思い込みや決めつけをした実習生Aさんは瞬時に次の様に考えました。
「85歳」+「長期ベッド上安静」+「発熱」=誤嚥性肺炎
そのためAさんは呼吸状態と食事摂取状況しか情報収集しませんでした。
一方で慎重に考えた実習生Bさんは大腿骨頚部骨折の保存的治療の際に起こり得る発熱する原因を調べると、誤嚥性肺炎のほかに尿路感染や褥瘡形成の可能性がある事が分かりました。そこで呼吸状態や食事摂取状況以外にも検査データ、全身の皮膚の状態や尿の性状などを情報収集しました。
結果:今回の発熱の原因は尿路感染だったので、思い込みや決めつけをした実習生Aさんは情報収集のやり直しとなり、慎重に考えた実習生Bさんはすぐに適切なアセスメント(評価)に繋げる事ができスムーズに実習を進める事ができました。
思い込みや決めつけをした実習生Aさんの様に思い込みや決めつけの情報収集をしてしまうと、先生や実習指導者から何度もやり直しをくらう、アセスメント(評価)の方向性がどんどんズレていくなどその後の実習に多大な影響を及ぼす事となるので気を付けてください!
あくまでも情報収集は「どの様にアセスメント(評価)できるかを踏まえて情報収集を行う」です。「この様にアセスメント(評価)できるからここだけ情報収集すればそれ以外は必要ない」に変換しない様に気を付けましょう。
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