結局今年のシンシナティ・レッズは強かったの?

1,答え:強くなかった

強くなかったのです。どうしても。
今年のシンシナティ・レッズは。
強いか弱いかで言えば断然弱いほうに入ってしまうのが今年のレッズのように思います。

2022年は確かに強かったのです。
持続力はなかったものの若い戦力が連打を重ねて点を運んでくる、というスタンスのチームでした。
確かに今どきのホームランで点を稼ぐような野球とは遠い存在なのですが、多くの指標に縛られず、一念岩をも通す、というチームカラーが今どきの野球と逆行しながらも戦えることを証明しているようで好きでした。
確かに地味なチームではありました。だが、地味でも強い、そんな2022年のシンシナティ・レッズは魅力があったのです。

そこに彗星がごとく現れたエリー・デラクルーズの存在が更にチームを華やかにさせた印象を受けました。今年はもしかしたらWSまではいけなくともディヴィジョンシリーズで一勝くらいはできるのでは?
そんなチームだったのです。

そう、そんなチームだったのです。

2,どう扱えばいいのか分からないエリー・デラクルーズ

そんなレッズが崩壊した原因をたどれば去年活躍の気配を見せたマット・マクレインの怪我などもあったのですが、それ以上にエリー・デラクルーズを中心に添えたいチーム事情と役割と全く合っていない現状がまさに今年のレッズを象徴していたかに思います。

当初デラクルーズは五番を任されていました。
前年も正直に言えば鮮烈なデビューを果たしたはいいものの、確実性は低く、全体的に粗い印象の選手でした。
確かに力はあるんだけど、派手に活躍する日と全く活躍しない日の両極端になりがち。そんな選手でした。

その選手を何故か2番で起用し始めたのです。
確かに今の時代一番いい選手を2番に置くことがトレンドとなっています。しかしそれはポイントゲッターを四番より三番、二番と押し上げていこうという話でポイントゲッターとしての打力だけでなくチャンスの場面では高い確率で返せる力が必要となります。
シーズン初め大谷翔平が二番を任されていたのにはそういう背景もあります。高い確率で長打を残せる打者。これが非常に意味を持ちます。

確かにデラクルーズは高い確率で長打を残せる男でした。
一試合だけは。

多くの野球ファンにはエリー・デラクルーズの活躍を日本ですら見ているでしょう。シンシナティにもアクーニャJrのような怪物がいると。
ただそれはシンシナティ・レッズというチームを知らない人々の目線であったりします。
シンシナティファンからするとその動画は「その一試合だけで残りの二試合はほとんどが三振と凡打やで」とみてしまうのです。

本当に確実性がないのです。
一試合目やヤンキースやドジャースなどの観客が多く駆け付ける試合ではやたらぶん回して活躍するのですが、その一試合でエンストしてしまい、翌日は4打数無安打は基本。うちほとんどが三振なのも珍しくありません。
その結果が200を超える三振数であったりします。

その彼が二番に立つと正直に言って全く機能していない状態が続くのです。
一番として復帰を果たした2021年の新人王ジョナサン・インディアが4打数1安打という結果の中、デラクルーズは気持ちよく4打数0安打2三振、なんて試合はシンシナティを見ている人には見慣れた光景でしょう。
一、二番が機能不全である試合が多いので結局三番以降の打線が活躍した試合だけ勝つような状態が続きます。
ここが打線の割に勝てなかった原因の一つでもあったりします。

勿論エリー・デラクルーズが悪いというわけではありません。
あの派手好きはここぞという場面で打つ工夫が出来ないというだけでフリースインガーとしては一級品ですし、そもそも走守に関してはもうなくてはならない存在です。
ですがポイントゲッターとしての才能は正直ないのです。時に巧打が求められるポイントゲッターをフルスイングでしか対処できない不器用さが表れてしまうのです。
個人的には当初のように五番辺りで二、三、四の打者が取りこぼしたランナーをフリースイングで返すような打線のほうがよかったりするのですが、なぜかそれでもデラクルーズを二番にすることにこだわりました。
その結果上位打線が全く機能しないという結末に陥りました。

3,度重なる怪我と迷う起用

デラクルーズに限らず起用に迷う場面は非常に多くありました。
チームの柱となるT.J.フリードルが怪我と同時に勢いを増してきたスチュアート・フェアチャイルド。走守には絶対の力があるフェアチャイルドと彼よりは劣るけれどホームランを打つ大胆さとバントをこなせる器用さを持つフリードル、彼らをどう使うかで迷った時期でもありました。
フリードルが怪我をしている時にフェアチャイルドを使った時はハマりもよかったのですが問題はフリードルが帰ってきて打撃が調子を取り戻せなかった時期。どちらを使えばいいか試行錯誤を繰り返していたのです。

そうでなくてもレッズは外野がそこそこ強力です。
今年は主砲を担ったスペンサー・ステアー、確実性には欠けるものの血かr強い打撃が魅力なウィル・ベンソン、ここぞで頼りになるチーム一の巧打者ジェイク・フレイリー。タイトル争いにはなかなか絡めずともチームの得点頭になるような選手がやはり多いです。
そこに外野守備の要たるセンターに誰を置くのか、これに迷いに迷ったのです。
ある時はフリードルを、ある時はフェアチャイルドを。挙句の果てにはセンターフリードルにライトフェアチャイルドという打撃をかなぐり捨てた陣形もありました。

結局フェアチャイルドの打撃不調と怪我でフリードルがセンターを守る事になるのですが、とにかく起用が固まらない。
しかもデラクルーズに触発されたのかみんな本塁打を狙い始めてチームの打撃がかなり荒いことになってしまい、地味ながらコツコツ打てるチームから劣化ドジャースのような何とも言えない弱い打線が生まれてしまいました。

4,シーズン通して崩壊した投手陣

去年の勝ち頭であったブルペンのイアン・ギバウトやアレックス・ヤングが怪我をして崩壊してしまったブルペン陣。ブレント・スーターという明るい話題もあったもののやはり安定感のなくなったブルペンはレッズの投手事情をかなり厳しいものにしました。

そして多くのファンが散々補強しろと言っていた先発をほとんど補強せずに開始。アスレチックスからフランキー・モンタスを加入させたところでスタートしました。

しかしこのフランキー・モンタスがかなり不安定。
勝つ時は圧巻のピッチングをする一方で「今日は負ける」と思った試合はもうてんでひどい。フォアボールが増えていき、焦ってストライクゾーンに入れた甘い球を痛打されて敗戦、という姿は何度も観たものです。

相変わらず不安定のハンター・グリーン。去年の勢いはどこかへ消えたグレアム・アシュクラフト。
唯一の希望は去年から活躍するアンドリュー・アボットのみという状況に。

ところが怪我からニック・ロドロが帰ってくると先発陣はかなり安定感を増していく。あれほどいい時と悪い時の差がはっきりと出たハンター・グリーンが一気に安定感を増し、一時はサイ・ヤング賞候補に挙げてもいいのではないか、と言われるほどに。
ニック・マルティネス、カーソン・スピアーズといった新しい先発の出来そうな選手も増え、一気に先発大国に。

一方でフランキー・モンタスが非常に不安定なままシーズン後半を迎えてしまったためチームに不必要な存在になりつつあったのもあり、ミルウォーキーにトレードに出されてしまった。

そこからというかなんというか。
グレアム・アシュクラフトが怪我をすると一気にハンター・グリーン、アンドリュー・アボット、ニック・ロドロが怪我をしてILリスト入り。急に先発が誰もいなくなる異常事態に。私たちは思い出すべきだったのだ。高出力な若い投手は怪我も速いと。

おかげで先発が誰もいなくなり、ニック・マルティネスやカーソン・スピアーズ、若きジュリアン・アギアルやレット・ラウダーといった若い選手がかつかつになりながら回しているはめに。

そこには完全に投壊してしまったレッズの姿があったのです。

5,来シーズンどうすんの?

元々シンシナティ・レッズは打のチームで強い投手がバリバリ出てくるようなチームではありません。
過去ビッグ・レッド・マシーンの名前で思い出されるように打ちまくって投手を支えるチームです。1886年からあるチームであるのにも関わらず200勝投手がいません。1950年以降の投手で150勝をした投手すらいません。
戦前の投手でメジャー登板最年少記録のあるジョー・ナックスホールが勝利数十傑に入ってくる(9位、130勝)ほど投手に恵まれないチームです。

だからこそ打撃で解決するチームでした。
レッズを象徴する投手、と言われて出てくる投手はほとんどいない一方で打者と言われれば多くの選手が出てくるでしょう。古くはヴァダ・ピンソンからフランク・ロビンソン、ピート・ローズ、ジョニー・ベンチ、トニー・ぺレズ、ジョージ・フォスター、ケン・グリフィー親子、エリック・デービス、バリー・ラーキン、ジェイ・ブルース、アダム・ダン、ジョーイ・ボットに至るまで多くの打者の名前が出てくるチームです。

だからこそ打線に賭けなければならない風土がシンシナティにあります。
言ってしまえば「どういう打線を組むのか」がかなり重要になってきます。

例えばビッグ・レッド・マシーン時代一番打者に置かれたのはピート・ローズでした。彼の通算盗塁数は198。少ないとは言いませんが一番打者として決して多い数字ではありませんでした。
ローズに求められたのはその卓越した打力と勇猛果敢に次の塁を狙うパワフルな走塁でした。だからこそ毎年30近い二塁打を決め、その走塁からチャーリー・ハッスルの名を得ました。
それは一番打者は足が速い、という概念を破壊しています。盗塁で二塁を狙うくらいなら最初の一打で二塁を狙えばいい、そしてケン・グリフィーやジョー・モーガンが打ち、モーガンやジョージ・フォスターがポイントゲッターとなって点を取っていく。これが1950年以降、ファミリー時代のPITと並んで最強打線の一つに数えられるビッグ・レッド・マシーンの戦法でした。

その中で存在感があったのがケン・グリフィーの存在でした。高い打率と出塁率を誇る彼を二番に置くことでジョー・モーガン、ジョージ・フォスターが返す構図を作り点を取っていきました。彼らやジョニー・ベンチほど目立ちはしませんでしたが強打の二番である彼の存在はビッグ・レッド・マシーンには欠かせませんでした。

まさしくシンシナティの強さの血流はここにあるのです。

だとするのならばまず二番エリー・デラクルーズをやめるところから始めましょう。彼の確実性では上位打線からせき止められてしまうのです。彼にはもっと似合う打順があるはずです。
同じくらいに大切なのは打撃の器用なT.J.フリードルや打撃巧者のジェイク・フレイリーをどこに置くか。スチュアート・フェアチャイルドをどうするか。今のチームカラー的にはフリードルやフレイリーが一番二番に似合うと思います。フリードルを置いてオールドスクールを目指してもいいしフレイリーを置いて第二のグリフィーシニアを目指してもいいと思うのです。

もう統計学的に最強打者を二番に置く、って考え方やめませんか。
それは金があってぜいたく税問題なしの金持ち球団ならではです。それはうちみたいな選手一人取るのに頭を抱えるような貧乏球団の戦い方ではありません。
弱者は過去あった古の戦法を扱うべきなのです。それは古きボルティモアチョップと守備のスモールボールでもいいのです。少なくとも二番打者に最強打者を置いて何とかなるチームではありません。
窮鼠猫を噛むような戦法が求められているのです。

それが出来ていたのが2022年だと思います。
誰もがスタメンを競いあい、とにかく打とうとした、あの2022年です。ホームランは少ないものの誰もが打点を追いかけたあの2022年に鍵があります。

どうか、どうかそろそろ脱統計学を。
そんな駒をたくさん集められるチームではないのです。歩を成金にして勝っていくチームなのです。飛車角落ちのチームだからこそ成金をたくさん作って勝つのです。

そんな来年を期待しています。

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