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たまに記録を見ながら生き方を考える

1,ジョーイ・ボット安打数チーム歴代5位に

6月3日、シンシナティ・レッズ。
本拠地グレートアメリカン・ボールパークで迎えたワシントン・ナショナルズとの一戦目。それはブランドン・ドゥルーリーの三塁打とトミー・ファムの四球によって迎えたジョーイ・ボットの第一打席。
先発ホアン・アドンの第五球、155km/hの高めに浮いたストレートを打ち、ライトへスリーランホームラン。
この時、遂にジョニー・ベンチの持つ2048安打を超え、2049安打とチーム歴代5位の成績に着くことになった。
ホームラン数はすでにベンチと肉薄しているので遂にシンシナティ・レッズというチームにおける打撃王はジョーイ・ボットであると言ってもよさそうだ。

カナダが生んだ打者としてはラリー・ウォーカーに続き二位。
流石に打撃走塁ともどもラリーには一歩及ばずというところだが、それでも彼にはフランチャイズプレイヤーという称号がある事は誇ってもいいだろう。シンシナティ・レッズの酸いも甘いも嚙み分けてきた打者だと言っても差し支えないのだ。

今回ジョーイ・ボットは塁打がバリー・ラーキンの持つ3527塁打を超えるところから始まり、同じくラーキンの持つ二塁打441も並び、今年中には単独二位に上がる事が容易に想像でき、安打数も今回単独5位と記録祭りであった。

その中でシンシナティ・レッズの記録というのを改めて確認する事になった。

2,デーブ・コンセプシオンという打者

今回調べるに当たって驚く存在が目についた。
チームにおける歴代記録というのは大抵が安打におけるピート・ローズ、ジョニー・ベンチの二人で構成されるだろう、という印象を持っていた。そこにジョージ・フォスター、ケン・グリフィー・シニア、トニー・ペレズといった打撃上手が名前を連ねてくるだろう、という感じだ。
バリー・ラーキンはとかくにせよ、ケン・グリフィー・ジュニアはシアトルでの活躍が多いから本人の通算成績で絡んでくる事はあってもチームでの成績では絡んでこないだろう、という感じで見ていた。

だが、かなり一人の選手がかなりの場所で名前を見る事になる。

安打数ではピート・ローズの3358安打、バリー・ラーキンの2340安打に続き、その次がデーブ・コンセプシオンの2326安打と、ラーキンに14安打差をつけられて三位なのだ。
今日までのボットが2049安打で考えるとコンセプシオンを超えるためにはあと291安打足りない。今の成績を考えるとラーキンどころかコンセプシオンに追いつくのも厳しい。

二塁打もまたボットを除くとローズの601二塁打という破格は別として、ラーキンの441に次ぎ、三位の389二塁打。現在はボットが441打っているので単独四位になる日も遠い話ではなかろう。

そして恐らく抜けないであろう打数はピート・ローズの10934打数に対してデーブ・コンセプシオンの打数は2位の8723打席だ。
3位が19世紀の選手であるビット・マクフィー(8304)である事を考えてももはや破られることはないだろう。ボットですら6843打数である。

恐るべきなのがデーブ・コンセプシオンはシーズン打率.300を超えたことが三度、規定打数を加味すると.319の1987年は279打数と考えると、二度しかないと言って差し支えない。決して打撃が上手い選手であったとはいえないのだ。
それも1978年と1981年と言った、ビッグレッドマシーンが全盛期を終えて、解体傾向にあっての時期だ。通算打率は.267。おおよそこのようなチーム大記録を生み出すような存在とは言い難い。

トニー・ペレズ、ピート・ローズがいなくなった後、ケン・グリフィー・シニアと共に一、二番を結成して以降の打率だ。
1981年などは三番を任されていたりする。打撃を求められて仕方なく上げていくような状況と言っても差し支えない。
このオフにはケン・グリフィーもニューヨーク・ヤンキースにトレードに出されている。ジョニー・ベンチもだんだんと年を取ってきているためにファーストに出されたり、と本格的にビッグレッドマシーンは崩壊。

にも拘わらず彼はずっとショートを守り続けている。
じっと耐えるようにだ。持ち前の守備と足を活かしながら、じっと40になる1988年まで打ち続けたのだ。
彼のメジャーデビューは1970年だからおおよそ18年。ずっとショートをメインに守り続けたという事である。

確かに彼は打てるバッターではなかった。通算成績ではビッグレッドマシーンで高い方とはお世辞にも言えないだろう。
だが、18年間彼はショートを中心にシンシナティ・レッズのショートを支え続け、そしてこつこつと打ち続けた結果がチーム通算記録に多く顔をだすきっかけになるのだ。

3,記録から見える人の在り方

つい我々は派手な記録を見てしまい、そこに憧れてしまう。
ビッグレッドマシーンであればピート・ローズやジョニー・ベンチ。ジョー・モーガンやジョージ・フォスター、トニー・ペレズといった派手な打撃を応援してしまう。
しかし、結果としてチーム通算記録に名を残したのはその中でも地味な存在に当たるデーブ・コンセプシオンであった。彼はその足と守備でずっとレッズの内野を支え続け、遂には通算打数2位という名誉を勝ち取ったのだ。

もしピート・ローズがいなければデーブ・コンセプシオンが1位を取っていた称号も多かろう。
それほどローズが突出しているともいえ、打撃では突出していないコンセプシオンが築き上げてきた黄金の山であることを思い出すのだ。

コンセプシオンが積み上げてきたものは決して軽いものではないだろう。
それを引き継いだバリー・ラーキンですら抜けなかった記録は多い。彼の方が1シーズン長く現役をやっているにも関わらずだ。
コンセプシオンの偉大さというものに改めて触れる事が出来る。

そう考えるとそれらに挑戦し、一部塗り替えていくジョーイ・ボットがシンシナティ・レッズにとっていかなる存在かという事を再発見するし、必ずしも派手なプレーを出来る選手ばかりが成績を積み重ねられるわけでもないという事を我々は記録から教わる事が出来るのだ。

恐らくジョーイ・ボットはビッド・マクフィーの安打数を超える事が出来てもデーブ・コンセプシオンの安打数を超える事は無理であろう。

打率.300を9回も達成した選手が、三回、しかも打席数を考えると二回と数えていいほどの選手に通算安打数で勝つことが出来ないのだ。

これが野球の面白さでもある。
通算打率.267の男が持つ最高の記録なのだ。

だからこそ我々は、目の前の派手さだけにとらわれてはいけないという戒めにも繋がる。必ずしも派手なホームランや驚かせるほどの三振を出来る選手が最高の結末を出せるわけではないのだ。

野球はどう活躍するか、も問われると同時にどうやって生きるか、も問われる。
そういう時こそ、古の選手たちが待っている多くの成績を見返してほしい。

どうやって活躍するかを選択する事で、通算打率.299の男に勝てる.267の世界が、野球というものの魅力なのだ。


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