愛とシゴトとナイチンゲール(8)アパートの床に崩れ落ちる新人看護師の闇
新人看護師の『勤務後』は壊滅している
芽以はその日の勤務を終え、1人暮らしのアパートに自転車で帰った。就職が決まってから急いで借りたアパートは、病院を出て大通りを5分走るだけで、すぐの距離だ。玄関を開けるや否や、その場にドサリとカバンを放る。
ただでさえものぐさな性格の芽以には、仕事が終わった後お風呂に入る気力がないらしい。芽以はものぐさだけど、清潔観念がないわけではない。体が汗や汚れにまみれているので、さすがに布団には入らない。
崩れるようにアパートの床に横たわると、やっと深く呼吸ができた。今日の業務が走馬灯のように頭の中を駆け巡っていく。
「ああ~、お風呂入らなきゃ…」
でも芽以の体は、床に張りついたように動かない。
自分でお風呂に入れない吉田さんと、自分で入れるのにダラけて入らない私。吉井さんは1週間に1回しか入浴できない。自分の好きなときに好きなようにお風呂に入れないって、苦痛だろうな…。なんだかこの世は不平等だなあ…。
芽以は床に転がったまま、天井を見上げてボンヤリ考える。そのうち睡魔に襲われて床で眠り込んでしまった。
夜中の2時半を回ったとき、ハッと目が覚めた。
「ちゃんとお風呂に入ってベッドで寝ればよかったなあ」と、芽以はいつもと同じ後悔をしながらムクっと起き上がった。
就職してから、生活、めちゃくちゃだ…。
なんかもう、人のお世話ばっかりして、力を使い果たして、もう自分のことはどうでもいいって感じ。気力がわかない。これでいいのかどうかもわからない。
芽以はため息をついてシャワーの栓をひねった。もうもうとした湯気を上げ、シャアーッと排水溝に流れていくお湯をまたしばらく見つめていた。
つづく
※これはフィクションです。