現代寓話「ラッコとストーン」
これは、とある時代のラッコのお話し。
あるところに、3匹で仲良く暮らすラッコの家族がいました。
小さな子どもラッコだったヒカルも大きくなり、お嫁を探すお年頃。
両親とはもう海で流されないように手を繋がなくなり、親心としては嬉しいような、寂しいような。
ここ最近のヒカルは、自分のストーンを使ってお嫁さん探しに夢中です。
母はその姿を見ては少しヒカルをからかいます。
「も〜、家でもそれ触ってばっかりね。あ、この前マッチした娘とはどうなったの?」
ヒカルは照れ臭そうに答えました。
「いやー、どうかなぁ。ま、いつかきっといい娘を紹介できると思うよ、お母さん。」
貝を叩いて割るだけのストーンは時代遅れとなり、今となっては親の世代も自分のスマートストーンを持っています。
このストーンを使って海に出れば、どんな動物にも変身できるし、世界中の動物とテレパシーで自由にお話しできます。
ヒカルも、ストーンがなかった頃には話したこともなかったペンギンの友達が出来たり、イルカの群れに入って泳いで遊んだりするようになりました。
ヒカルの家では、家族の前で変身することは禁止になっています。
なので、家族が海でどんな動物に変身しているか知りません。
ヒカルの友達のラッコも、家の周りでこそラッコの姿をしていますが、海に出る時は別の動物に変身しています。
この海ではこんなことは当たり前。元の姿で海に出るラッコもいますが、そうでないラッコの方が多い気もします。
ある日ヒカルがイルカに変身して群れで遊んでいると、傷ついた1匹のシャチに出会いました。海底に横たわり、どうやら元気がなさそうです。
「シャチはいつも群れで暮らしてるのに、どうしたんだろう?」ヒカルが頭を傾げていると、周りのイルカたちが言いました。
「俺の妹はシャチに食べられたんだ。シャチにいいやつはいない!群れから離れていい気味だ!」
「きっとあのシャチは仲間にいじめられたんだよ。ハハ!カッコ悪いな!」
普段はシャチと仲良くしているヒカルも、群れにいるので話を合わせて言いました。
「そ、そうだね。もうここらの海から出ていけ!」
イルカの仲間たちは笑っていましたが、ヒカルの胸は少し痛みました。
「じゃあまたね。」
シャチに会ってから気の晴れないヒカルは、いつもよりも早くイルカたちと別れ、シャチの様子を見にいきました。
ストーンを使ってシャチに変身し、話しかけます。
「大丈夫ですか?」
「......。」
返事がありません。よく見ると深い傷がいくつもあり、尾びれは少し噛みちぎられています。
心配になってもう少し近づいたその時、ヒカルはあるものを見つけました。
「え...。母さん...?」
海底で横たわるシャチのそばには、ヒカルの母のスマートストーンがありました。
なんであの時すぐに助けなかったんだろう。なんであんなことを言ってしまったんだろう。
ヒカルはいくら悔やんでも悔やみきれない思いになりました。
この寓話は、オンラインサロンメモ魔塾特進科の課題として制作しました。
現代だからこその寓話をつくりたい。現代にしか作れない寓話をつくりたい。
そんな思いで作りました。
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