筑前琵琶の演奏会に
楽器をたしなまれる方は多いと思いますが、琵琶はいかがですか。
先日筑前琵琶の演奏を聴きに、福岡市の大濠公園内にある「大濠公園能楽堂」に行ってきました。
琵琶という楽器にはミステリアスな魅力を感じていました。
正直いうとちょっと怖いイメージでした。
私はもともと「大きめ」なものに恐怖心がありまして、幼少の頃にはじめて博物館かどこかで見た琵琶が思ったより大きくてショックをうけました。
自分がまだ小さかったのもあり、見なれない雫型の胴体がこわかったのかもしれません。
また、琵琶愛好家の方にはしかられると思いますが、胴体についている三日月の模様がオバケの目のように見えたのでした。
それでも子ども心にすごく気になる楽器でした。
それから数十年の月日が経ちました。
息子の幼稚園で知りあった保護者の方が筑前琵琶を演奏していらして、その演奏会にまねかれたのが生の琵琶との再会でした。
その演奏にとても感動したのはいうまでもありません。
チリーンという三味線の音色とはちがい、「ビュイーン」とひずみのある弦の音はインドのシタールを思わせて、遥か大陸のかおりがするようでした。
和服姿で朗々とうたいあげられる物語にもひきこまれました。
それから数回演奏会を訪れています。
そもそも琵琶とはどんな楽器でしょうか。
琵琶の「琵」とは弦をバチで外側にはじくこと、「琶」は内側にはじくこと、をあらわすそうです。
奈良時代に大陸から日本に伝わった楽器ですが、有名なものとして正倉院の「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」がありますね。
それから日本で独自の発達を遂げた琵琶は今では
・楽(がく)琵琶:雅楽にもちいられる琵琶
・平家琵琶:平家物語を語るためにもちいられる琵琶
・盲僧琵琶:盲人の琵琶法師が語りのために用いる琵琶
そして薩摩琵琶、筑前琵琶の5種類に分けられます。
筑前琵琶は比較的あたらしいもので、明治時代に福岡でできた琵琶だそうです。
初代・橘旭翁が楽器の改良と節まわしや歌の創作をおこなって確立されたといわれています。
よく比較されるのは薩摩琵琶ですが、薩摩琵琶は薩摩藩の武士のために作られた教訓歌などをうたいます。
動画サイトで聴いてみると、顔ほどもある大きなバチで弦をジョリっとこすったりたたきつけたりする演奏にのせて、荒々しい声色で歌う姿がダイナミックで爽快でした。
筑前琵琶はそれに比べて楽器自体もバチも小ぶりで、音色も高くやわらかく感じます。
薩摩琵琶にくらべて控えめではありますが、歌詞がききとりやすく物語のすじそのものをメロディアスな曲調とともに楽しめる、というのが私の印象でした。
演奏会では「耳なし芳一」や「貧女の一灯」など物語そのものがおもしろいものが多数ありました。
今でこそオーディブル(本を読み上げるサービス)などで読書をしてはいますが、生の琵琶演奏にのせてストーリーをあじわうというとても贅沢な時間でした。
今回記事を書くにあたりさまざまな琵琶の種類をしらべて、ききくらべてみました。
また、「ノーヴェンバー ステップス」という琵琶、尺八、オーケストラのために作曲家・武満徹さんがつくった楽曲があると知り、動画で聴いてみたり…と、おかげさまでとても充実した週末になりました。
たった一面の琵琶ですが、そのひきがたりは聴覚刺激でありながら視覚的な情景をつくりあげる力が他のどの楽器よりもあるように感じます。
(個人的な意見ですが。)
それは琵琶という楽器がもつ特性と、そこに日本人の感性が加わり変化をかさねてきた歴史があるからだとおもいます。
日本人は大陸より入ってきた文化をそのまま用いるのではなく、アレンジすることが得意なのだと文化人類学の本で読んだことがあります。
感情をおしころすことが美徳とされ控えめな表現を好みながら、それでも根底には荒々しく攻撃的な血がわきたっていること。
それら全てが5種類の琵琶の中にある気がします。
日本人の精神がかき立てられるのかもしれませんね。
最後に…日本文化にふれるたびにつくづく思うことがあります。
中学・高校時代に「古文なんて勉強してもつかうことはない」と思っていましたけれど、古語やふるい言いまわしをほんの少しでも知っているおかげで日本芸能の理解度がちがってきます。
能、狂言や今回の琵琶の演奏などをみるにあたり、いにしえの物語を母語のまま味わうことができるというのはありがたいことです。
「日本人でよかった」と思うとともに「古文を勉強していてよかった」と思うことはきっとありますから…
学生のみなさん、どうぞ毛嫌いなさらずにお勉強してみてくださいね。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
ナース刺繍は現役看護師兼、刺繍家の私が人体や医療をモチーフにした制作活動をおこなっています。
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