[NUProtein 南 #006] タンパク質生産のボルトとキプチョゲ
(ヘッダー画像の、女性ボクサーは、モハメド・アリの娘さんです。
で、横の英文は、モハメド・アリの言葉でアディダスのスローガンの IMPOSSIBLE IS NOTHING、日本語訳は『不可能なんてくそくらえ』あるいは『不可能なんて意味がない』、の全文になります。好きな文章の一つで、かつ、スポーツ系ということでご容赦ください)
Twitter ( https://twitter.com/nuproteincoltd )で、コムギ胚芽由来技術はスプリンターのボルトで、イネ由来タンパク質合成技術はマラソンのキプチョゲ、また、イネ由来タンパク質合成を確立するためのアライアンスメンバーをドリームチームと書かせて頂きましたが、非常に感覚的なメタファーですので、少し説明させて頂きます。
コムギ胚芽由来タンパク質合成技術=スプリントのボルト
当社のコムギ胚芽由来タンパク質合成系の大きな特徴は、1日で機能性タンパク質が合成できる点、がまず挙げられます。馴染みのない方も多いかと思いますが、機能性タンパク質を合成する場合、従来はタンパク質の設計図となるDNAを大腸菌等に導入し、大腸菌に細胞の中でそのDNAをもとにタンパク質を生合成させます。
この大腸菌を培養して増やすことで、大量にタンパク質が生産されることになります。大腸菌にDNAを導入して、タンパク質を大量に生産させるまでは短くて2週間程度かかります。更に、動物細胞(例えばハムスターの卵巣細胞を癌化させて大腸菌のようにどんどん増殖するようにさせた細胞)にDNAを導入して同じように生きた細胞の中で目的のタンパク質を合成するようにし、この細胞を増殖させることにより大量にタンパク質を生産させる方法もあります。この場合は、動物細胞の増殖時間等の関係もあり、更に時間がかかります。
これら既存の技術に比べ、当社のコムギ胚芽由来タンパク質合成系は、DNAをPCRで増幅して、この増幅されたDNAからmRNAを作り、このmRNAとアミノ酸、さらにタンパク質合成のマシーンを含んでいるコムギ胚芽のエキスを混ぜて室温で10時間静置するだけで、タンパク質が合成できます。即ち桁違いに速くタンパク質を合成できます。
当社のコムギ胚芽由来タンパク質合成系の次の特徴は、未精製で細胞培養に使える点です。
既存の先に述べた、大腸菌でタンパク質を合成する場合は、大腸菌はグラム陰性菌というものに分類され、その細胞壁は、下痢等を引き起こすエンドトキシン(内毒素とよぶ多糖類)から構成されています。このエンドトキシンは細胞にとっては毒となりますので、細胞培養だけでなく医療用途でも非常に高度に取り除く必要があります。また、一般的にこの不純物を取り除く精製費用は、合成費用の2倍程度かかると言われています。
動物細胞を用いてタンパク質を合成する場合、こんどは別の厄介な問題が発生します。それは、もし未知のウィルス等が含まれていれば動物細胞に感染して、合成できたタンパク質にもそのウィルスが入っている可能性があり、それが人に感染する懸念がでてきます。この点で、医療向けの規制として、動物由来原料基準というのがあり、極めて厳格に動物由来原料、この場合は動物細胞等、血清等を使うことの管理ルールが決められています。
翻って、当社のコムギ胚芽原料は、食用小麦粉を生産する際に副産物として産生される食品グレードのコムギ胚芽を使っており、タンパク質を合成後の植物由来物質を含む溶液の中には、細胞増殖を阻害する物質が極めて少ないため、そのまま未精製で細胞培養につかえることが分かっています。このようにタンパク質合成後の溶液がそのまま細胞培養に使える点は現状私が把握している範囲では、当社技術が 唯一 となります。
如何でしょうか?その分野で世界唯一で速い、ということで、想起したのがボルトでした。(なかには、時速1,200 kmをたたき出した、ブラッドハウンド等のコアな乗り物を浮かべる方もおられるかもしれませんが)
遺伝子組換イネ由来タンパク質合成系=マラソンのキプチョゲ
ここまで読んで頂ければ既にお察しかと思いますが、これから作り込む、遺伝子組換イネでのタンパク質合成は時間がかかります。イネですので、通常のイネのように幡種してから収穫まで4か月程度です。なら、メタファーとしてはウサギとカメが妥当ではないかと、SNSでディスられそうですが、そうではなく、なぜマラソン世界王者のキプチョゲのメタファーなのか、について説明させて頂きます。
まずイネについてですが、梅雨時の田植えのイメージが強いのですが、イネは多年草です。すなわち、非常に再生力の高い生命力を持ち、その種子の米は世界三大穀物の一つです。で、小麦、とうもろこしに並ぶ世界王者候補です。
次に米は、アレルギー特定特定原材料等28品目ではないです。アレルギー特定原材料等28品目には、穀物では、ピーナッツ、大豆等ありますが小麦も含まれています。 冒頭お話ししたコムギに関しては、当社が使うのは胚芽の方なので問題ないのですが、胚乳の小麦粉にはグルテンが含まれるので特定原料にリストされています。ここで、食品用という点では、コムギ(正確にはコムギの胚乳)が脱落し、トウモロコシとイネが世界王者を争うこととなります。
いよいよ、タンパク質合成能力での比較ですが、玄米(陸稲穀粒)のタンパク質含量は、100グラムあたり10.1グラム、トウモロコシ黄色種は、100グラムあたり8.6グラムとなります(両データの出典:日本食品標準成分表2020年版)。
すなわち、陸稲ではありますが、種子にタンパク質を蓄積させる能力は、コメが世界三大穀物中一位となります。(消化されにくいタンパク質を多く含むためにあまり話題にならなかったのだと思いますが、茶碗1杯のごはんを食べると、実は、その中にタンパク質が15グラムも含まれているのです。)
ということで、世界三大穀物であって、タンパク質含量が多く、しかも、抗原性が低いのは、イネ(コメ)という結果となり、極めて狭い視点ですが、世界王者です。すなわち、他のレースに比べてゴールまでの時間は長いが世界王者、じゃあキプチョゲだな、となりました。
ボルトとキプチョゲの将来
更に、イネは多年草ですので、一回種を播けば、何回も収穫できるのではないか、と思って調べてみると、日本では小川誠氏が"稲の多年草化栽培"を実践されて広めるために合資会社 大家族を作っておられるようです。不耕起栽培と併せて大変地球にやさしい栽培法のように思います。
一方、イネは自家受粉で隔離距離が30mと短いものの、日本では遺伝子組換イネとして利用する場合、人工光型閉鎖型植物工場での利用が必要です。
ただ、イネは年中温暖・暑い地域で、不耕起栽培で再生多期作、すなわち、自然光で、栄養は土からの栄養だけで、一度種を播けば勝手に分げつして、無限に収穫ができるかもしれません。その際は、ほぼゼロコスト・ゼロエミッションで地球環境に色々な面で多大に貢献する、究極のタンパク質合成系、タンパク質の水道哲学の完成、と考えています。
昔、日本発の小麦農林10号がグリーン革命で世界の食料不足を救ったように、日本発のコムギ胚芽系タンパク質合成系と、日本発の遺伝子組換イネによるタンパク質合成系が、培養肉等を通して気候変動・タンパク質危機を緩和・解消できるのではないかと考えています。
以上、少々唐突な比喩とか将来ビジョンですが、詳細については下記イークラウドの当社案件情報をお読み頂ければ、背景をご理解いただけるのではと思います。
是非ご覧ください。
今回もお読み頂きありがとうございました