思いやりエレベーター
僕と僕の上司は、正直言って馬が合わない。
僕は仕事を適当に捌いて、丸く収まればOKタイプだが、上司は論理の完璧さを求め、マイルールが結構強めなタイプである。
よって、上司の目に映る僕は「ダメなやつ」だろうが、僕の目に映る上司は「思いやりのやつ」だ。
今日も憂鬱さを感じながら一日を終え、執務室を出てエレベーターに乗ろうとすると、下りのエレベーターが到着したことに気付いたトサカ頭のイカつめ男性がこちらに向かって走ってきている。
流石に、無視するのは違うので、エレベーターが閉まらないよう手で抑えながら、彼を待った。
乗り込んできた彼のトサカは予想以上に高く、またこの時間になっても1ミリも崩れていないであろう形をしていた。相当ヘアスプレー振りまいているのだろうか、なんてことを考えていると、すぐに1階まで着いた。
すると彼は、見た目も髪型も完全に年下の私に対して、
「お先にどうぞ」
と言ってきたのである。久々の思いやりに少し狼狽えたが、私も負けじと、
「いえいえ、お先にどうぞ」
このやりとりを恐らく5往復はした。
体感は1分くらいあった。
最後は彼が痺れを切らし、御礼を述べて降りて行ったが、凄まじい思いやりの押し付け合いだった。かなり久々の思いやりだったこともあって、その押し付けられた5回の思いやりでも足りないくらいだし、もっと押し付け合いたかった。
エレベーターから降りた彼は、革靴の音をエントランスに響かせながら足早に去っていった。
まるで鶏…
明日も誰かと思いやりを押し付けあいたい。