日記:独善の言い訳

自分が日記で日記そのものについて触れ始めたら、書くことがないんだなと思ってください。


日記を書き始めたのに理由はなかった。毎日書き始めるようになったのも4月27日という半端な日付だし、それも何かきっかけがあってのことではない。ただなんとなく、憧れがあっただけだ。日記を書くことで日々の手触りを繊細に拾い上げる、そんな営みに憧れただけ。自分はその形を真似ているに過ぎない。しいて言うのなら、日記を書くために日記を書いている。

それが悪いと言っているわけではない。日記とは本来、ただ自分に向けられた孤独な行為であるからだ。閉じた世界でどのような言葉を綴ろうとそれは本来自由であるはずだ。

しかし私はそれを人の目に触れる場所へと持ち出している。日記に対して原理主義的な価値観を持つ人からすれば異端の謗りを免れないのかもしれない。……いや、これも違うな。自分が承認欲求に駆られて日記を書いているという罪悪感から目を逸らそうとして、日記を書くことそのものを悪に仕立て上げることで誤魔化そうとしているだけだ。日記の原理主義者などという存在しない者を持ち出すことで自虐に浸っているに過ぎない。


話が逸れた。脱線しようともテキストなんていくらでも修正が効くのにそれをしないのは、日記ということを免罪符にして取り留めのない思考の綴りを正当化しているだけの怠慢である。自分だけが読むならまだいいけれど、少しは人に読んでもらうということを前提にホスピタリティのある構成を心がけるべきではないか。自分の思考回路をただそのまま垂れ流しにするのは余りにも独り善がりだ。いま「独り善がり」が「独善」という熟語につながってることに気がついたけれど、こういうことを書かずにいられないのが独り善がりだって言ってるんですよ。わかっているんですか。

こうしたお人形ごっこのような自分との対話は書くのに比較的労力がかからない。そして自分は「日記を書くために日記を書いている」だけだから、簡単に易きへと流れていく。本当は今日触れたものに対する感想や考えを書くべきではないかと思うものの、そうしたものは時間が掛かってしまう。それはきっと自分と世界との折り合いをつけていく行為で、他者と関わってくことはそれだけで自分にとって疲弊を生むものだからだ。そんなことを言っていてはずっと閉じた世界で生きていくしかないのだが、今の自分がしていることはつまりそういうことだ。自分に宛てているだけの言葉。それも、現在の自分ではなく、過去の積み重ねた自分に対し意味もないソナーを投げかけているだけ。それで何が明らかになるという訳でもなく、ただどうしようもない自分という暗闇があるだけだ。


言い訳が長くなったけれど、もっと自分以外の触れたものだとか、現在の自分の足跡だとか、そういうことを書いていくべきなのかなと思った。でもこれは決意でも何でもなくて、明日には違うことを書いているかもしれない。だからそれも含めて言い訳である。自覚的であれば何をしてもいいという訳でもないのだけれどね。法律で言えば、何も知らない善意より、それを知っててやっている悪意の方が罪が重いのだから。



言ったその日くらいは自分の言葉に殉じるべきかと思うので、世界の話をしたい。とはいえ自分の触れる世界とは大抵が虚構の物語なのだけれど。要するに感想を言いたいねというだけの話。


何を今更……という感じなんですけど、最近「ちいかわ」を最新の投稿まで追いつきました。なんとなく流行っているらしいということは知っていて、でも自分の周りでちいかわをRTしたりする人があまりいなかったものだから、個人的にはこのタイミングでも「インターネットの面白いお話を見つけてしまったな……」くらいのしたり顔でいたのだが、既にファミマでグッズが売っていたりコラボカフェが開催されていたりして、そのコンテンツ力たるやインターネットの一部で盛り上がっているという認識では収まらない。

基本的にはその見た目に相応しくゆるい感じの日常が過ぎていく。だが時折、極めて冷徹な現実が顔を覗かせることがあり、ゆるく見えていた日常はその可愛らしい外見がそう錯覚させていただけで、ちいかわがただ衒いもなく目の前の現実を生きている一コマを写し取っているだけに過ぎないと気付く。ちいかわは小さくてかわいいやつかもしれないが、その世界は小さくもかわいくもない。理由のない不運は起こるし、どうすることもできない「何者か」も存在する。かわいい物語を読んでいると忘れそうになる現実の鋭さを、ふとした瞬間に突きつけてくる。だからこそ、それを克服していくちいかわたちの姿に胸を打たれる。その克服も決してファンタジーな解決ではなくて、地に足をつけて歩いていく存在から発せられる叫びが籠められている。


そんなことをヨコオタロウさんのツイートを見て思った。不意に来るちいかわはね……なんだか重いんだよね……。


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