『百瀬、こっちを向いて』中田永一
✨あらすじ✨
「人間レベル2」の僕は、教室の中でまるで薄暗い電球のような存在だった。野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が、僕の彼女になるまでは―。しかしその裏には、僕にとって残酷すぎる仕掛けがあった。「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった…!」恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。─「BOOK」データベースより
✨感想✨
『百瀬、こっちを向いて』
大人で言う不倫の隠蔽を子どもに置き換えるとなんでこうもみずみずしく生き生きとしているのだろう。
その前に子どもの堂々たる二股を作品にするなんて、なんて面白いんだろうと思った。
渡したくなんかない。でも、所詮自分は2番手。でも彼は私を好きって言ってくれて…たったそれだけでうぬぼれる私を君はただ寂しそうに見つめてくるから、余計にそっちを向けないよ…、みたいな作品。
『なみうちぎわ』
まるで秋なのにひとりぼっちで生えているまっすぐな若葉のような作品。
寂しさの中に誰にも犯せない柔らかな領域がある。
『キャベツ畑に彼の声』
読後、胸の中が透き通っていくのを感じました。まだ制服が板に着いている少女の秘めたる恋。その相手は学校の教師でり、憧れの作家でもあった。テープ起こしで何度も聞こえてくる先生の声。窓から見えるまだ幼いキャベツ。作品の細やかな描写ひとつひとつに味わいや意味があり、とくんとくん、と鼓動が穏やかに波打った作品。
どの作品も終わり方からの続きが気になる作品で、余韻が心地よかったです。