和装する日は冠婚葬祭だけじゃない! ①インスタ映え着付
平成一桁…いや半ばくらいまでだったでしょうか? 電車の窓の上部は名だたる結婚式場・ホテルのウェディングプランの広告であふれていて、当時独身だった私は白無垢やドレス姿のモデルさんの写真を眺めながら、”この値段でも無理無理無理”などと心の中でツッコミを入れていたものです。
最近このスペースは脱毛・発毛・IT企業の広告が多くを占め、ブライダル関連は情報誌またはサイト・婚活アプリのものがチラホラあるかといったところでしょうか。
私は着付師に転職する直前まで、着付の仕事は冠婚葬祭と直結だからなくならないと思っていました。そこにまさかの新型コロナ禍。何が起こったかはここで説明するまでもないでしょう。
私が最後に通った着付教室の先生は「お葬式の着付はあるわよ」とおっしゃっていましたが、葬祭業専門の求人サイトを見てもそれらしきものは見当たらず…まあ、これは葬儀屋お抱えの美容師が既にいるからでしょう。
やがてコロナ禍が収束し、マスク着用は個人の判断でと言われるようになった頃、私はホテルの美容室で働いていました。正社員ではなかったので、シフトに入っていたのは大安・友引の休日と、準備・片付けがある日だけ。やっていた仕事はアシスタント業務で、列席者着付すらろくにやらないうちに辞めてしまいました。理由は旧Twitterで呟いたことがあります。
この仕事に携わって、冠婚葬祭は人を「集められない」から「集めない」へと変化しているように感じました。
大手の着付教室を卒業直前でやめたとき、”婚礼着付は現場で覚えよう”と勇み足だったのにこの有様…
なので私、婚礼着付ができません!
できるようになりたいという思いに変わりはありません。そしてフォーマルな着付が減ったとはいえ、ゼロになることはないので覚えたスキルを忘れないようにしないとならない。でも仕事としていくには、できる人達の中で取り合っている現状、新規参入は困難な様相を見せています。
現在、私がニーズを感じているのはいわゆる「インスタ映え」の着付です。
これらは大抵、俗に言う「着物警察」の人が見たら仰天するようなコーディネートで、私も着付教室で習っていた頃は”なんじゃこりゃ?”って思いながら見ていました。
ですが以下の展覧会がきっかけで、考えがガラッと変化したのです。
着物好きの方なら行った、あるいは名前は聞いた、という方が多いのではないでしょうか? コロナ禍の真っ只中、2020年の開催で入場可能人数と鑑賞時間制限があるにも関わらず、私は半日も滞在して鑑賞していました(もちろん、密にならないよう気をつけながらです)。
そこに展示してあった大正時代から昭和初期の着物の数々。素材・型こそ和服ではありますが、絵付はシャンデリア・洋館・帆船など、大胆な西洋のモチーフでビックリ! そして普段着の銘仙もポップでかわいいデザインばかり!
”なーんだ、こういうの昔からあったんだ” 私はこれらにものすごく衝撃を受け、凝り固まった頭脳がほぐれるような感覚になりました。
そういえば私が生まれている昭和後期にも、新しい着物が生み出されていました。
中森明菜さんの「DESIRE」の衣装(デザイナー:紫藤尚世さん)。私の中では今でもダントツで記憶に残っている、アイドル歌手のステージ衣装です。
着付ができるようになった今、改めて見てみると斬新さだけでなく、激しくダンスしても着崩れない、そして窮屈でないデザインであることがわかります。これぞ「着物はこう着るべき」という思考から解放された作品の先駆けだと思います。
「DESIRE」から約40年-洋服のように身に纏う平成・令和の着物は、華やかなステージではなく、街なかで見かける物になっています。
私も数年前からレース着物などを着付けるようになりましたが、和服縛りがなくなるとデザインやコーディネートのアイデアを生み出すのが楽しいし、1枚の着物(レース着物でなくても)が工夫次第で街歩きからパーティーまで幅広く対応できるので、実はコスパ的にも悪くないんですよね。
スマホがあれば「どこでもステージ、誰もが主役」となれる時代。ハレとケの境界は、良くも悪くも何だか曖昧になっているような気がしています。