イースタッド動物園
週末の天気予報は、秋晴れだった。スウェーデンに住んでいると、天気の良い日に外に出ずにはいられない(特に長い長い冬が訪れる前)ので、日曜日はイースタッド動物園に行くことにした。前日の土曜日は終日を費やして翌日の準備と心構えをして、心身を備える。しっかり身構えてから出かけないと、子ども二人連れの外出ともなれば、身が持たないのだ。そして日曜日の昼に近い午前、まずはリーデルに寄って昼食とおやつを買い込んでから、動物園へと出発した。小さな規模の動物園なのでレストランは園内に一つしかない上に、わざわざ高いお金を出して、ハンバーガーを食べたくはない。スウェーデンの外食は割高で、そしてちゃんとしたレストランに行くのでなければ、おいしいとはいえないことが殆どなのである。車窓が楽しくない高速道路を避けて、農場や畑に挟まれた田舎道をゆっくりと、南東に向かって走る。途中、カーナビが変な場所で左折を指示しながらも、どうにか昼前には目的地に到着することができた。出発時間が遅くなりがちな我が家にしては、上出来だった。
園に隣接した駐車場はどこからどこまでが駐車スペースなのかよく分からないが、昼前で既にたくさんの車が停まっていた。朝からぱあっと晴れた日曜日、もっと訪園客がいてもいいのではと思うけれど、入園料の高さを考えれば、一年にそう何回も訪れるものではないのかもしれない。年間パスポートを買うのであれば、別だが。大人二人と子ども一人で合計495クローネ(約6300円)を支払い小さな入り口を通り抜けて少し先を行くと、小ぢんまりとした児童公園と甲高い鳴き声を立てる鳥小屋がある広場に出た。それは来る前に、私が想像していた小さな動物園の様子そのものだった。鳥を観察してから広場を出ると、次は山羊の囲いとミニブタの囲いがあった。山羊は囲いの内側に入ることができたので、久しぶりに山羊の体に触れた。どこの山羊も、山羊は人に撫でられたり草を突き出されたり、されるがままだ。ここの山羊も例に漏れず、大人しく人間の子どもに付きまとわれている。それでも体をブラッシングされるのは、喜んで受けれ入れているように見える。実はこれも、ただされるがままだったりして…。
広場の道を右に選んで進むと国立公園のような木に囲まれた細い道が続き、軽いハイキングをしているという感じだった。視界が広がって広大な園内が目に飛び込んでくるも、かなり遠くに鹿のような物体がぽつんと見えるだけで、動物園というよりかは牧場といった雰囲気である。ほぼ動物の姿は見えないけれど、見晴らしのいい場所にあったピクニックスペースの椅子とテーブルで、買っておいたお昼を食べた。雲がなく青天の日で、外にいると日差しが暖かかった。上着を脱いでも寒くないくらいで、今年最後の夏日を感じられる日だった。そのようなとてもいい天気の日に、半牧場半動物園を訪れたのは、正解だったろう。お昼ご飯を食べた後、この先もかなり歩くことになるのだけれど、天気の良さがその辛さをカバーしてくれた。本当に、いい天気の日だったのだ。
丘を下るように歩いた後は、牧場を散歩するといった感じで、ぐるりと弧を描くように園内を歩いた。道の端まで辿り着くのに、真っ直ぐ歩くだけでも、結構遠かったように思う。その間、カピバラやアルパカ、バッファローとヘラジカを見た。成体と幼体のカピバラの群れは、小さな池の辺りに放たれていた。日本のどこかの水族館、しかも展示ガラス越しでしかカピバラを見たことのなかった私は、水辺で悠々と寛ぐその姿に衝撃を受けた。簡単な木の柵の仕切りが一つあるだけの、自然をそのまま利用した展示だった。子カピバラ達は水際で大量の蝿と共に、体をくっつけて乗ったりし合って遊んでいた。カピバラってこんなふうに生きているんだなと、初めてカピバラについて考えたように思い、カピバラについて何も考えてこなかった自分を恥じた。施設の広さの大小を問わず、どのような施設であれ生き物を扱うのであれば、ここのカピバラのように自由に呼吸ができる場所で飼育して欲しいと、私は心から願う。特に、日本の動物園や水族館に変わっていって欲しい。ほんの少しずつであっても。
とにかく、園内はのんびりとした雰囲気がそこらじゅうに溢れていた。また同じことをいってしまうが、本当にいい天気の日だったので、芝生の丘からの眺めがとてもよかった。恐らく今年最後になるであろうスウェーデンの夏の日差しを、十分に味わった。これからやってくる、暗くて長い冬に備えて。
丘を下った後、ラマやアメリカ・レアが闊歩する様子を眺めたり、大きなフタコブラクダが餌を食べる様子を間近で見たりした。近くで観察してみると、ヒトコブラクダとフタコブラクダでは、毛や体つきなどの見た目がかなり違うということに気がついた。数年前に一度、モロッコの砂漠でヒトコブラクダに乗っただけでの比較だけども。
園内の三分の一を見終えると、体が疲れを訴えてくるのが分かった。でこぼこ道をベビーカーを押して歩いてきたので、仕方がない。閉園時間に間に合うように少し急足で動物を見ながら、ワニがいる展示室に向かう。お菓子でべたべたになった子どもの指が、ワオキツネザルにぺろぺろと舐められていたのが、おかしかった。こんなことをしてもされても、だめだとは思うけれど。園で最後に見たワニは小さい展示室に入れられていて、がっかりしてしまった。ワニワニ〜と楽しみにしていた子どもも、大きな箱に入れられたようなワニの展示に、興味を失っていたようであった。ワニは、小さな展示室に入れられていても、ストレスを感じないのだろうか?デンマークにあるワニ園のワニの展示室も、緑は多く設らえてはいるものの、大きとは言え難いものである。どこのワニの展示も、みな一様に小さいものなのだろうか?自分に問いながら、湿度が高くて息苦しくなり、ワニの展示室を出た。日本でのワニの扱いはどうなんだろうと思うも、日本の動物園か水族館か、どこかでワニを見たことがあるのかどうかは、覚えていないのだった。
ワニを見た後は、入り口近くの遊具で閉園のぎりぎりまで遊び、最後の客になりながら園を出た。夏にはプールがあるらしいので、次は年間パスポートを買ってまた来ようかと思う。